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ウクライナ語文法シリーズその7:女性名詞
今回から名詞の変化を見ていきます。
最初は比較的分かりやすい女性名詞からいきたいと思います。
格変化表が出てきますので、言語オタクの方もそうでない方もそれぞれの意味でヒイヒイ言っていただけると嬉しいです!
※格の順番を修正しました(2024/01/07)
-а/-яで終わる女性名詞
まずは変化の比較的わかりやすい -а/-я で終わる女性名詞から見ていきましょう。
-а/-я で終わる女性名詞の基本的な変化パターンは①硬変化、②軟変化、③混合変化の 3つに分けられますが、うわっと思わないでください。
①は -а で終わり語尾に主に硬母音が現れるもの、②は -я で終わり語尾に軟母音が現れるもの、③は語幹が口蓋音で終わるために硬母音と軟母音が混ざって現れるもの、という区別になりますが、一般化すればこれらの 3パターンはほとんど全て同じです。
①硬変化
格変化語尾をまとめると以下の表のとおりです。
複数対格の語尾は、「/」の左側が無生名詞、右側が有生名詞の場合です。
![](https://assets.st-note.com/img/1704554655624-Xmtrry2WwB.png)
単数処格・与格の -і 以外は全て硬子音です。
処格・与格で -і がつくとき直前の к、г、х はそれぞれ ц、з、с に交代することに注意しましょう。
(子音の交代参照)
具体例をいくつか見ていきましょう。
вода́ 「水」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554679118-fjxj6wz5FH.png)
アクセントの位置が変わることに注意してください。
рука́ 「足」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554692412-KKRINSC9KG.png)
単数の与格と処格で к が ц に交代していることに注意してください。 -а の前に г や х が現れる場合はそれぞれ з と с になります。
主:нога́ – 与・処:нозі́ 「足」
主:му́ха – 与・処:му́сі 「ハエ」
кни́жка 「本」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554704392-J3yU4Uk2HC.png)
このパターンの場合、アクセントの移動のほかに複数属格形に注意してください。複数属格形は語尾がとれてしまうのですが、このとき単語の末尾に子音が連続する場合には -о- または -е- が挿入されることがあります。一部の男性名詞では格変化語尾が付く際に逆に語幹の -о- や -е- が消えてしまうことがあります。これを出没母音と言います。
単語だけを見て出没母音が現れるかまたは消えるかを完全に正確に予想することは基本的に無理です(慣れてくればだいたい予想できますが、正確な予想には語源に関する知識が必要になります)。しかし女性名詞の場合複数属格では格変化語尾がなくなるので、それによって子音が連続する場合にはその間に出没母音が現れやすいことを覚えておきましょう。
複数属格形に注意する観点からここで е/о と і が交代する(е/о – іの交代参照)例を見ておきましょう。
гора́ 「山」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554717322-E0kNwcUI22.png)
最後に有生名詞の場合を見ておきましょう。複数対格形が複数属格形と同じ形になっています。
дочка́ 「娘」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554735697-CutyKZZU8W.png)
②軟変化
格変化語尾をまとめると以下の表のとおりです。①硬変化の表と見比べるとほとんど同じ形になっていることが分かると思います。ただし複数属格の形には注意です。
複数対格の語尾は、「/」の左側が無生名詞、右側が有生名詞の場合です。
![](https://assets.st-note.com/img/1704554748420-Ern1kEiEyD.png)
複数属格(及び有生名詞の複数対格)では語尾が -ь となっています。硬変化では何も付きませんでした(-Ø)。しかしこれは表記の問題に過ぎません。
軟変化をする名詞とは「格変化語尾の直前の子音が軟子音の名詞」ということですので、複数属格で母音がとれてしまうという現象においては硬変化と全く同様です。その他の格も同様で、実際には硬変化と同様 а や у が付いているのですが、「軟子音+母音」は「子音字+軟母音字」で表すことになっているため、 я や ю が現れているだけの話です。
ただ、具格と呼格では硬母音字のはずの е が出てきています。これが付くときの子音の発音は硬子音としてのものになります。
