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Heidi作品を再考する

はじめに

まずはこちらを読んでください。

有名無名を問わず、常に膨大な量の音楽作品が世の中にドロップされ続けている昨今、いわゆる「プロとアマ」や「メジャーとインディー」のような二分法は、ほとんど意味をなさなくなっています。多額の広告宣伝費をかけても、メディアを駆使したマーケティングを行っても、響く人の元へ届かなければ、そのプロダクトは瞬く間に忘れ去られていくのが実情と言えます。

では、そうした状況下で、音楽は(あるいはプロダクトは)どのようにリスナー(消費者)にアプローチするべきでしょうか。また、音楽家の活動の持続性をどのように確保していくべきでしょうか。SSWであるHeidiのこれまで作品の意義を振り返りつつ、再考してきたいと思います。


以下、こちらの動画でも流しながらお読みください。


sacred island

ポストロックバンドMARY BELL PROJECTのギター&ボーカルとソングライターを務めるHeidiが、最初のソロEPをリリースしたのは、2017年1月のことでした。『sacred island』と名付けられたそのCDは、ライブ会場、大宮のCDショップmore records、レーベル通販のみでの販売という、非常にストイックな売り方でありながら、好評を博し、more recordsの2017年年間ランキング総合2位、日本人アーティストとしては1位を記録しました(ちなみにこのランキングにおいては、2017年を象徴する作品とも言えるThundercatの『Drunk』は7位でした)。これは、販売経路を絞った分、需要のある売り場に集中した供給が行われていた証左です。小規模でCDというプロダクトを作る以上、このように、商品を意味のある場で販売する必要性(あるいは必然性)が今後増していくことは間違いないでしょう。

音楽的な面では、伸びやかでありつつも少し翳りを持つ声や、造語による歌詞、深めのリバーブなど、どことなく所在が曖昧な世界が展開されます。ジャケットのアートワークもまた、その孤独感に拍車をかけていますが、おそらくレコーディングの時にたまたま入ってしまったであろう微細な環境音によって、この曖昧な世界は僅かながらに現実と接続していることに気づきます。nowhereとsomewhereを揺らぎながら行き来するSF的(この場合は「少し不思議」の方の意味)小品集。ボーナストラックとして、MARY BELL PROJECTで演奏された「Loireag」が収録されていて、この時点ではソロとバンドが完全には分離しきっていない印象です。


apocalypse

続いて、2018年4月には2ndEP『apocalypse』をリリース。この作品は、東京ゲストハウス王子で公開ライブレコーディングされ、会場のノイズや室内の反響や食器が触れ合う音も録音されています。音の処理は前回より生々しく、やや歪み気味な場所もありますが、ライブ盤という観点ではむしろ空気感を上手くパッケージングしてあると言えます。

このような、ライブハウス以外での小規模ライブイベントは、発売元のレーベルcat&bonitoの得意分野で、その都度腕の立つPAやレコーディングエンジニアを起用しつつ、ハイクオリティーな空間を提供しています。いわゆる「ライブハウス的」なしきたりや文化に囚われず、アーティスト個々人がそれぞれのペースや規模感で活動するためのサポートに徹する、インディーならではのコンセプトを持ったレーベルで、この公開レコーディングもそうした面での優位性を活かした試みであると評価できます。

今作は、アポカリプスというやや不穏なタイトルに応じるように、曲名も「Senility」「Agoniy」「Anger」といったネガティブな単語が並びます。Heidiの関連作品に共通して言えることですが、彼女の名付けは単語一個をポンと放り投げるようなものがほとんどで、ある意味では素っ気ないとも言えるのですが、そのことが作品内容の匿名性を高めています。


結び

Heidiの過去作品を簡単に振り返ってきました。彼女の楽曲と歌が優れている、ということは今更書くまでもありません。しかし、楽曲が良いというだけでは、もはやCDを作る意義としては弱いというのが現実です。これまでの2枚のEPは、「そうした楽曲をプロダクトとして売り出すためにはどうすれば良いか」という問いに対する最適解を探る試みとして意味づけることができます。そして、そうしたレーベルとアーティストの、いい意味でマイペースかつ持続可能な活動は、確実なリスナーの獲得に繋がっているのです。これは、PCさえあれば、自宅から全世界へ、データとして作品を発表できる今の状況においては、ある種の逆説かもしれません。しかし、あえて意味のある場、スタイル、情報を必要最小限に絞り込むことで、Heidiの作品は広がっていくのです。

2019年4月27日リリースの新譜『The catcher in the Lav』は、流通経路が拡大し、いわゆる大手のCDショップにも展開されることになります。新譜の広がりは、これまでの2作とは異なり、"人(他者?)"の存在が明確に表現されたジャケットにも見ることができます。「ラベンダー畑でつかまえて」というアルバムタイトルも、他者の存在を伺わせるものです。もちろん、これらは全くの深読みに過ぎないかもしれません(十中八九深読みだと思って書いています)。それでも、「待望の1stアルバム」と銘打たれているからには、新たな地平を切り拓く何かを期待してしまうのです。


おまけ(最近お気に入りなやつ)


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