
寂寞岬の灯台
今日ちょっと本の整理をしていたら萩尾望都先生の『ウは宇宙船のウ』が出てきたので読んでいました。レイ・ブラッドベリが書いた小説の漫画版です。
村谷由香里です。
noteをご覧いただきありがとうございます。
『ウは宇宙船のウ』はブラッドベリのSF短編集のタイトルなんですが、わたしはこの中の『霧笛』という小説がとても好きです。
創元SF文庫から出ている文庫版だと20ページを切るくらいの短い話だったと思いますが、これまで読んできたいろんなSF小説の中でも群を抜いて、心の深い部分に刺さっています。
世界でたった一頭生き残り、長い時間深海で眠っていた恐竜が寂寞岬の灯台の霧笛の音を仲間の声と誤解して灯台を訪れ、その灯台を破壊してしまうという物語です。
昔、ある日男が一人やってきて、その岬の陽のささぬ波のどよもす浜辺に立ってこう言った。「この海原越しに呼びかけて、船に警告してやる声が要る。その声をつくってやろう」
という文から始まる、寂寞岬に灯台を作った男の独白が本当に美しくて何度もノートに書き写したのを覚えています。
それはあまりにも孤独な音なので、誰もそれを聞きもらすはずはなく、それを耳にすれば誰もがひそかにしのび泣きをし、遠くの町で聞けば、いっそう我が家があたたかく、なつかしく思われる……そんな音をつくってやろう。
これは萩尾望都先生による翻訳で、わたしは文庫版の訳よりこちらの方が好きでした。
舞台の『半神』ではじめて聞いたのがあまりに印象的だったからかもしれません。半神も本当に良い舞台ですよね。霧笛だ。霧笛が呼ぶんだ。
「寂しい」という感情を、ほんの十数ページの文章でここまで美しく描いた作品を、わたしは『霧笛』以外に知りません。人生の中で影響を受けた文章とか、自分の作品の根幹にある文章がいくつかあるのですが、この作品は間違いなくそのひとつだと思います。
ちなみに昔「ネバーランドの標本」という小説を書きましたが、物語の終盤でトリケラトプスがはじめて鳴き声を上げるシーンは『霧笛』をイメージしていました。
恐竜と寂寥感をセットで扱いがちなのも、めちゃくちゃ影響を受けていたんだろうなあ。
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