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このチキンラップはどうしても大きな水のほとりで食べたいと思った
まだまだニューヨークひとり旅の思い出話は続きます。いつも楽しんでくださりありがとうございます
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この日、私はニューヨーク証券取引所を訪れていた。今となっては笑っちゃうんだけど、 「ニュースでよく見聞きするあの場所」という完全なミーハー心が動機だった。
初めて行ったのに、何故か良く知っている外観。
たぶん今まで目にしてきた中でも相当上位にきそうなほど大きなクリスマスツリーが飾られていて、ビジネスの場なのにおしゃれだなぁと思ったことを思い出した。
年末年始にFacebookを開いていたら当時の写真を見つけたので、載せてみる。
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ニューヨークを訪れてはや数日。
脳というのは不思議なもので、ある時を境に人々の間で飛び交う言葉たちや英語の標識が何を意味するのか何となくわかるようになっていた(正確にはわからないが、あくまで何となく、である)。
解像度が上がってより過ごしやすくなったニューヨークの街はより一層魅力的で、同時に私自身も着いたばかりの時より遥かにコミュニケーションに積極的になっていたと思う。
そう感じたのは、何かを欲して他人を頼った時だった。
早朝の時間に証券取引所を訪れたあと、なんとなく外で朝食を取りたくなってドラッグストアとデリが融合したみたいなお店に入った(スーパーマーケットとも違った、何ていう業態だったんだろう)。チキンラップと書かれていたクレープ状のサンドイッチを買い、近場に公園がないか地図を広げると、上の方に大きな水が見えた。
水。水辺は好きだ。少し歩いてここに行こう。
そう決めて向かった。
道の途中で、飲み物を買い忘れたことに気づいた。それと同じくらいのタイミングで、路上に食品販売のトラックを見かけた。私の行った当時、キャラメルみたいな香りのするナッツ屋さんとかプレッツェル屋さんとかの、屋台というかフードトラックがそこかしこにいらしたのだ。こんな早い時間からやっていて、しかもお客さんがいる。生きている街の、細胞だ。あそこでなにか、温かいものを買おう。
そして向かったはいいものの…お会計とかをするカウンターがあまりに高い!わたしはあまり背が低い方ではないが、それでも目一杯首を伸ばして呼びかけないと会話が難しいくらいの距離感だった。参った!わたしはココアが飲みたいのに!
すると側にいた別のお客さんが声をかけてくれたのだ。ねえきみ、何か欲しいの?
私は、それまでだったらすみません大丈夫ですと答えていただろうが、その時はココア欲しいです…すみませんお願いします…と言ったと思う。その方がテキパキと注文してくれて、額を教えてくれて、私の手渡したお金を中の人に渡して、1リットルはあろうかという巨大な紙コップを受け取り、くれた。
でっけえ…
記憶の中の紙コップのサイズを思い出しながら定規を見てみたら、高さ20センチ近くあった。
今もまだ、あの日の朝に受け取ったココアよりでかいココアに巡り会えていない。
それでも、本当にありがたかった。
期待していた温かさで、期待していたよりもずっといい香りだった。
覚えたての、ありがとう!良い1日を、という挨拶を伝えて散歩に戻った。カバンにチキンラップ、左手に地図、右手に1リットルの熱々ココア。ついでに言うと体はもふもふのダウンジャケットに包まれ、ニット帽をかぶっていた。思い返すと笑えてくる。上機嫌で朝の街を進んだ。
着いてから、そこがハドソン川だと分かった。
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この光を、私はきっと忘れることはないだろう。
明るいのにまろやかで、強いのに優しくて。
波打つ大きな川は音も立てずに流れていき、私だけが時間を止めたみたいにボーッと立ち尽くしてこの景色を眺めていた。
我に帰り、朝食をいただく。
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ご丁寧に写真を撮っていた。
多分忘れたくなくて残したのだろう。今でもそう思うくらい、なんてことないはずの朝ごはんになるはずだったものたちが本当に美味しかった。ミーハー心を踊らせ、人の優しさに触れ、冬の朝の光と大きな水を見つめながら、食べた。この旅の中で一番忘れられない食事は何だったかと聞かれると難しいが、人生の中で忘れられない朝ごはんはどれかと聞かれたら多分私はこの朝のことを答えるだろう。
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大きな光がすぐ足元まで打ち寄せていた。
綺麗な朝だった。
ところでチキンラップ、たぶんあれ景色抜きでもめちゃくちゃ美味しかった。ロール状のサンドイッチを初めて食べたのだけど、サラダもメインも主食も片手で豪勢に食べられるのはなんだかゴキゲンな感じですごくイイ。シャクシャクのレタスとしっとりした鶏肉の旨味をラップ部分のふんわりした甘味が包んでくれるあの感じ。
今もスタバに行って根菜ラップやらチキンラップやら食べるのが大好きだけど、間違いなく原体験はあの日のハドソン川のほとりでの朝食だし、チキンラップに巡り会った時に「この近くでこれをおいしく朝ごはんに食べるとしたらどこかな…」とつい考えてしまうのも、また楽し。
なお、巨大ココアは薄かった。
なぜかそういうことも覚えているから、人間は面白い。
チキンラップ、大好き。