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DX時代のリスキル・人材流動化における、ブロックチェーン技術の活用

■TL;DR

・国家間をまたぐ人材流動を、証明書のデジタル化が促進。
・オープンバッチにより、学歴だけでなく、学習歴を評価される社会に。
・スキル(習得過程含めた)の可視化により、企業の採用/人材リスキル/最適配置が改善される。
・学習ログを用いて、学習歴の評価や、学習を最適化。

■ブロックチェーン技術で”証明”コストを削減

まず、教育分野でブロックチェーン活用に挙げられるのが、証明書。
2022年8月に 国内初の事例として、千葉工業大学がNFT(Blockcertsを応用)で学修歴証明書を発行しました。

国境を超えた人材の流動性が高まるとされる現代。海外との教育機関や企業とのやりとりにおいては、過去の実績や資格などを通じて「何者か」を示す必要性が発生します。

しかし、卒業証明書や住民票、資格、免許などの証明書の多くがアナログで管理されているのが現状。

「Blockcerts(ブロックサーツ)」による信頼性担保

「証明」において高い信頼性を担保できるのではないかと期待されるのがブロックチェーン技術の活用であり、「Blockcerts(ブロックサーツ)」の存在です。

Blockcertsとは、ブロックチェーンベースの証明書を発行・表示・検証するサービスを構築するためのオープンスタンダードのことで、MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究機関Media LabとLearning Machine社により2016年に共同開発されました。

ブロックチェーン技術により、トランザクションを改ざんできずデータを詐称することが困難なため、発行元へ問い合わせることなく、その内容が正しいことを検証できるようになります。

こういった取り組みにより、大学での学修歴や学びの成果を国際企画に準拠したNFTで証明することで、幅広いキャリアを後押しできます。

海外の動き

BlockcertsはすでにアメリカのMITやオーストラリア、タイ、コロンビアなどの教育機関で導入事例がありますが、中でもシンガポールは国家レベルで学位証書をブロックチェーン上で発行しており、国家主導の事例としては世界初とされています。

シンガポールの国家プロジェクト「OpenCerts」
そのプロジェクトは「OpenCerts」と呼ばれ、2019年よりSkillsFuture Singapore社 (SSG)や政府機関のGovernment Technology Agency (GovTech)、教育省(MOE)、ニー・アン・ポリテクニック大学 (NP)が共同開発を行っています。

学位証書を設計する「DCC(Digital Credentials Consortium)」
海外ではすでに、大学間で連携して学位証書のデジタル化を進めようとする動きも存在しています。
DCC(Digital Credentials Consortium)は、デジタル証明書の設計に関する専門知識を持つ12の大学によって、2018年に設立されたコンソーシアムです。

DCCの目的は、学生が簡単に学位証書を受け取り、保存、共有できるように分散共有型のインフラストラクチャを作成することです。
それにより、学習者の主体性を高め、より公平な学習とキャリアパスを促進することを目指しています。

国内事例:サイバーリンクス社「CloudCerts®」を用いたTOEIC証明書の電子化

あのTOEICの証明書にも活用が開始されています。
手がけるのは和歌山に本社を構えるサイバーリンクス社。


■オープンバッジによる”学習歴”の証明

ここまで、自身の経歴(主に学歴)を証明するためのブロックチェーン技術活用を見てきました。

しかし現代は、『いかに覚えるか』の知識詰め込み型から、『いかに解決するか』という正解が1つではない課題に向き合うことが求められる教育へとシフトしています。

そんな、学歴社会➡︎学習歴社会へのシフトにも、ブロックチェーンの活用は期待されており、実際にサービス化も進んでいます。

オープンバッジによる

オープンバッジとは、知識・スキル・経験のデジタル証明です。

欧米を中心に大学や資格認定団体、グローバルIT企業が多くのオープンバッジを発行しており、日本でもさまざまな団体からの発行がされています。国際標準規格としてのオープンバッジは、取得した資格や学習内容を目に見える形にし、受検者や受講者を増やすデジタルマーケティングツールにもなります。

現在、オープンバッジには、スキルを証明する「スキルバッジ」をはじめ、知識や社会的スキルを示すバッジ、イベント等への参加やアイデンティティを示すバッジなど多種多様なバッジが存在しています。