硬変化の語尾表をもう一度見ていただければと思いますが、この е は硬変化における о に対応していることが分かると思います。これは歴史的なものなので、名詞の変化においては о と е が硬軟の対応関係にあることをなんとなく頭に入れておいてください。
земля́ 「土、土地」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554760162-gOA6VMcIjv.png)
アクセントの移動のほか、複数属格で出没母音が現れていることに注意してください。
стаття́ 「記事、論文」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554770572-lrYcNMQaXB.png)
アクセントは動かないため楽なのですが、複数属格で語尾が -ей となっています。ウクライナ語の軟変化の女性名詞では、複数属格形がこのように -ей をとる名詞がありますので注意してください。どの名詞がこれにあたるか予測は非常に難しいので辞書を確認しましょう。
стаття́ の他にこの語尾を取る軟変化の女性名詞としては свиня́ 「ブタ」を覚えておきましょう。
単主:свиня́ – 複対・属:свине́й
стаття́ では二連続の -тт- が -т- とひとつになっているのにも注意してください。
наді́я 「希望」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554791646-wZWA1FugFW.png)
上の наді́я の変化語尾を一見して「あれっ、別の変化パターンか?」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。このパターンは格変化語尾の直前が й ([j])で終わる女性名詞のパターンです(複数属格形を見てください)。確かに ї や є が出てきていますが、これらの軟母音字は [j] +硬母音であることを思い出してください。
このパターンの大部分を占めるのがギリシア・ラテン語起源の -ія で終わる語です。これらの単語は英語と似た形を持っていることが多く、英語の -ion が付く単語の -ion を -ія に置き換えるとウクライナ語の単語になります(-tion は -ція):релі́гія 「宗教(英:religion)」、на́ція 「国民、国家、民族(英:nation)」
軟変化も最後に有生名詞の変化を見ておきましょう。複数対格形が複数属格形と同じ形になっています。
робітни́ця 「労働者(女性)」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554801843-7pXg6N4pQX.png)
③混合変化
格変化語尾をまとめると以下の表のとおりです。硬変化と軟変化がしっかり理解できていれば全く恐るるに足りません。これに含まれるのは -ша、-ча、-жа、-ща に終わる女性名詞です。
基本的に軟変化と同様で、正書法の関係上 я と ю の代わりに а と у が現れているだけです。また複数属格(及び有生名詞の複数対格)では -ь が付きません。
複数対格の語尾は、「/」の左側が無生名詞、右側が有生名詞の場合です。
![](https://assets.st-note.com/img/1704554812362-hqVyWvPoV9.png)
пло́ща 「広場」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554830277-lDKAJpqAuw.png)
一部の単語では複数属格(及び有生名詞の複数対格)で語尾 -ей を持ちます。以下の例を見てみましょう。ついでに有生名詞です。
ми́ша 「ネズミ、マウス」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554839798-pLxVoWCyzA.png)
ми́ша の他に複数属格でこの語尾を取る混合変化の女性名詞としては во́ша 「シラミ」があります。
単主:во́ша – 複対・属:во́шей
子音で終わる女性名詞
子音で終わる女性名詞の多くは軟子音で終わります。軟子音のほか、一部に -в、-ч、-ш、-ж、-щ の硬子音で終わるものもあります。
①軟子音型
軟子音で終わる格変化語尾をまとめると以下の表のとおりです。単数で主格と対格が同じ形になること、単数具格で е/о が入らず -ю となること、複数属格で -ей となることに注目してください。
![](https://assets.st-note.com/img/1704554854787-Js6zdLf4xf.png)
сіль 「塩」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554870831-Crla3XyMP0.png)
この例では о-і の交代が現れています。
