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意志をなぞる髪、意志を後押しする髪。

「髪型、いつも安定しないよね!笑」

ある時、久しぶりに会った友人が、そう言った。

それは本当にその通りで、私のfacebookのアルバムには、顎のラインに切りそろえたボブの私の後に、セミロングの私の写真があって、すぐそのあとにボブの私がある。短くして、伸ばして、短くして、伸ばしていた。

それは中高大と不安定な私の心をそのまま投写したような、髪の移り変わりだった。やさぐれた自分を変えようと思って。受験まであと一年半だから頑張ろうと思って。成人式も終わって大人になったから、変わろうと思って。ただ変わりたいという想いだけで、私はいとも簡単に髪を短く出来た。それはこだわりや確固たる自分のスタイルがないことの現れでもあったし、短いことがそんなに似合わなくないというちょっとした自負でもあった。そして何より、美容師というプロに「変えてもらえる」ことの気楽さでもあった。

髪は、自分の一番外側にあって、それも顔のすぐそばにあって、否が応でも印象を左右する。他人からの印象も、自分からの自分への印象も。だからこそ、私は何か自分にむしゃくしゃした時、すぐに髪にあたることができた。髪を切ったらスッキリするのではないか、嫌な自分も一緒に消えてくれるのではないか、そう思えた。

確かにスッキリした。気分が上がった。いつも使わないフィルターを使って、滅多に撮らない自撮りなんかを撮った。鏡越しに何度も自分を見た。思わず顔が綻んだ。

でも、三日だ。三日経つと、思うように自分で扱えない短い髪の毛に、いらだった。ああ、首が寒い、なんで切っちゃったんだろ、そう思った。そうしてすぐ元の怠惰な、やさぐれた、八方美人な、薄っぺらい自分が戻ってきた。

また、髪がだんだんと伸びてきた頃、そんな自分が嫌になって髪を切ってもらった。その繰り返しだった。

・・・

けれども、私は今髪を伸ばしている。たしか最後にばっさりと切ったのは昨年の夏頃で、(コロナもあり美容室に行きにくかったという理由もあるけれど)1年半以上地道に伸ばして、人生最長の胸下くらいまで伸びてきた。

どうせなら…と、ヘアドネーションをしようという目的を持って伸ばすことを決めた。31cm以上の髪を送ることで、医療用ウィッグの作成に役立てることができる。だから、その時まで切らない。何度も切りたくなる衝動に駆られるけれど、切らない。伸ばす。伸ばす。

簡単に髪を切らないということは、私にとって自分の気分を髪で消費しないということだった。安易にプロの手を使って、自分の嫌な感情と向き合わないのをやめることだった。こうして髪を伸ばしている間にも、何度も嫌な自分に、変わりたい自分に出会う。それを、今までの美容師マジックが使えないから、なんとか自分で前に進ませないといけない。苦しい。けれど、その影響もあって、少しずつ読書量が増えたり、こうして文字を綴るようになった。そして、なんとか毎日ゆっくり歩いて、なんとなく目指したい先が見えてきた。

するとなんだか、髪の伸びが、ゆっくり自分の成長を見守ってくれるように思えた。変わりたい自分が、なんとか自力で変えようとする自分が、ちゃんと一歩ずつ前に進めているよと、伸びる髪が教えてくれているような気がした。だから、そんな髪をもっと綺麗に伸ばしたくて、髪を整えるために美容室に行った。

・・・

昔、私が美容室に行く理由は、私を変えてもらうためだった。意志薄弱なままでも、それが意志ではなく気分であっても、なんとなく美容室に行ったら変われる気がした。変えてもらっているのは外見だけなのに、なんだか内面も、ぐいっと変えてくれるような気がした。

でも、違った。内面は意志薄弱なままだった。

だから今は、自分の意志をなぞるように髪を伸ばす。変わりたいという意志を、髪の様により綺麗に伸ばすために美容室に行く。意志を養うのを、手伝ってもらうために、美容室に行く。

そして、いつか、どういう形かわからないけれど、意志が固まった時に、自分で何か決断をできた時に、その意志を忘れないために私は美容室で切ってもらう。31cm以上、切ってもらう。それは、変えてもらうのではなく、変わろうとしている自分を忘れないため。変わろうとしている自分を、ちょっと後押ししてもらうため。そのために、プロの力を、美容師マジックを借りにいく。

・・・

気分で髪を変えるのだっていいと思う。髪は、その人の心で、生き方で、いろんな生き方が、髪型が、髪の向き合い方があっていい。

でも、今はなんだかこうして髪を変えないことに、じりじりと伸びるその髪を感じることに、心地よさを覚えている。いつか、自分で決断できたときに、ばっさり切ってもらう。それはその時の自分のためで、いつか未来の自分のためで、結果的に誰かのためになる。その巡りに出会うために、伸ばしている。

意志をなぞる髪を育てに、美容室に行く。

意志を後押ししてもらうために、美容室に行く。

これが、私が美容室に行く理由だ。

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