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TLではあまり見かけなかった2022年の10曲

年末年始になると、Twitterのそこここから「今年の年間ベスト・アルバム」的な投稿が散見され、毎年楽しく拝見しています。
しかし、自分のタイムラインではあまり見かけなかったけど、聴いて良かった、好きだった音楽がいくつかあるなーと、10曲ほど書きまとめました。

近年は音楽を素面でのみ楽しむようになり、それはそれで気持ちいい音を探している中年男性の記憶の記録です。


DOPE LEMON - Rose Pink Cadillac

スッカスカな伴奏の合間を、高音のギターフレーズがつんざき、重なる歌声は酔いヨレている。しかして質感は懐かしさよりポップが強く、徐々に重なっていくキャッチーな展開も、入りの抜きがあるからめっちゃ気持ちいい。その隙間は、行間ではなく快楽。

豪国の音楽一家に生まれた姉とのバンド Angus and Julia stoneも、上記からの後追いで知りましたが、どれも美しく気持ちいい。元々は内向的なシューゲイザーな見た目だった彼も、キャデラックやらプール付きの豪邸やらでまったり豪遊しており、そんなギャップにグッと。2022年で最も聴いたアーティストでした。



Gabriels - Angels & Queens

ミュートを効かせて細かく粒揃えたリフに、ゴスペル調のファルセットがねっとり絡み合うイントロだけで、名曲と確信できる気持ちよさ。
調和された伝統と革新が、乾いた音色で奏でられるサウンドは、アメリカ音楽ならでは。しっかりキャッチーに盛り上がっていく点も含め、本当に丁寧に作り込まれいる。

同曲も収録したEP『Angels & Queens - Part I』は、Kendrick Lamar『Mr. Morale & The Big Steppers』と並べて称賛する評論家まで。米国と英国出身のプロデューサーかつバイオリニストとキーボーディストに、ゴスペルシンガーというトリオ編成も面白く、来春には上記の続編をリリース予定と、さらに大きく跳ねそう。



Haim - Lost Track

オルゴール的な音色に始まり、ハンドクラップにウッドベースと温かみのあるサウンドを、幾重ものコーラスで折り重ねていく真ん中で、ストレスを吐き出すようにエモーショナルなボーカル。緻密に変化していくそれぞれに一切の無駄はなく、2分半の完璧なポップス。

人気すぎてむしろ呟かれなかったのか、単に見過ごしてたのか。ともあれ上記のミュージックビデオは、HaimではおなじみのPaul Thomas Andersonが手掛けたが、同氏が監督の映画『Licorice Pizza』にもメンバー三姉妹の三女:Alana Haimが主演して話題を呼んだ。基本映画は見ない自分だが、この組み合わせはさすがに、と思いながらまだ見てない。



Pale Jay - Under The Magnolia Tree

抑えながらも小気味良いリズムに、パッツパツの寂しげなギターで、ファルセットのソウルフルな歌声と、中にはCurtis Mayfieldを引き合いに出すレビュアーも。極上にスウィートなサウンドを、白ハットと白ハイネックの間から真っ赤な目出し帽という、抜群のルックスで生み出しているのが素晴らしい。

また、この曲も収めたデビューEP『The Celestial Suite』に収録された楽曲を、ニューヨークはブルックリン出身でFlatbush Zombiesのメンバーとしても知られているErick The Architectと再演?した「Donny In Valdez (PJ's Flip)」が240万再生のヒット。2023年はもっと人気出そう。



The Armed - AN ITERATION(Live)

筋骨隆々の若者たちが鍛え上げた肉体を汗でテラつかせながら、楽器をかき鳴らす。怒号のような地鳴り声の上を、どキャッチーなメロディが響き渡る。……なんてのは割と苦手なはずなのに、たまらなく愛おしく感じるのは年柄なのか時代なのか、と思っていたけど調べてみたら納得。

デトロイト出身の彼らは、登場当初から匿名性をはらみ、CONVERGEのKurt Ballouを共同プロデューサー的な立ち位置に据えて、実験的なアプローチを続けているバリバリのアート・プロジェクトだった。
オルタナティブなハードコアを基調としながら、作品ごとに異なるサウンドも素晴らしく、サマソニでの来日などが映えそう。



