今日気持ちよかった音楽: The Vernon Spring - Mai
"幸運にも他の手段で安定した収入を得ている"という謎のシンガーソングライター Saoirse-Junoとのコラボによる「Mai」が、先月の頭にThe Vernon Springのニューシングルとして発表された。すでに昨年秋のEPに収録されていた楽曲なのに、なぜ?
弱冠17歳でAmy Winehouseに抜擢された天才
The Vernon SpringことSam Besteを検索すると、まず目につくのが、"弱冠17歳にして、Amy Winehouseのワールド・ツアーのピアニストに抜擢"という天才型の経歴だ。
いくつかのライブ映像を調べてみると、確かに2000年代後期のライブにて、キーボードを演奏する若き日の彼と思しき姿が散見される。また、Amyが2008年にリリースした7インチ・ヴァイナル『THE SKA EP』にもピアニストとして参加しており、早くからその才を認められていたことが窺える。
バンドでの活躍から待望のソロ・デビューへ
こうしてロンドンが拠点のピアニスト・作曲家・プロデューサーとして、早くから注目を集めたSam Beste。2010年代からはalt-soulトリオ Hejiraの一員としての活動も始まり、2014年、2019年とそれぞれアルバムを発表して話題を呼んだ。
そして同じ2019年秋、彼はThe Vernon Springとして、「Another」でソロ・デビューを果たす。ミュートを活用して奏でられる繊細なピアノの音色は、美しさ優しさも然ることながら、トリッキーでユニークなアプローチが耳に楽しく気持ちいい。
アップライト・ピアノのミュートによる独創的なプレイ
その後もシングルやEPをリリースを続け、2021年に待望の1stアルバム『A Plane Over Woods』を発表。本作で特にフィーチャーされたのがカヴァーだった。
本作のSpotify配信の中で最も再生数が多い、エチオピアの修道女にしてピアニスト Emahoy Tsegué-Maryam Guèbrouの「Mother’s Love」
数百本のカセットテープから始まったという名盤『Keyboard Fantasies』の1曲で、シンセサイザーの重奏が印象的だった原曲をミュート・ピアノで表現したBeverly Glenn-Copeland「Sunset Village」
Spotifyの楽曲クレジットのソングライターには"Bill Evans、Miles Davis"と記載されている「Blue in Green」
作詞 Sam M. Lewis、作曲 J. Fred CootsによるBalladで、1930年代から愛され続けているStandard Number「For All We Know」
壮麗なコーラス・ワークが幻想的でAmbientな音像を、打鍵の音まで聴こえる繊細な録音で象ったJames Blake「Waves Know Shores」※ボーナストラック
ここまで彼のピアノを称する際に、"ミュート"という言葉を何度か使っているが、この表現は正しいのだろうか。アップライト・ピアノの真ん中のペダル……、消音ペダルとかマフラーペダルと呼ばれる機能を駆使して、打鍵の音まで聴こえるほど繊細に録音するのが、The Vernon Springの音楽の大きな特徴だ。
なお、本作収録曲を再演しているライブ映像で、ピアノの弦とハンマーの間に、フェルトが挟まっているシーンが確認できる。
大ブレイク確実Gabrielsの新曲にも参加?
一方で、冒頭で紹介した2022年秋に発表したEP『Earth, On A Good Day』のように、芯のあるベースや有機的なリズム、melancholicな多重コーラスとの調和を楽しめる作品もある。
こちらは"Ghostpoetの楽曲をアレンジし、新たに発表したもの"とのこと。他にも、映画の劇伴を担当するなど、本当に多才と多方から窺える稀有なアーティストだ。
ちなみに、今年の大ブレイクが確実視され始めているGabrielsの待望の新曲「Offering」のA COLORS SHOWに、ピアノで参加しているとの情報も!?
余談
色々調べてたら、Spotifyなどには配信されていない音源で、Marvin Gaye『What’s Going On』をソロ・ピアノでカヴァーしたLPがある知り、早速Amazonで購入した。そろそろ家でレコード聴けるようにしたいな。