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還暦記念 北アルプス山旅2024〜プロローグ

【プロローグ】

山旅

還暦を迎えた今年、これまでやりたくてもやれてなかった北アルプスの長期縦走を計画した。長期の定義は知らんけど、2泊3日くらいは何度か経験あるので、これは長いなぁと感じるくらいの期間ということで5泊6日に決める。縦走という言葉にはいかにも登山って感じの独特の凄みがあるが、そういうんじゃなくてあえて「山旅」と呼ぶ。旅が好き。

休暇

還暦を迎えたとは言え、仕事を辞めたわけじゃないので都合を見計らって7月29日から8月2日、つまり月曜日から金曜日のまるまる5日間、有給休暇をとった。現役社員だと取れないのかというと今時はそんなこともないのだろうが、嘱託社員という立場で「可処分所得」が減った分「可処分時間」を増やそうという気持ちも後押しして思い切って休暇を取る。仕事の仲間には申し訳ないけど、自分がいないと仕事が回らないのでは困るし、実際ところ仕事なんてものはチームで動いてるので、自分がいなくても回っていく。そうやって世代交代していかないと組織としてサステナブルではないのだからとポジティブに考えることにする。

ルート

日程が決まったら次はルートだ。アプローチが長く、行きたいけど短期間では行きにくいところ。その一つが雲ノ平でここは必ずルートに入れたい。そこを中心に6日間を組み立てる。コースタイム(CT)は最もポピュラーな「山と高原の地図」のCTをベースに、その0.8掛け。最悪、ベースCTでも日が暮れる前には着くくらいのところを宿泊地とする。地図を眺め、CTを積算し、想いを巡らせてルートを計画するのはむっちゃ楽しい。

で、決めたのがこのルート。東京駅から室堂までは夜行の直行バスを利用する。7月26日金曜日は在宅ワークにして仕事が終わってから東京駅へ。そして27日の早朝には室堂へ着いている。超楽ちんだ。

立山室堂から入って上高地までとは一見壮大な印象もあるけど、6日間もあると思いの外、ゆったりとした行程だ。山旅を存分に楽しめそう。6日目の上高地は8月1日(木曜日)。念のため8月2日(金曜日)も休暇にしてあるのでその後の土日も含めて不測の事態で予定が延びても大丈夫。なんとも贅沢な計画だが、還暦記念なので許してもらおう。(実際は計画通りでもなかったのですがその顛末は別途)

テント

宿泊を小屋かテントのどちらにするか決めないといけない。実は定年退職前に仕事のチームメンバーから「定年退職のお祝いするので本当に欲しいもの考えて下さい」と言われたので真に受けてマジで考えて行き着いたのが「ダブルウォール(外張りがある)でかつ自立型(ペグが無くても立つ)のULソロ用テント」だ。むっちゃマニアックでチームメンバーにはきっとその価値とか理解できないだろうな。と思いつつ本当に欲しいものはそういうやつなので許してもらおう。ネットを調べまくって決めたのがMSRのハバハバシールド1。重さは1kgほど。デザインもむっちゃカッコいい。

ダブルウォールでもっと軽いのもあるけど、インナーがほとんどメッシュだったりして3000m級の高山や秋山登山には少々心許ない。1kgというのは許容範囲だろう。値段はかなりお高くて目安に言われてた予算をオーバーするのだが「本当に欲しいもの」ということで差額は自腹で払うことにしてこれをお祝い品として買ってもらう。結局は差額を嫁さんがプレゼントしてくれたので自腹は切ってません!

みんなありがとう!

