【短期集中連載第11回】落ちないための二回試験対策 刑弁(ライト版)
二回試験前半戦が終わりました。大雑把な感想としては,書き方の作法と時間配分だけきっちり管理しておけば,(成績はどうあれ)不合格回避はよっぽど大丈夫だろうなという印象を抱きました。骨組みは比較的やさしめなものが多いですが,肉付けを具体的に構成,認定していこうとするとよくわからない…というような事実関係,証拠関係であったように感じます。
雑感終わり。刑弁編です。
刑裁・刑弁については検察対策をしっかりしておけばある程度融通が利く(と思っている)ので,独自に書くべきことはそれほど多くはないのではないです。また,時期的にも超直前ですので,これまでの3科目よりもライトめに記載していこうと思います。5~6月くらいにまた更新できたらいいな,くらいに考えてます。
1 出題傾向と基本対策
刑弁起案は①想定弁論起案と②刑事弁護人としての訴訟活動に関する小問3~4問程度で構成されています。それぞれ枚数指定があり,小問は1~2枚ずつであることが多いですが,民弁同様に設問自体が多いため,比較的配点のウエイトが高いのではないかと考えられます。
⑴①について
被告人の立場から,公判の最後に行われる論告求刑のあとにすべき弁護人の弁論を想定して15~20枚程度で起案することが求められます。基本的には被告人の説明がすべて真実であることを前提として,それらを用いて検察側の立証を弾劾していくことになります。要するにケースセオリーを確立して検察側の証拠構造の穴を突いていく感じでしょうか。書き方としては,
第1 結論
1 ○○さんは無罪である
2 ○○さんは本件の犯人でない
第2 理由
1 ~という事実(検察側の間接事実or要証事実)がないこと
⑴ア ~という事実はない
イ ○○の供述は信用できない
⑵ (信用できない理由の説明)
2 ~という間接事実の推認力は乏しい
(以下略)
というように,結論→理由の順で展開していくことがマストです。逆にいうとそれさえ守ればあとは検察起案の枠組みに沿ってうまいこと書いていけば足ります。
そのため基本対策としては検察に効果的に弾劾するためにも,検察の書き方をマスターしておくこと,白表紙の『みんなで作るケースセオリー』を余裕があるうちに読んでおくことなどが挙げられるところです。
⑵ ②について
刑事弁護人の活動として,❶取調べ対応・身柄解放活動,❷証拠収集,❸公判前整理手続・公判の対応,❹弁護士倫理などいろいろ問われているようです。いずれも枚数としては1~3枚くらいで問われることが多く,くどくどかくというよりはコンパクトに結論を書いてあげるのが良いかと。
❶はAから取調べで黙秘すべきかどうか聞かれた際の対応や,身柄拘束のために出すべき資料などが聞かれます。❷は必要な証拠収集活動の具体例や示談の内容など,❸は類型証拠開示請求すべき証拠の具体例,証拠意見,尋問中の異議の内容など,がそれぞれ問われます。
2 起案上の注意点
刑裁は書き方のフォーマットや中身がほぼ検察と同じであるため,以下では検察の書き方を念頭に,少し異なる部分や注意点について触れておきます。
⑴ 想定弁論起案
・Aの主張に反する主張をしない
刑弁起案については徹底的にAの主張に沿った起案を展開しないと致命傷になりかねません。特にAが無罪であると言っているのに有罪を前提として情状弁護をすることや,予備的に「仮に犯人であるとしても」などといった主張を書いてしまうと致命的です。刑弁起案では予備的主張は基本的にやらないらしいので閃いて被告人の言っていない主張を構成してしまわないように,性善説に立って起案をしていきましょう。
・結論→理由の順で記載すること
上述の通り,結論→理由の順で書くこともマストです。これは最終的な結論に限らず,途中の小括的な結論部分でも同様です。
・検察の証拠構造を念頭に,それぞれ弾劾していくこと
弾劾方法としては,基本的に供述が信用できないとして間接事実や要証事実自体が認められない(事実の存否を争う)か,間接事実は認められるとしてもA供述を前提にすれば推認力が弱まる(事実の推認力を争う)というのが基本スタイルになります。一応消極的間接事実を示す可能性も考えられますが,少なくとも筆者は起案で見なかったように思います。
このように検察の主張する事実に対してその存否や推認力を争っていくことになるため,まず検察の証拠構造をしっかり把握したうえで,それぞれの事実に対して的確に弾劾の理由を記載していきましょう。基本的にはAが認めていない限りは弾劾の根拠や理由が記録中のどこかに転がっているはず。
・信用性の弾劾に際しては,なぜそのような供述に至ってしまったのかも含めて書く