語尾の直前の子音が 1つの場合、単数具格では子音が 2つ重なることに注意してください。
もう一つ語尾の直前の子音が 1つのものを見ておきましょう。
о́сінь 「秋」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554880937-8tnEi2nOMW.png)
о́сінь では е-і の交代が現れているのに注意してください。
次は語尾の直前の子音が 2つのものになります。
по́вість 「小説、物語」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554898551-LRUxphBsQA.png)
語尾の直前の子音が 2つの場合、単数具格では更に子音が重なることはありません。
ウクライナ語では -ість という語尾を持つこのタイプの女性名詞が多くあります。
上記の по́вість には当てはまりませんが、下記の мо́лодість のように形容詞から「~さ」「~性」という意味に派生した名詞を作る際の語尾として良く現れます。この場合、 -ість の部分で о-і の交代が起こります。
мо́лодість 「若さ」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554909897-CvMkygmFT5.png)
мо́лодістьの場合、その意味上単数形しかありません。
②硬子音型
次に、硬子音で終わる格変化語尾をまとめると以下の表のとおりです。硬子音なので単数主格・対格で ь がつかず、複数形に現れる я が а に変わっただけです。
![](https://assets.st-note.com/img/1704554921007-JKq6RfC3ZL.png)
ніч 「夜」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554938151-NZDMQ0tXWD.png)
річ 「もの、こと」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554947581-K3eW4ZWv5t.png)
上記の二つの例ではそれぞれ о-і、е-і の交代が起こっていますが、語尾の付け方は軟子音の時とほとんど同じです。
щ は ш と ч が合わさった文字ですので、見かけ上は一文字ですが子音としては二つある扱いになります。すなわち、単数具格で щ が重なることはありません。
не́хворощ 「ヨモギ」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554956725-WT7BbtLxRz.png)
-в で終わる場合は単数具格に注意です。 в が重なることはなく、 ’(アポストロフ) を使って -в’ю となります。
このタイプで重要なのは以下の 2単語ですので、覚えてしまいましょう。いずれも意味上単数形のみが用いられます。
кров 「血」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554971375-IpnnvnKS4p.png)
любо́в 「愛」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554984919-7kME4LTSaF.png)
注意の必要な女性名詞
ここでは大半の女性名詞と異なる語尾をとるものと不規則な女性名詞を紹介します。
①複数属格で語尾-івをとる女性名詞
複数属格(及び有生名詞の複数対格)の語尾 -ів は男性名詞の典型的な語尾ですが、一部の女性名詞にもこの語尾をとります。
ма́ма 「ママ、お母さん」
![](https://assets.st-note.com/img/1704554995778-4pYpS13WIu.png)
ма́ма の場合、複数属格及び複数対格では通常の -а で終わる女性名詞と同様に語尾がなくなる мам という形も許容されています。また上の表で複数でアクセントが 2か所に付いている形がありますが、これはどちらのアクセントでも良い、というものです。ウクライナ語にはこのようにアクセントが 2とおりあり得る単語が比較的多くあります。変化を覚えるのはどちらか一方でも構いませんが、聞いたときに分かるよう、別の場所にアクセントがおかれる場合もあることも合わせて覚えておくと良いでしょう。
ма́ма と同様に複数属格(及び有生名詞の複数対格)で -ів となるが、通常の語尾無しの形も許容される名詞としては他に以下のようなものがあります。いずれも単数主格―複数属格(または対格)の順に示します。
ба́ба – бабі́в, баб 「おばあちゃん」
губа́ – губі́в, губ 「唇」
леге́ня – леге́нів, леге́нь 「肺」
ただし、 -ів の形しか取らない名詞もあります。
ні́здря – ні́здрів 「鼻孔」(*ні́здрという形はない!)