なので計画上はオールテント泊。近頃の山小屋は昔と違って完全予約制。長期なので不測の事態があるやもしれない。予約があるからと無理して行動するのはしんどい。テント泊なら臨機応変に対応できる。それに近頃の山小屋は1泊2食で1万5千円程度と昔の2倍くらいになってる。5泊もしたらそれだけで大変な金額だ。荒天で身の危険があれば小屋に逃げ込むかもしれないけど・・・

食料

テント泊で5泊6日の山行は経験がない。小屋泊まりなら2食ついてるのでなんの心配も要らないのだが、テント泊だと6日分の食料を持たないといけない。タイミング良く山小屋を通過できたらまともな昼食を取れるかもしれないがあてにはできない。缶詰とかレトルトは美味しいけど重い。軽量化の点ではフリーズドライに勝るものはない。うまく選べば味もそこそこで不味いものばかりではない。飽きないようにアルファ米、リゾット、パスタ、シチュー、ラーメンなど色々と取り揃える。そしてコーヒーとお茶。コーヒーは、ミルとドリッパーを持っていって挽きたてを飲みたいと最後の最後まで悩んだが、スタバのインスタントとカートリッジに甘んじた。ミルは比較的軽量なやつでも265gもある。それにフィルターと豆のカスはゴミとして持ち帰らないといけない。苦渋の選択だったが、無理してでも持っていけば良かったかなと今更ながら思ったりもする。挽いた豆の鮮度が落ちないような工夫をしてドリッパーだけ持っていくのも一案。今後のために考えてみたい。

以上が夕食と朝食(食べない日もあったが)で、それ以外は行動食でカバーする。大きさの割にカロリーが高い、味が好きということでミックスナッツと無印良品のバウムがメイン。これだけだとさすがに飽きるので他にもいくつか加える。

6日分ともなるとかなり重いが、食べることは疎かにできないので許容する。
食べれば減るのだから頑張って食べるのだ!

ストーブ(火力)

ストーブは、ガス、アルコール、固形燃料が選択肢。昔はホワイトガソリンのバーナーを使ってたけど重過ぎて選択肢には入らない。ガスは使い慣れてるし火力もあって安心だが、ガス缶が重いのと消費してもガス缶自体の大きさと重さが残る。長期テント泊の山行経験がなく消費量の予測がつかないので多めに持ったりすると嵩張るし重い。食事がフリーズドライ中心なので少量のお湯を沸かすだけで良い。であればアルコールや固形燃料でも大丈夫そう。しかしアルコールと固形燃料は最後まで決め手がなく、実験的な意味を含めて今回は両方持っていくことにした。アルコールは多少使ったことがあるけど固形燃料は初めて。どちらも、どのくらいの量の燃料で何分間でお湯を沸かせるか事前に試してみてだいたいの感覚をつかむ。後はぶっつけ本番だ。実際に山で両方使ってみた結論としては固形燃料に軍配が上がった。持ってるアルコールストーブによると思うが、風が強いと風防で囲っていても火力が安定しないし、それが故にアルコール消費量がばらつく。一時消化も蓋をするなどの手間がちょっと面倒。それに比べると固形燃料はアルコールより沸かすのに時間は掛かるが火力が安定してる。途中で消したい場合はフッと息を吹き掛けるだけ。再着火も問題無し。時間が掛かると言うが何を急ぐことがあろうか。お湯が沸くまでのゆっくりとした時間を味わうのも良いものだ。おまけにガスと違って音がしないので静か。(ガスがゴォーゴォー燃える音も嫌いではないけど)

固形燃料用のストーブは持っていなかったので新たに購入。

チタンマニアのチタン製ポケットストーブというやつ。折り畳み式で超軽量15g。固形燃料1個と重さが変わらん(笑)
もちろん風防は必須なので購入。トークスのチタニウムウィンドスクリーンというやつで15g!(笑笑)
これぞULTRA LIGHT(U.L.)の世界ってやつだがそれを極めるつもりはないことだけ言っておきます。

