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カタログを見ないという選択
門や庭のことでお客様から問い合わせが来て最初に打ち合わせに伺う時、私はエクステリアで使う商材が載っているカタログは絶対に持って行きません。重たいから横着で持っていかない? 訳ではありません。
持って行くものは、過去の代表作が印刷してあるパンフレットとあとはPinterest という写真のSNSで日頃「美しい」とか「かっこいい」と思ってストックしてある写真をスマートフォンなどでいつでもお見せできる様にしておきます。以前はトップ画像にある様にteNeuesという出版社から出ている海外の事例の写真集を持って歩いていましたが、最近はもっぱら自分の作品の写真では不十分な時にはPinterestを見ながら説明をします。
カタログを持っていかない理由は、心が踊らないから。
ほとんどの日本の素材のメーカーのカタログは現実的すぎて心が踊るものがほとんどありません。カタログの本としてのデザインはどうでも良いのですが、そこに載っている商品に心踊るものが少ないのです!
一番最初の打ち合わせでは初対面の緊張感をできるだけ早い段階で解きほぐして、心の距離を近づけて、お客様には心をリラックスさせて、新しい家での暮らしのイメージを思い描くことに時間を費やしていただきたいのです。
例えば、会社から帰って来た平日の夜、最初にあなたを出迎えてくれるのは家族ではなく、ご自宅の門です。どんな門に待っていて欲しいでしょう?少し遅めの夕飯を済ませたあとは何をしますか?
UNEXTで映画三昧もいいけれど、たまには部屋の電気を目一杯暗くして、カーテンを開けて外の景色を眺めて見ませんか?そんな時何が見えると心が癒されますか?
例えば、平日の朝目覚めて、慌ただしく朝食の支度をする時に窓を開けて見てください。どんな風が吹いて来ましたか?
例えば、休日に少し遅くおきた朝、庭にテーブルを出して木漏れ日の下でブランチはいかが?その時どんな床だと気分がいいでしょう?小鳥の囀りが聞こえませんか?
そんなことを雑談しながら、「ワクワク、うっとり」して欲しいのです。
「ここにデッキを作りたい。門扉はアイアンがいい。目隠しはしたい」
お客様は、私がお尋ねする前にそういう具体的な「条件」を一生懸命考えていらっしゃいます。あとイメージも。「南欧風」とか「バリ風」とか……。
こういう地域名でイメージの会話をするのも人によって思い描く「地域のイメージ」って微妙に違うし、こんな仕事をしている私でさえ「南欧風」と「南仏風」の違いなんて説明できません。
そういう会話よりも一番最初にすべきだと思うのは具体的な「情景」や「状況」を思い描く会話なのです。
一時間でも二時間でも思いっきり「素敵な妄想」をして欲しいのです。それに私は寄り添います。妄想しやすいヒントなんかを合いの手を出します。
当然その妄想は矛盾することもいっぱいあるかもしれません。それでもいいのです。予算のことも庭の広さのことも、夫婦喧嘩をしたことも、思春期の息子のことも、全部忘れて「妄想」を、できれば家族全員でして欲しいのです。
そんな妄想の時に超現実的な門扉やカーポートのカタログは邪魔でしかありません。
もっとうっとりする様な写真集を眺めて、その中に身を置いてみましょう。
その様な写真集の中に出てくる景色に似ているものなど「門扉やカーポートが出てくる一般的なカタログには絶対に! 載っていません。
お客様のご家族が思い思いに語られた「うっとり」や「ワクワク」をお聞きして、最低限の条件だけは整理して私は一旦宿題にさせていただきます。
ご家族の「うっとり」と「ワクワク」を形にするのが私の仕事です。
海外の写真集に出ている数枚の写真がヒントになることが多いのですが、それらを咀嚼して設計を進めます。そうするとだいたい、門扉やカーポートのカタログを開くことはありません。欲しいものがないから。
なければ作っちゃえばいいのです。フランスやバリの職人ができることで日本の職人ができないことはほとんどないはずです。特に海外の庭やゲートの写真集に載っているものなどは特別に難しいものでもないので。特注で製作すると高くなってしまい、予算オーバーしたら、そこで初めてカタログの中から近いイメージのものをじっくり探します。
こうしてだいたいお客様が事前に考えていらしたイメージをいい意味で裏切る「想定を超えた」提案にして、次の打ち合わせに持って行きます。
もちろんこれで思いっきり外すこともたまにありますが、たいていの場合喜んでいただけます。(たとえ外したとしても)この様に初回にお客様にできるだけたくさん状況をイメージしていただく作業は一見、回り道の様ですが、結果としては近道であり、満足度が高い計画となる様に思います。
これは門と庭に限った話ではありません。
家づくり全般に「うっとり」と「ワクワク」感じること。
それが「お客様の役割」なのだと思っています。
どれだけ「うっとり」と「ワクワク」させられるかが、私たちの仕事なのだと思っています。