②複数のみの女性名詞
名詞の中には複数形しか持たないものがあります。そのうち元が女性名詞のものを紹介します。よく使う単語としてはとりあえず以下の 3つを覚えておけば良いでしょう。
まずは最も規則的な変化のものから。
но́жиці 「ハサミ」
![](https://assets.st-note.com/img/1704555008285-8IRmUO9YHX.png)
次に示す две́рі「扉」には具格にいくつかのパターンがあり、いずれも規則的な変化語尾とは異なるので注意しましょう。また、属格では語尾 -ей をとります。
две́рі「扉」
![](https://assets.st-note.com/img/1704555018676-8jdbFbxdbW.png)
次の名詞 ра́дощі 「喜び」はほとんど規則的ですが、属格で語尾 -ів のみを取ります。同じ意味で単数形を持つ ра́дість という語もありますが、これは規則的な子音終わりの女性名詞の変化になります。
ра́дощі 「喜び」
![](https://assets.st-note.com/img/1704555032515-zxQfRnNugi.png)
③語頭で о-і の交代が起こる女性名詞
о-і の交代が語頭で起こる場合には単語の見た目が大きく変わってしまうので要注意です。この場合、 і の前に追加で в がくっついてきて о-ві の交代となります。以下の二つの単語を押さえておきましょう。いずれも単数主格で ві- となっていますが、開音節となる変化形では о- となり見た目が大きく変わります。
вівця́ 「ヒツジ」
![](https://assets.st-note.com/img/1704555041649-HWFzUt8UBn.png)
вісь 「軸」
![](https://assets.st-note.com/img/1704555051686-DJ1gsjgbtq.png)
④不規則な女性名詞
これまで紹介してきた女性名詞は格変化の語尾のみ変化するものでしたが、ここでは単語の形自体が変わってしまうものを紹介します。全部で 3つだけで使用頻度の高い単語ばかりですので、ここで完全に覚えてしまいましょう。
名詞 люди́на 「人」と дити́на 「子ども」は、念頭に置いているのが男性であっても文法上女性名詞として扱われます。それぞれ複数形では лю́ди、ді́ти と縮まったような形になります。ді́ти では語幹の母音も и から і に変わっていることに注意してください。
変化においては複数属格で語尾 -ей をとること、また複数具格で -ьми となる点を押さえておきましょう。
люди́на 「人」
![](https://assets.st-note.com/img/1704555061216-DTba1jc4zu.png)
дити́на 「子ども」
![](https://assets.st-note.com/img/1704555069974-hW8qGwpMXh.png)
最後に、ма́ти 「母、母親」を紹介しておきます。
この名詞は格変化の際、どこからともなく -р- が現れます。というよりは、英語の mother と同じ語源ですので、起源的には元々 -р- を持っていたのに単数主格のみで失われた、と考えるべきでしょう。なおネイティブが類推により単数対格と同じ ма́тір を主格としても使っている事例を見かけますが、あくまで正しいのは ма́ти でありこちらを使うべきとされています。
変化としては、е-і の交代、単数具格の語尾 -‘ю、複数属格の語尾 -ів と女性名詞のやっかいな要素を全て詰め込んだようなパラダイムです。この形の変化は唯一この名詞だけですので、確実に覚えてしまいましょう。
ма́ти 「母、母親」
![](https://assets.st-note.com/img/1704555080862-R3iV2M0Tf7.png)
この単語のニュアンスとしては日本語の「母」や「母親」のニュアンスに近く、かなり硬い感じです。口語では母親を表す単語としては ма́ма の方が使用範囲が広く、特に自分の母親を指す場合にはそれなりに硬い場でもふつうは ма́ма が用いられます。
ма́ти は役所の文書などで例えば「母の名:~~」などとと記載する場合や、одино́ка ма́ти 「シングルマザー」や хре́щена ма́ти 「教母、ゴッドマザー」といった決まった言い方、「~~母の会」のような名称、歌や作品のタイトルなどでは使用されます。
これで女性名詞の変化はおしまいです。お疲れ様でした!