※出典:リスキリング時代に広がるオープンバッジの活用〜学びを仕事につなげ、円滑な労働移動へ〜 総合調査部 マクロ環境調査グループ 主任研究員 白石 香織(2022.06)

学修歴証明のデジタル化は、学位証明に加えて、科目単位の小さな学びや知識・スキル・志向性を可視化し評価できることで、学びを仕事につなげる潤滑油としての役割を果たします。

企業の活用メリット

DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることは、競争優位を確立するうえで必須の事項となり、人材の育成に関しても、社会構造の変化にあわせて必要なデジタルスキルを習得し直す取り組みが注目されています。

元々、「学歴」のデジタル化で注目されていたデジタルバッジですが、企業においてもその活用が進んでいます。
デジタルバッジは、仕事をしながら学べるマイクロラーニングなども「学習歴」として可視化できるため、新しいスキルや技術を習得し人材の流動を促す「リスキリング」とも相性がよく、日本政府も後押しします。

オープンバッジを企業が導入するメリットは以下のあたり。
 (1) 自律的な学びにつなげる
 (2) 効率的な採用につなげる
 (3) 多様な人材の育成につなげる

これらにより、学びを仕事につなげ円滑な労働移動を実現。
また、デジタル人材の能力・スキルの見える化に寄与することで、適切な人材マッチング/配置にも応用が期待されます。

※出典:デジタル人材に関する本日の論点https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/004_04_00.pdf

オープンバッジは学習意欲の向上にも役立つ

 IBMが報告したデータによると、デジタルバッジを獲得した従業員の87%がデジタルバッジプログラムによって、より積極的にオンライン学習に取り組んでいると回答しています。
オープンバッジを人事制度に組み入れている米国IT企業では、バッジを導入したことで、導入前と比べてオンラインコースへの参加者が1.3倍、修了者が2倍以上、合格者は7倍近く増えたといいます。

■学習ログを活用した”学習歴”の証明

ブロックチェーン×スマートコントラクトにより、学習の過程や蓄積度合いを評価することが可能になります。

例えばここでは、エンジニア採用における、学生と企業のマッチングを例に挙げます。
• オンラインジャッジでプログラミングを学んだ学生
• 最低限のプログラミングスキルを持った学生を採用したい企業

<学生サイド>

  • 2年前期:オンラインジャッジを採用したプログラミング演習を履修する

  • 2年後期:プログラミングに関心をもち、授業外でも時々オンラインジャッジの問題に取り組む

  • 3年前期:友達に誘われて ACM ICPCに挑戦してみる。オンラインジャッジで練習するが、残念ながら予選落ち

  • 3年後期から4年:IT開発会社に興味をもって、就職活動を行う

ACM ICPCは、大学対抗のプログラミング競技会で、予選を通過してアジア大会に進めるのは全国で100人程度、原則、各大学の上位3人である。
だから、ACM ICPCの予選通過は高いプログラミング能力の指標となる。
しかし、ACM ICPCの予選は通過しなかったとしても、プログラミングを学習してきた事実と、その結果のスキルを評価してもらいたいと考えるのは当然です。

<企業側>

  • プログラミング力は、ICPC予選を通過したかどうかで測るしかない

  • ICPC予選参加は、学生のチャレンジ力の指標になる かもしれないが、基本、誰でも参加できるコンテストで予選の成績はわからない

  • 結局、ほとんどの学生のプログラミングスキルはよくわからない企業は、プログラミングスキルを測るため、GitHubポートフォリオや独自のスキルテスト、ホワイトボードコーディング、コーディング経験を面接でなんとなく聞くに頼らざるを得ない。

ここで、オンラインジャッジに記録された2年間の学習ログの出番です。
これら活用のシナリオは以下です。

まず、学習ログとスキルに関する基準を定める。
次に、学生はその基準を目標にオンラインジャッジに取り組み、基準に達したとき証明書が発行される。
最後に、企業は学生のスキルの証明書を受け取る。