軽量化の意味

食料と燃料と水は消費していくので重さが変わる。日数によっても大きく変わるのでで、これを含めて重いとか軽いとか比較しても意味がない。というわけで、これを除いた装備重量をベースウェイトと呼ぶ。(身につけるウェアや時計などは含まない)U.L.の世界ではこれを如何に減らすかが命題。ネットで調べるとベースウェイトについての情報が溢れかえってる。

闇雲に軽さを追求しようとは思わないけど、
・ベースウェイトを1kg削ってその分、水を1kg増やす方が安心・安全
・荷物が軽いとエネルギー消費が減るので、道迷いや天候で行動距離や時間が延びてしまった時の余力を残せる
と考えると軽量化はとても意味のあるのことなのだ。

大きく軽量化しようと思ったら細々としたものよりも大物をやっつけた方が手っ取り早い。テントは真っ先に手を付けたのでザックとシュラフ(寝袋)とマット。どれも持ってないわけじゃないけど3000m級の山に5泊6日も滞在するには帯に短し襷に長し。人生は長い。これで最後というわけではないので思い切って新しいのを買うことにする。

U.L.は色んな考え方、やり方があるので、興味のある方はとりあえずこれ読んでみてください。

ザック

まずはザック。若かりし頃(30年くらい前)に登山をしてた時に使ってたやつは65L(最大75Lまで拡張)で1.8kg。

フレーム、ショルダーストラップ、ウェストベルトがガッチリしてて耐荷重はかなりありそう。その頃はU.L.なんてのは今ほど知られてなかったし、デカくて重い荷物を背負ってゾウのようにのっしのっしと歩むのがカッコよかった。今でもそうなのかもしれないが、トレールランニングやファストハイクを志向してからはカッコ良さのイメージが変わってしまった。もちろん今でも使えるが、ザックを担ぎたいわけじゃなくてザックの中身を担ぎたいのだからザックは軽い方が良い。しかし軽過ぎると耐荷重も下がるので、中身の軽量化とセットで考える必要がある。自分の場合はU.L.を極めたいわけじゃないので、そこそこの耐荷重も必要。
てなわけで買ったのがこれ。

容量55Lで重さは1kgほど。

ぱっと見の大きさはそんなに変わらない感じだが800gも軽い。ポケットも潤沢で使い勝手も良さそう。しかもフレームが入っていて耐荷重は18kg。しかし、知る人ぞ知るアメリカのU.L.ブランドだけど国内で取り扱うお店は限られていてほぼ売り切れ。怪しいネットショップで買うのもリスキーなのでブランドサイトの直販で購入。運賃、通関料などかなり高くついた。しかも円安(泣)。今回の山行中に、このブランドのザックを担いでる人を何人も見たので人気があるのだろう。

シュラフとマット

次にシュラフとマット。この2つは組み合わせで考えることにする。

今、持っているシュラフは、快適使用温度5.6℃(42°F)、800FPで610gのマミー型(人型の袋状で脚先が細くなっている)。

3000m級でも夏山ならこのスペックで問題無いのだが、場所、天候、時間帯によって寒暖差が激しい。衣服で温度調節するのが一般的なやり方で、寒い場合は、ダウンジャケットを着たりするのだけど、暑い時はシュラフを脱ぐしかない。明け方に冷え込むと寒いのでまたシュラフに入ったりする。安眠にはあまりよろしくない。そして色々と調べていくうちにキルト型に行き着く。暑いときは袋を開いて四角い掛け布団になるので温度調節がむっちゃ楽。寒い時は閉じて使うが、閉じても四角形なので足元が広いのもメリット。(実際のところ横向きに寝て脚を直角に折り曲げても圧迫感無し)
で、買ったのがこれ。

最適使用温度4.4℃(40°F)、950FPで420g。より低い温度に対応しつつ190gの軽量化。これも国内の信頼できる取り扱い店は売り切れ。アメリカのメーカー直販で購入したのでザック同様かなり高くついた(涙)

