ちぐはぐ
なんだかやけにぼんやりとふわふわする物語の1節のような1日だった。空がやけに青くて、空気がやけに澄んでいて、心地いい。心地いい日なんて、もう何年も感じていなかったのに。あの頃過ごしていた日が突然戻ってきたような淡くて穏やかな1日だった。
それなのに、全てが社会の型にハマっていないようで。美容院では指定された位置に頭を合わせることができないし、渡ろうと思った信号は足を踏み出した途端点滅が始まるし、乗ろうと思った電車はホームに着いた途端に走り出してしまうし。扉に呆気に取られた私を一瞬映り出して走り出す。みんなどこかへ行ってしまう。
ジグゾーパズルの他のピースは合っているのに最後の1つだけが、正しいはずの位置にハマらないみたいな。
私だけではなくて、外の空気もいつもと色が違う。初めて空気を演じている空気の新人。月だっていつもよりも落ちている。変な1日だ。
道明寺派か花沢類派かの話で盛りあがることのできない少女だった。「正しい感情」がインストールされていないのだと気づいたそれからは、周りをよく観察して、人はこういう時にこのような行動をとり、このような感情を持つのだということを深く鋭く理解し、それを真似することで、「正しい感情」の血を私の中に血液として吸吸してきた。
みんなが、易々とこなすことが私の生まれつきのマニュアルには書かれていないことばかりで、毎日毎日知らないことばかりの中、まるであたかも普通にこなしていますよ!という顔をしながら、全神経を研き澄ませ周りの人の感情を吸収し、行動をインストールしながら生きてきた。変な人生だ。
「間違ってもいい」ではなく「間違っちゃいない」が先にくるような彼の生きづらさと不器用さが愛おしくて。「間違ってもいい」と言った後も、何度も何度も「間違っちゃいない」と自分に言い聞かせるかのような叫ぶ姿が印象的で。世界の主人公のような彼が、世界の片隅にいる自分と同じ目線でこの世界を生きていることに信じられないほど衝撃を受けた当時。ちぐはぐなままの靴紐じゃ歩きづらいことを知っていながらも、その靴を履くしかなかった私を唯一肯定してくれる温かさを持っていた。久しぶりに聴いたその曲は、私にまた違和感だらけの世界を見つめることを思い出させたのかもしれない。
最近は、正解が必ずある世界で、人生って唯一、正解がないものだと思い始めていたから、自分の選んだ道を正解にしてやるんだ!と息巻いていたあの頃のことを幼く感じてしまうほど、間違っていても不安にならないような生き方を探していた。でもね、違和感まみれのこの世界で明日からも生きていくんだきっと。
なにもかもがすこーしずつずれていて、変な人生を歩んできたけど、いつもに増して不思議な1日だった。世界を動かしてる歯車がどこかで狂ってしまったような。