こんな風に、企業や大学、その他第三者機関が基準を定めることが、スキル評価の 多様性に繋がると思います。

まとめると、以下のような性質を実現するシステムが必要となるため、これをブロックチェーンとスマートコントラクトで実現しようというわけです。

  • スキル基準は、明確かつ公平な形式で記述されており、人手によらず判定できるようにアルゴリズム化されているのが望ましい

  • スキル基準や発行される証明書は、偽造不可能で十分に信頼されるものでなければならない

※出典:学習ログとブロックチェーンによる 多角的なプログラミング・スキルの証明書
file:///Users/osadayuusuke/Desktop/IPSJ_SSS2020025.pdf

■国内事例:NTT西日本

本テーマにおいて、先行しているのがNTT西日本です。

  1. デジタル証明書発行サービス

  2. 電子教科書・教材ビューワーサービス

  3. オープンバッジ発行支援サービス

これらサービスを掛け合わせ、ここまで出てきた『証明コスト削減』や、『電子教科書からの学習ログ取得』、『オープンバッジでの学習歴証明』を支援しています。

https://www.nttedx.co.jp/

また、学生証をデジタル利用できることで、学割をスマホ上で発行できるなど、活用シーンは教育分野に留まりません。

■(話は少し逸れるが)自己主権型アイデンティティの話

ここまで様々な証明のデジタル化を紹介してきたが、私が私であること、"I am who I am."を証明することも重要視されています。

「SSI(Self-Sovereign Identity:自己主権型アイデンティティ)」

「SSI」とは、管理主体が介在なしに、ユーザーが個人情報やデジタルアイデンティティを自らの意志で保有・コントロールできることを目指すデジタルムーブメントのことで、国際技術標準化団体のW3Cによって提唱されています。

更に個人情報のプライバシーを保護できるのではないかと注目を集めているのがSSIです。
すでにSSIに基づく取り組みはグローバル規模で行われており、その代表例として国連も参加する「ID2020」という取り組みがあります。今日、世界では11億人以上もの人々が自身の存在を示す公的手段をもっていないと推定されており、ID2020はそうした人々に対しデジタルIDを付与することで人権保護を目指すものです。
国連は、SDGs目標16で「2030年までにすべての人に出生証明を含む法的なアイデンティティを提供する」と定めており、NGOや政府、企業等と連携しながらデジタルIDの普及を目指しています。
※参考:学位や資格の「証明」にイノベーションをもたらす、Blockcertsとは?求められる時代背景や活用事例まで

SSIの実現に必要な「Verifiable Credentials(VC)」

先ほど説明したSSIを実現する1つの重要な要素として、W3Cは「Verifiable Credentials(VC)」を挙げています。VCとはオンライン上で検証可能な個人情報のことで、W3Cによって標準化されている規格です。

VCの言葉に含まれる「Credential(クレデンシャル)」は、「資格」「経歴」「認定証」などと和訳されるため、VCをそのまま和訳すると「検証可能な認証情報」となりますが、VCは個人情報そのものを示すものではなく、その真正性を検証できる技術のことであり、HTMLやCSSと同じような共通規格のことを指します。
VCのエコシステムでは、発行者と所有者は分散型識別子 (DID) を使用する必要があり、認証情報を発行した組織のDIDに紐付けられた公開鍵を使用することで、発行者に連絡することなく誰が発行したのかを確認することができる仕組みです。
このようなVCの特徴を生かした応用事例としては、「ウイルスの免疫獲得証明やワクチン接種証明」「出生証明」「著作権証明」「炭素排出証明」などが挙げられます。
ワクチン接種証明については、2022年にMicrosoft、Salesforce他による「Vaccination Credential Initiative(VCI)」が発足しており、接種済であることをスマートフォンのデジタルウォレット(Apple WalletやGoogle Payなど)に保存できる技術が開発されているそうです。
※参考:Internet Infrastructure Review(IIR)Vol.52 - IIJ

■最後に

今回は、個人のスキルや資格のデジタル化、またそれらが法人/個人にどのような影響を与えるかをご紹介しました。

ブロックチェーン技術の隆盛により注目を集めている領域ではありますが、日本国内においてはまだまだ活用方法を模索している段階かと思います。

自分自身まだまだ勉強が足りませんので、これからも動向をwatchし、発信できればと考えています。

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