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エンゲキノチカラ

2か月くらい前…ぼくは「演劇界が嫌われちゃった」という記事を書いた。
このコロナ禍において…全世界の人々は悩み、苦しみ…決断を繰り返してきたことと思う。
このぼくも…悩み、苦しんでいることはある。

そして、今日、また…演劇の世界に打撃となるニュースが飛び込んできた。
とある公演で出演者、スタッフ、お客様が罹患されたというニュースだ。

▼どうしていいか正直わからない。

このニュースに触れた時に…「ああ、こうなってしまったか・・・」というのが最初の感想だ。
結論から申せば…今の世の中で演劇界がおかれている状況は良いとは言えない。もちろん全業種、この「新型コロナウィルス」に対して細心の注意を払っているだろうし、工夫も行っているはずだ。
営業形態を変化させたり、利用する客の人数を制限するなどの工夫がそれだ。

舞台公演を行うことについて賛否両論あるのは承知している。
公演を行うところもあれば、そうでないところもある。
その中で、「完全に安全です」と言い切れないところがあるから、主催も俳優もスタッフもお客様も…知恵を出し合って「公演」が成り立つのではないか、と考えている。
それにありがたいことに「生の舞台を観たい」と仰っているお客様も多数いらっしゃる。

だから、今のこの時期に舞台公演を行う、ということが良い事なのかそうでないのか…ぼくは正直どうしていいかわからない。

▼件の公演は・・・

ぼくは件の公演は観に行ってもないし、関係者に知り合いも居ないので、ニュースの聞きかじりでしかないが・・・
少し緩みというか…お客様の安全を最優先していないのではないかという印象を受けた。
また、この件をうけて「舞台は怖い」というイメージだったり「舞台は危険」というイメージが少なからず出てきているのではないかと感じている。

もちろん、「劇場で感染した」か定かではないが…
複数の出演者、スタッフが罹患しているということであれば…やはりそのプロジェクトで感染があったことは想像に難くない。

一時期ニュースに出ていたように、オフィスでも集団感染があったように…ウィルスは場所を選ばない。
見えないからこそ、ウィルスという敵は…人間がどれだけ対策をとっても入り込んでくることがある。

ぼくが件のニュースで感じたのは、本当に「舞台作品を届けたかった」のかということだ。
もし、出演者やスタッフの一人が体調不良を訴えたのであれば…劇場に入れた判断はなんだったのか、と感じる。
無論、舞台は出演者もスタッフも本番期間であれば代わりになる人間を探すのは難しいところがある。
しかし、この時期に公演を行うという選択をした以上、「中止」するという方法、決断を合わせて持っておくことは大事だと考えている。

▼安全が第一

この記事を読んでくださっている方の多くはよくご存知であると思うが、
 人はモノではない。

急に何を言いだすかとお思いかもしれない。
しかしながら、今回のニュースを見てこのことを強く思ったのだ。

もちろん件の公演に関わった人々も知っている事だと思うし、「人はモノだ」なんて微塵も思っていないだろう。

しかしながら。
公演を行うと決めた以上、出演者もスタッフもお客様も安心して演じ、観る事が担保されない状況となった時に中止の判断をしなかったのか、ぼくには理解できないのだ。

「少しくらいなら大丈夫だろう」
「収束してるっぽいから平気だろう」
「世の中の雰囲気で大丈夫だろう」
「私たちは大丈夫だろう」

というような気持があったのではないか。
こうした気持ちがなかったとしても、ニュースで流れているように「強行」したのだとしたら…人を人として扱っていないのではないかと疑念を持たざるを得ない。

▼未だ治療法は確立していない

無論、ニュースでは「舞台でクラスター感染」というだけで、亡くなった方がいらっしゃるわけではない。
しかしながら。
この「新型コロナウィルス」は未だ治療法が確立されていないのだ。
医療従事者の皆さん、研究者の皆さんが日々努力をされている。その結果、必ず有効な治療法は確立されるだろう。
しかし、まだ、なのだ。

罹患された方が一日も早く治癒され、全快されることを祈るばかりだ。
ただ、件の公演の主催者には想像力が少し欠けているのではないかと思わざるを得ない。

というのも、この新型コロナウィルスはたとえ無症状でも罹患している可能性があるのだ。
そしてお客様の中には一人暮らしの人も居れば、家族で住んでいる方もいる。そして学生さんも社会人もいる。その先にはたくさんの人がいるはずなのだ。
だから…体調不良者が出演者・スタッフの中に居たのであれば、中止をしなければならなかったのではないか、と感じている。

▼他の業種にも社会にも・・・

今回のニュースが報道通りであれば…舞台だけでなく、飲食店をはじめとした各業種についても影響があるのではないかと思っている。

人はイメージでものを考える。
つまり、劇場はもとより、似たような空間、狭いところなどなど…
人が避けてしまうことになるのではないか。

この何か月も悩み、苦しみ、工夫をしてきた人々の苦労が水泡に帰すことになってしまうように思う。

これがぼくの「心配しすぎ」であれば良いのだが…

▼演劇の力

ぼくは演劇には力があると強く思っている。

言葉にも力がある。
光にも力がある。
音にも力がある。
身体にも力がある。

演劇に限らず、音楽・ダンス・小説・漫画・アニメ・映画・スポーツ・料理・・・などなどに限らず、すべての仕事、人が作り出す産み出すものには力があると感じている。

ある人間が行った仕事で勇気づけられた人がいる。
ある人間が歌った歌で元気づけられた人がいる。
ある人間が躍ったダンスで心がはれた人がいる。
ある人間が演じた芝居で生きる力がわいてきた人がいる。

人それぞれ…色々なモノに力をもらって生きていると思う。
だからこそ、すべての仕事には力がある。

ぼくが今している舞台というモノも力を持っていると思う。
だからこそ、演劇も変えるものは変え、守るべきものは守っていかなければならない。

今回のニュースに触れて…
飲食店やテーマパークも色々な人の工夫や知恵をもって、少しずつではあるけれども前に踏み出している。
これは単に運が良かったとかではないと思っている。
人に「何か」を届けたいからこそ、色々な人が考え、工夫し、知恵を出し合って…この新型コロナウィルスに向き合い、歩んでいるのだと思う。

そうした工夫や変えるべきもの、本当に守らなければいけないのは、人の命・健康が第一義のはずだ。
仕事は一人ではなりたたない。だからこそ、すべての人が幸せになれるように一人一人が考えていく必要があると思っている。

いまだからこそ、演劇に携わる者として何ができるか。
演劇もそうだし、音楽もダンスも小説もアニメも漫画も映画も…すべての仕事は人を不幸にするものではないはずだ。
演劇の力というものをもう一度深く考え、ぼくにできる事は小さく少ないかもしれないが…考えることを止めることなく、進んで行く。

舞台演出家の武藤と申します。お気に召しましたら、サポートのほど、よろしくお願いいたします!