【環境省】ペットオークション・ブリーダーの一斉調査を説く
タイトルの調査を環境省が実施し、その結果が発表されています。
今回はこの調査報告を正しく読み取り、実際にどのような問題が見え隠れし、どのような対処が求められるべきかについて解説します。
調査について
この調査の目的はおそらく、販売日齢に達していない個体の違法販売がどれくらいあるかを把握することです。
まず法的な背景として、動物愛護法が改訂され、犬猫の販売可能となる日齢が57日齢からとなりました。その施行過程でまずは2016年9月1日から46日齢以降、次に50日齢以上と猶予期間を経て、57日齢以上という規制が施行されています。
これにより、小さいほど可愛くて売れる日本の犬猫市場で商売をするブリーダーは不利になりました。
できるだけ小さいうちに離乳したらすぐにでも売りたいブリーダーですから、生年月日を誤魔化して早く出荷してしまおうという悪事を働く人が出てきます。
これは法改定前から指摘されていましたので、では施行後数年経ってその悪事を働いている人がどれだけいるのかという調査をしたわけです。
印象操作
この発表をとりあげる人の中には、あたかも業者の半数が違法なことをやっているというニュアンスで拡散する人がいます。
しかし、環境省発表にもあるとおり、そもそも怪しい業者をピックアップして調査対象としたとあります。もちろん、調査対象にならなかった業者の中には出生日改ざん違法行為をしている業者もいるはずです。
しかし、全体の半分の業者が違法という、ブリーダーという業界自体が悪徳業界であるかのような印象操作は間違っています。
そしてそれを真に受けないでください。
出生日改ざんはある
結果を先にいうと、出生日改ざんはありました。
環境省はおもしろい着眼点で調査をしていたので、解説します。
出生曜日
オークションで販売に出された犬猫の出生日の曜日に不自然な偏りがあったということです。
例えば、45日齢規制の時期に火曜日に会場するオークションでは金曜日生まれの個体がやたら多かったということです。
これは、その販売した日=46日齢と逆算して出生日を申請していたことの裏付けになります。
具体的には、2月20日(火)にオークション販売された犬猫の出生日は、ちょうど46日前の1月5日(金)が異常に多かったということ。下図の会場Bのパターン。
普通は会場Cのように出生日の曜日はばらつきます。なので、オークション会場A、B、Dでは改ざんが行われている可能性が高いという示唆。
環境省はおもしろい視点でこの調査を実行しましたね。頭が下がります。
出荷体重
こちらは誰もが理解しやすいです。
申請日齢のわりに子犬猫の体重が異常に少なければ、出生日改ざんしていることを強く疑えるということ。
表を見比べてもらえれば一目瞭然ですね。
例えば56日齢の平均体重はトイプードルで1000gを超えてくるはずなのに、販売された56日齢とされる個体の平均体重は700gしかなかったということです。
トイプードルも体格様々ですが、幼齢期は日に日に体重が増える時期。そんな時期にこれだけの差が生まれるのはさすがに異常です。
つまり、このデータも出生日改ざんを裏付ける重要なデータのひとつとなるわけです。
改ざんに悪意はあるか
おもしろい着眼点で調査をして予想した結果が出ていますが、ひとつ問題があります。
普通に考えてください。本当に誤魔化すなら、出荷日から逆算してきっちり46日前を出生日に揃えないです。
保健所勤務経験のある方は強く共感してくれると思いますが、ブリーダーの中には記録、書類提出ができない人が一定数います。
ここからは完全に想像ではありますが、そのような人がオークションに卸す際、オークションの人に言われたとおりに最低限の書類を書くことでしょう。
「今日は2月20日(火)。46日齢だと1月5日(金)生まれってことになるから、そう書いて。」
これにより、2月20日に出荷された犬猫の誕生日が書類上1月5日になります。
勿論、これは悪じゃないとは言いません。でも「ちゃんとやろうと思ってもできない」のです。
そういう人は業者として継続すべきではない。そのとおりです。
ではどうやって指導していくべきか。
口頭指導の多さ、告発の少なさ
行政は口頭指導ばかりで、全然文書指導や勧告に進まないです。これは僕自身も指摘し続けています。
法令違反なのであればしっかり手順を踏んで、勧告命令まで駒を進めるべきです。取り締まれない法令に意味なし。
ただ、今回のような「できない」人に強制的にやらせるというのは、愚策だと考えています。
それをできるように教えてあげることが行政マンのやるべき「口頭指導」ではないでしょうか。
行政マンでも、行政マンでなくても、行政による口頭指導って「これをやってください。さもないと違反です!」というイメージを持っていませんか?
実際そのような行政マンも多いです。
でも私はその口頭指導は間違っていると思います。
特に本件のような「できない」人がいるような案件では、教えること=口頭指導だと言えます。
1か月に1回くらい訪問して、
「どうですか?できました?記録簿見せてみて。あ、ここはこうじゃなくて、こういうことを書くんですよ。今月この子が3頭産んだんですよね。そしたらここに3って書いて…」
これを口頭指導1件と計上するのです。
つまり、できていない業者には何度も通うのです。え?時間がない?
それはどんな業者も一辺倒に監視に行っているからです。人がいません。時間がありません。
だったらできていない業者に集中して教えに(指導しに)行ったほうがいいと思います。このほうが改善につながります。
これを続ければ悪意がある業者には嫌がられるし、嫌がられていれば改善します。改善しなければ文書指導、勧告、命令と淡々と進めましょう。
できない業者に怒らず、改善する気のない業者、悪意のある業者は叩く。
こういう行政指導であって欲しいと思います。
ここまで考慮すると、口頭指導が多いのも理解できませんか?
「もっと勧告命令を!」という気持ちは私も持っていますが、その手前に「もっと質のいい口頭指導を!」という大きな想いがあります。