※FP(フィルパワー)についてはややこしいので興味のある方はこれを読んで下さい。

開いた状態

開くとほとんど羽毛布団だ。家でも使えそう(笑)
背中側の開く部分は隙間があって羽毛が無い。たとえマミー型で背中側に羽毛があったとしても、体重でロフト(ふわふわ)が潰れるので保温性効果はない。なので冷えた地面から体温を奪われるのを防ぐためにマットを敷く。マットが機能していないと身体が冷えることは経験済み。むしろ断熱効果の高いマットにすればシュラフの快適温度は高めでも安心なのでは・・・これがシュラフとマットを組み合わせで考える理由。
で、マットも新調することに。
どんだけ買うねん(^_^;)

マットはウレタンフォームもエアマットもかなりU.L.なやつを持ってる。断熱性はそこそこで軽さを追求するならそれでも良いのだが、5泊もするので快適度を重視してみたいと思ってネットで調べて行き着いたのがこれ。

長方形なのでキルト型シュラフにもぴったし。

かなり分厚くて地面とはほぼ縁切りできてそう。それでいてフワフワしていなくてベットに寝ているかのよう。なかなかの技術だと思う。
R値5.4で454g。

※R値とは、暖かい体から冷たい地面に熱が流れるのをマットがどれだけ抵抗するか(防ぐか)を示す測定値

R5.4だと外気温0℃以下でも大丈夫。夏山だとややオーバースペックだが寒暖差をかなりカバーできる。454gはけっして軽くはないが、断熱性の高さを見込んでダウンジャケットを持たないことにして少しでも軽量化を図る。

バッテリー

その他、細々とした装備もなるべく軽いものを選んで軽量化を図るが、そんな涙ぐましい努力を不意にするのがスマホのバッテリーだ。昔はスマホなんて無かったのだから、無きゃ無いでいいはずなのだが、地図情報と現在位置の確認(GPS)から山小屋での決済まで、スマホのある無しで心身の安心・安全度が大きく変わる。バッテリーが切れたらヤバい。小屋泊まりだとたいがいの小屋で充電サービスをやってるので心配しなくて良いのだが、テント泊だと充電できるかどうか定かでは無い。なので容量多めにモバイルバッテリーを持つことにする。一つで容量が大きいと重くてハンドリングが不自由だし、雨で濡らしたりして壊れる可能性もあるので10000mAhを3個持つことにした。
175g×3=525g
かなり重い・・・
iPhone 13miniのバッテリー容量が2400mAhなので13回分。かなりオーバースペックかもしれないが故障のリスクも踏まえて今回はこの重さを許容することに。

ベースウェイト

U.L.の定石通り、今回、初めて全ての装備の重さを個々にグラム単位で測った。何がどのくらいの重さなのかを把握できたことは今後の山行にも役立つと思う。旅が終わって振り返ると、これは要らなかった、あれは持っていけば良かった、これはもっと軽量化したいとか以前より想像力が増したかなと思う。だけど当分新しい物は買わないようにしよう(^^;;

最終的なベースウェイトは9kgくらい。とてもU.L.とは言えないが、長旅なので安全性や快適性も考えると致し方無し。食料、燃料、水を含めると15kg近くなってしまった。(食料、燃料、水は安全を見過ぎたところもあったのでもうちょい削っても良かった)それでもザックの耐荷重よりはだいぶ軽いし、担いでしまうとそんなに重さは感じない。後半、食料はどんどん減って軽くなるのでこの辺りで手打ちとする。

それにしても散財したなぁ(~_~;)
海外ブランドが多いので円安でかなり高くついたし。安心・安全のためという大義名分も無いではないが、やはり好奇心×物欲であることは否めない(^_^;)
単にギア好きなだけかも。
だって楽しいんだもん。
まだ旅は始まっていないけどここで一旦締めるとしよう。
こんな調子でホンマに最後まで辿り着けるのか・・・

「還暦記念 北アルプス山旅2024〜DAY1・DAY2」へ続く





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