Toro y Moi - Déjà Vu

逆再生っぽいイントロに始まり、まったり気だるいテンポと、ちょっと素っ頓狂でかわいいコーラスに……、と殿堂に飾られたサイケ・ポップスのお手本のような名曲。同じくシングルカットされた「Postman」も見事だったし、これらを収めたアルバム『MOHAL』は久々にヘビーローテーションだった。

Toro y Moiが良いのは、みんな知っています。かつてタワレコの試聴機にセレクトされていたデビュー作『Causers of This』の「Blessa」をたまたま聴いて目ん玉トビ出る衝撃を受け、聴かなくなる時期とかもあるけど、なんだかんだ作品が出るたび「さすがだー」と感動させらている。



Duval Timothy - Wood ft. Yu Su

ミュートの効いた柔らかいピアノの旋律が、やがて聞こえてくる小鳥のさえずりと共に跳ね始める。音色の美しさを際立たせるシーケンスの数々も絶妙で、クラシカルな基調に、ほどよい現代性が気持ちいい。聴き手を選ばないシンプルな構成ながら、聴くたびに発見のある良作だ。

当然のようにKendrick Lamar『Mr. Morale & The Big Steppers』への参加で彼を知りましたが、この曲でフィーチャーされている中国出身バンクーバー発の新進気鋭 Yu Suの音楽もユニークで美しい。さらに旧譜も名作揃いと、ここを起点に新たな発見が続々。

あと、この曲を収録した最新作が、リリース間もなく突然Spotifyから削除され、2〜3週間経ってから復活したのは何だったんだろう。



NewJeans - Ditto

くぐもったシンセフレーズが優しく響く中、軽快なリズムに合わせて、韻が心地よいキュートなメロディが、スロウにタイトに伸縮する。仰々しく埋めるのでなく、緻密に仕立てられた90'sテイストは、気品があり鷹揚だ。

根本敬でポンチャックを知り、15年ほど前から愛聴しているK-POPの2022年度No.1がこちら。BTSも所属するHYBEの新レーベルからデビューという期待を大きく上回るクオリティで、ホームビデオ風のミージックビデオもかわいい。

本投稿のコンセプトにはそぐわず、自分のTL上も大いに賑わせていた彼女たちだが、グループ・アイドルというジャンルで世界最高峰まで登頂した韓国音楽の底力に圧巻、ということで。



Broken Bells - Love On The Run

郷愁を誘うピアノに始まり、ゆったりとしたバンド・サウンドに管楽器が加わる。言い聞かせるような優しい歌声は甘く、王道のど真ん中を行く"アメリカン・ロック・バラード決定版!"みたいな7分超えの大作が、2022年の新曲だなんて。スライドギターのソロパートが2分続いた末に、フェードアウトするアウトロは最早ギャグだ。

Danger MouseことBrian Burtonと、The Shinsのボーカル・ギター James Mercerによるロックバンド……とは不覚にも知らず。Danger Mouseといえば今年は“17年ぶりのヒップホップ・アルバム"の発表もあったが、この80'sのテッパン一直線っぷりは、オジサマには懐か嬉しい。

追憶のライラック」や「ま、いいや」と同じフォルダで、人生を通して愛でていくことになるであろう素晴らしい出会いでした。



Takada Fu - A SubaraC

ロックバンド Walkingsの首謀者にして、近年では井上拓己とのフィナンシャル・ロックバンド Deges Degesで活動していた。しかし2021年末からは本人名義のトラックメイカーとして、ジャジーかつユニークなLo-FiやChillhopをコンスタントに発表し始めた。

2022年4月にはドイツのインディペンデントHipHopレーベル「S!X - Music」らによる反戦コンピレーション『YOUKRAINE - Together in Peace』に参加。その後もシカゴからLo-Fiやchillhopを手掛ける「Lifted LoFi Records」や、「urbanundergrounds」「Vinyl Digital GmbH」といった独レーベルからのリリース、「Tsunami Sounds」と「Japanolofi Records」によるコンピ参加などなど、現在も精力的な活動を続けている。

時間はかかるし、まだ大きな波ではない。それでも世界の音楽好きの人たちが、ようやっと触れ始めた。