抗てんかん薬トピラマートが乳癌脳転移に対する放射線治療後の細胞性浮腫を予防する?

Contreras-Zárate MJ et al., Short-term topiramate treatment prevents radiation-induced cytotoxic edema in preclinical models of breast-cancer brain metastasis. Neuro Oncol. 2023 Oct 3;25(10):1802-1814. doi: 10.1093/neuonc/noad070. PMID: 37053041; PMCID: PMC10547511.

要旨

<背景> 脳浮腫は、脳転移(BM)およびその治療でよくみられる合併症であるが、細胞毒性浮腫、血管原性浮腫が放射線誘発性脳浮腫にどの程度寄与しているかは不明である。本研究の目的は、乳癌脳転移(BCBM)の動物モデルにおいて、放射線治療が細胞毒性浮腫を誘発するかどうかとその経緯を明らかにすることである。
<方法> in vitroおよびin vivoモデルを用いて、照射後のアストロサイトの膨潤、電気抵抗(TEER)およびアクアポリン4(AQP4)の発現を測定した。抗てんかん薬であるトピラマートを用いて、アストロサイトおよびがん細胞において遺伝学的および薬理学的にAQ4がどのように阻害されるかを評価した。
<結果> 照射によりアストロサイトが腫大し、24時間以内にAQP4が一過性に上昇した。トピラマートは、BCBMの前臨床モデルにおいて、放射線誘発性のアストロサイト腫脹、in vitroにおけるアストロサイトのTEER消失を減らし、急性期の単回投与は、腫瘍増大作用を伴わずに放射線誘発性の脳水分量の増加を阻止した。AQP4は癌細胞で発現していたが、一時的なAQP4阻害によって直接的に腫瘍形成が促進されることはなかった。
<結論> AQ4阻害作用のある抗てんかん薬を照射後早期に用いることで、脳転移照射後の細胞毒性脳浮腫を予防することができるかもしれない。

感想

私の専門領域では放射線脳壊死は日常的に遭遇しうる病態であるが、改めてその機序について学ぶ良いきっかけとなった。さらには新規治療の可能性について考えさせられた。
もともと放射線壊死は血管原性浮腫が主体だと考えられてきたが、この論文ではその前段階として細胞原性浮腫(AQ4が関与)が出現しており、早い時期にAQ4作用をブロックすることで、本格的な血管原性浮腫を予防する可能性があると指摘している。トピラマートはてんかん専門医以外は使うことの少ない抗てんかん薬(片頭痛予防で使用することもあり)だが、AQ4阻害作用があるとは全く知らなかった。同様の論文も見当たらないのであまり知られていないだろう。
ちなみに、放射線壊死のみならず片頭痛や慢性硬膜下血腫といった疾患に対し本邦で使用されることの多い薬に五苓散があるが、五苓散もAQ4阻害作用を有するようだ。本論文では、長期的なトピラマート投与やAQ4阻害は免疫系を介した脳転移促進に寄与する可能性があると指摘されており、転移性脳腫瘍治療後の五苓散投与のタイミングについては一考の余地があるのかもしれないと感じた。

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