刑弁起案の信用性検討は基本的に信用性を弾劾するときにしか書かないため,❶他の証拠との不整合,❷知覚・記憶の条件に問題があること。❸供述の変遷・欠落があること,❹内容が不自然であることといった視点を出しつつも,供述がおかしいというだけでなく,なぜそのような供述になってしまったのかについも書く必要があります。単におかしいと言って切ってしまうだけでは説得力に欠け,本当はこういう事情があったと考えられるという別のストーリーを提示してあげることで,説得的な弾劾になるということだと思われます。信用性弾劾パートは起案の中でもそこそこ重要なパートであると思われますので,必ず当該供述に至った原因についても触れましょう。弁護人側証人や弁号証が弾劾のヒントになっていることも多いかと。
・A供述が信用できることをしっかり示す
検察側証人の供述が信用できないと弾劾した場合や,A供述から別の事実を認定できる場合には,必ずA供述の信用性検討をしましょう。刑弁起案は割とA供述の信用性を支える事情が散らばっていることが多い印象ですので,弁護人側証人や弁号証を効果的に使って信用できると言い切っていきましょう。
・被告人を「A」と書かない
刑弁起案では被告人のことは○○氏のように名前で書いてあげなきゃいけないらしいです(Aと書いて評価が下がるのかはよくわかりませんが)。
・Aからの聴取事項,不同意とされた供述については公判で供述されたという想定で書く
Aの言い分や不同意証拠は,想定弁論起案の段階では証拠になっていないというのが前提です。そのため実際には双方が尋問で当該供述を引き出す必要があるわけですが,起案ではそれがなされたものと想定して認定,引用していく必要があります。A供述であれば引用の際に(メモ1から想定),不同意証拠なら(甲〇)と書かずに(甲〇から想定)などと書いてあげないと,証拠として取り調べられていない証拠をもとに主張を展開していることになり,証拠裁判主義を理解していないとのそしりを受ける可能性があるため,気を付けたいところ。
⑵ 小問関係
・条文から示す
小問はいろいろな切り口から問われるので対応が難しいですが,条文がヒントになることが多いため,参照すべき条文が想起できるようにしておきたいところ。
・迷ったら全否定しておく
刑弁起案の性質上,検察側の立証に対しては基本的に厳しい態度で臨んでいった方が筋を外さないことが多いと思われます。ケースバイケースでしょうが,迷って時間を浪費するような事態に陥りそうであれば,とりあえず全否定して依頼者保護方向で検討して書いてしまっていいと思います。
3 具体的対策(例)
前回までは記事を分けていましたが,あまり長々と書くこともないのでまとめて当日の対策についても書いていきます。とはいえこれまでの3科目に比べれば時間的にまだ余裕があるはずなので,割と何でもいいです。
⑴ 時間配分
刑弁の小問は記録に関連するものが多いため,ある程度記録の中身が分かっていないと十分な解答を導けない場合が多いと考えられます。そのため,想定弁論の前に小問を片付けるとしても,まず記録を加工・検討したうえで小問に入り,その後本丸に行くのが効率的であると思います。
❶午前中に記録検討を済ませる
❷昼食終わりくらいまでに小問を片付ける
❸午後はゆっくり事実認定起案を検討し,終わり次第さっさと帰る
という大まかな作戦で充分だと思います。枚数指定があるため慌てずに起案して終わり次第早く帰れたらいいなーという感じ。
⑵ 記録の読み方
刑弁起案は手続の流れに沿うように,A聴取→検察官請求証拠→A聴取→開示証拠→弁号証→A聴取というように要所要所でAからの聴取事項が挟まってきます。上述のとおり刑弁起案は検察側の証拠構造に対し,Aのいうことは全て正しいという前提で臨まなければならないため,まず検察側の証拠構造をつかんだうえで,一気にAの聴取事項を読んでしまうといいと思います。
❶起案要領の指示をマークしてメモする
❷証明予定事実記載書や予定主張記載書面を読んで双方の主張を確認
❸証拠構造を念頭にAからの聴取事項を一気に読み,弾劾のポイントをつかむ
❹検察官請求証拠を順次読み進め,検察官の立証に使われる事実を特定しマーク
❺A聴取事項や開示証拠,弁号証などから弾劾に使える事実をマーク
という感じですね。どうせAがすべて正しい前提で起案するため,初めからAの主張をすべて取り入れて予断MAXで相手の証拠を読んでいくと早いです。
⑶ 構成検討
構成検討としては,検察側の証拠構造をもとに弾劾対象となる事実を特定し,その弾劾に使える事情を付箋などで張り付けていく感じで基本的には問題ないかと思います。民裁や民弁,検察よりは事実の振り分けに困るということも少ないのではないかと。
個人的に注意したい点としては,付箋の太さがあまり太くないためたくさん書くことはできない点と,最初に配られる付箋が2色10枚ずつくらいしかないため,どこかのタイミングでごっそり取りに行く必要があることくらいです。
4 まとめ
ライト版といいつつなんだかんだ長くなりましたが,基本的に刑弁起案に関しては検察潰してA救済,という観点で検討していけばヒントがそこら中にあるので何とかなるはず。とはいえあまりに無理な主張やひらめきに引っ張られないように気を付けましょう。特にAの言い分に反することだけは言わないように注意すれば,まあよっぽど大丈夫ではないかと。