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高速道路と犬
コロンボの都市部をコマネズミのような歩き回る。フォートエリア、コロンボ04、コロンナーワ、ペリヤコダなど郊外にもいった。
現地の人やコロンボに何度も行っている人が一緒にいるため、僕は言われるがまま車に乗り、ひたすらに車窓から喧騒を眺めつつ、配達業者のようにあっちからこっち、またいって戻るを繰り返した数日、疲労も少しずつ溜まってきた。
知らない道、初めて訪れるオフィス、いつのまにか土煙を出して叫ぶクラクションにも耳が通常音として受け入れてきたのがわかる。
色んな景色や音が頭の中を一周して、僕はどこかテレビを観ているような感覚で目の前の世界を俯瞰していたようで、スリランカにいるのもどこか他人のような気持ちにもなっているのは心がまだビジターなのだろう。
そんなある日、クルネーガラへ日帰りでいくことになった。コロンボから片道約100キロくらいか。現地の関係会社から車とドライバーさんを手配した。あいさつをすませ、1日長距離を走ってくれる屈託のない40,50代くらいの、手配した真っ赤なコンパクトカーにはおよほ似合わない長身の男性に遠慮して、静かに車内から外を眺めることを僕は決め込み、窓から見えるコロンボの日常、クルマ同士が我先にと隙間を取り合い混雑する景色を眺めて。
ここスリランカには出張できていて、コロンボでは現地の会社へ訪問を繰り返していたのだけれど、恰幅のよいギラギラしたブレスレットをした社長さんや、アメドラに出てきそうな派手なオフィス構えていた会社にも行った。
コロンボ04だったか、天までのびる高層ビルが群がるオフィス街のフロアにあった会社では働いている人たちはみんな英語が流暢で、外を駆けている人々とは服装から違って、日本のベンチャー社員のような軽快でラフな格好で働き、意図的に照明を落としたモダンな空間で「さぁ、ミーティングルームでコーヒーでも飲みながら話しましょう」なんて僕の手を取り案内してくれる。
もっと殺伐として、雑居な空間で、現地語がうるさく飛び交い、車と喧騒が入り混じる外のエネルギーが聞こえてくる中で忙しく過ごしているのだろうと想像していた自分が恥ずかしい。
またこの洗練されたオフィスにいるのが場違いではないかとも萎縮してしまう。
ものすごく歓待されつつ、ホワイトベースのメインブリッジのようなミーティングルームで話をしていたら、その会社の社長さん―30代くらいの若くてイケイケなーのお母さんだろうか、現地のトラディショナルな衣装に身を包み歓待してくださった。
ゆっくりと部屋を行き来し、わざわざ目の前で紅茶を垂らしてくださる手際が無駄なくとても美しい。
静かにおもてなしをしてくれた。
そのモダンな空間の中で一人時がとまっているかのような姿と慎ましい姿に僕は会議の話など耳に入らず、お母様の動画ややわらかい物腰に魅入っていた。
今回の出張は顔合わせすることが主な目的で、特に自分で物事を進めたり、判断をしたりすることも少なく、色んな場所に行って色んな初対面の人と話をする、とても受け身な時間が多く気疲れをしてしまう。
でもスリランカの人はよく歓迎してくれる。豪華な食事をごちそうしてくれたり、今から呼ぶよとスマホを取り出し、色んな人を紹介してくれたり、時にはちょっとした伝統的な歓待のセレモニーなんかも開いてくれて何度も恐縮してしまうことに自分のナショナリズムを感じさせる。
これからの末永い付き合いを望むための布石だったのかもしれないが、スリランカの人たちは底抜けに明るく、
「日本からわざわざありがとう!宴じゃ!」と逃さないよう僕の肩を抱き、連れて行かれる先には勢いよく焚かれる炎、人々は火を囲み卓には豪勢な食事が並ぶ。そんな座の中心を指さし、あなたはあそこに座りなさい、さぁ!
ともいわんばかりの光景が何度もあって恐縮した。とにかくもてなしかたが豪快なのだ。
そんなわかりやすいもてなしをしてくれたスリランカのホスピタリティは熱気があって好きだ。
話は脱線した。
さてコロンボから手配した車に乗り郊外へ。
都市部の渋滞をくぐり抜け、高層ビルは姿を消し、景色はコンクリートのグレーから田畑の緑が交わるようになった。
あれはクリケットのスタジアムです、この道はいつも混んでいます、
あのビルでは自動車部品が作られていますなど、
道中ドライバーさんが見える景色を丁寧に案内してくれた。
しばらく進むとまた車通りの多い道に出てきて、車はメインの道からそれた。すると一方通行の細い道をあがり、料金所が見えたところで思わずあっと声が出た。車は進む、目の前に現れた大きな道路へ合流すると、大きな、どこまで伸びているかわからないくらい先まで伸びた高速道へ入っていく。
日本の高速道路だ!
まさかスリランカにも同じような道があるなんて知らなかった。
まだできて浅いからか、有料だからなのかわからないがこの真新しくただっぴろい高速を利用している車はまばらで、防音壁もなく、スリランカの緑の大地が突き抜けるように視界に広がっていき、眼光も同化してゆく。
空気が悪いのか少し視界は白っぽい。ただなんて爽快なんだろう。軽快に走る車の窓から見た高速道路からのスリランカはどこまでも僕の心をつかんで離さない。
ドライバーさんも渋滞のストレスがなくなったのか、ここは最近できたこと、いつかこの高速はコロンボ市内近くまで延伸されること、近隣の街のこと、家族のことなどたくさんのことを話してくれた。
道はどこまでもまっすぐ伸びていくー
これがずっとつつけばいいなー
そんなことを考え続えつつ車窓から見える少し赤っぽい大地と、濃い緑の木々を眺めていた。道中特に変わり映えのしない景色ではあったけれど全く飽きることなくストレスのない高速道路から降り、再度下道へと戻っていった。
クルネーガラとうところまでいったのだが、高速を降りてからもひたすら進み続けていく。小さな町をいくつか通り過ぎ、道は緩やかなカーブがいくつも続いて決して楽な道のりではなかったと思う。僕はその国のローカルな景色が好きで、昔からあるような建物、朽ちた家、きんじょの人が立ち寄るようなミニストア、そして地元民が間近で見れるのが楽しくてずっと外を見ていたが、一緒に同乗していた人は右や左にうねり、舗装が十分でない道に酔ってしまい、後部座席で目をつむり、自分の悪魔とものすごい苦悶の顔をしながら戦っている様子だった。
開放的な小さな家の前で寝そべる犬、
車が通る道路脇で何食わぬ顔をして眠りこける犬、そこが涼しかったのか、他人の店先で堂々と横たわる犬、
この日は長距離を移動したからか、色んな場所で犬を見た。
彼らは常にけだるそうで、ほとんどの犬はアスファルトの上で寝そべって至福な時間を過ごしているのか、またはただ1日をやり過ごしていたのか。
高速道路と犬、これが僕の中で今でも鮮明に残っている景色。
夜も本格的な時間にホテルへ帰着。バーで酒を飲んだのち、ベットへ。
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