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いつもの天体撮影〜画像処理 (2) 準備編

前回はこちらの記事となっています。

さて今回は「機材の話もしたし撮るぞー」という訳ではなく、天体撮影にあたって知っておいたほうが良いこと準備しておいた方が良いことを書いていこうと思います。

  • Bias,Dark,Flat,FlatDark,Lightフレームについて

  • 天体撮影における各種ノイズについて

  • フラット補正について

  • マスターダークの準備

天体撮影を始めた人が最初に思う「なんでこんなに色んな種類のフレームを撮るの?」や「ノイズって色々有るの?」みたいな、撮影に関連する事前知識や準備のお話に焦点を当ててみました。


天体撮影に関連する各フレームとノイズなどついて

天体撮影そして画像処理を行う際にはノイズや周辺減光とその補正について知る必要があります。そしてそれは複数の方法の組み合わせで整える必要があるため、順を追って説明いたします。

天体を撮影した画像データに含まれる情報

そもそもレンズからの光をセンサーで捉えてデータ化された際には、このような情報が含まれています。

  1. レンズが外から受ける情報
    写っていてほしいそのもの。天体であれば星や星雲とそれ以外の空

  2. 周辺減光
    機材(鏡筒・フィルター・カメラ)の構造特性として発生する
    ※ 厳密には含まれるじゃなくて光量が欠損する情報

  3. ランダムノイズ
    撮影された画像1枚毎にランダムに発生するノイズ

  4. ダークノイズ
    長時間露光にて撮影された画像に固定パターンで発生するノイズ
    私のASI294MC Proはアンプグローと呼ばれる固定パターンノイズが顕著に現れます

  5. バイアス
    撮影すると必ず含まれる固定パターンで発生する情報
    ※最短露光時間でも発生する

※ ノイズの名称については色々言い方がありますが、今回は初心者の覚えやすさ理解しやすさを優先して表現しています。

影響要因と補正の方法

これらのノイズや情報の特性と対処方法がこのようになります。

周辺減光のフラット補正の考え方の流れ

※ 厳密には違う部分がありますが、各種フレームの必要性の理解のために変えている部分があります

まず理解のために周辺減光を補正することを考えます。周辺減光を補正するには周辺減光だけが含まれた情報を抽出する必要があります。右のフラットフレームからランダムノイズ・ダークノイズ・バイアス情報が除去された状態のデータを作成し、ライトフレームに対してそれを適用して周辺減光を補正するような形です。

それを実現するためには発生状況の違うノイズを適切に除去する必要が出てきます。適切に除去するためにはノイズなどのそれぞれの共通性と違いを理解する必要があります。

ちなみにフラット補正が何をしているかは、以前記事を書いたのでこちらも読んでもらえると理解が深まるかと思います。

ここで一気に各種フレームの関係性を説明します。まず星が写ったライトフレームを含めて以下5種のフレームを利用します。

  • Bias(バイアスフレーム)

  • FlatDark(フラット用ダークフレーム)

  • Flat(フラットフレーム)

  • Dark(ライト用ダークフレーム)

  • Light(ライトフレーム)

そしてその関係性ですが下図の用になります。
どのフレームに何の情報が含まれているか、そして同じ部分と違う部分が分かるように書きました。

ランダムノイズをスタック(加算平均合成)で除去

 まずはランダムノイズの除去を考えます。
ランダムノイズはランダムなので複数撮影した各フレームを加算平均合成すると消すことができます。
下図で考えると各フレームのランダムノイズはそれぞれ違い共通していませんが、それぞれをスタックすることで除去(平均化)されます。

上図のBiasの下を見ていただくとこの時点でMaster Biasが作られていることが分かります。

ランダムノイズの加算平均合成による除去についても以前記事を書いてるので、なぜ加算平均合成できれいになるかピンと来ない場合は読んでいただくと理解が深まると思います。

DarkとFlatDarkからBiasを減算

※ 厳密にはBiasは減算しなくてもいいのですが、各フレームの意味理解のためそのように説明しています。

DarkとFlatDarkからMaster Biasの情報を減算するとそれぞれのダークノイズだけが残った情報を得ることができます。そしてそれらは露光時間が違うために違う情報です。
このときにMaster DarkがFlat用とLight用が作成されます。

LightとFlatからBias,Darkを減算する

そしてLightとFlatからMaster BiasとMaster Darkの情報を減算すると、Flatには周辺減光だけLightにはレンズの外から受ける情報と周辺減光だけが残った状態となります。
このときにMaster Flatが作成されます。

Lightをフラット補正する

そして最後にLightをMaste Flatでフラット補正すると、Lightにはレンズの外から受ける情報だけを残すことができます。
そしてMaster Lightが作成されます。

※ 厳密にはPixInsightのWBPPの処理順序は違いLightのスタックは最後


撮影前の事前準備

このようにレンズの外から受ける情報だけのMaster Lightを作るためには、他に4種のフレームが必要なことが分かったかと思います。

事前準備できるフレーム

さすがにすべてを現地で撮ることは避けたいですし、特にDarkはLightと露光時間を合わせる必要がありスタックする枚数を考えるととても現地では撮っていられません。
そのため一部のフレームについては事前(または事後)に撮ってスタックしておくことが可能です。

  • 撮影時に併せて撮るフレーム

    • Light

    • Flat

    • FlatDark

  • 事前準備しておくフレーム

    • Bias

    • Dark

そうですBiasとDarkフレームは事前に撮っておくことができるのです。
それも天体CMOSカメラとして冷却CMOSカメラを使っているからです。

そもそもなぜ冷やすのか

この表を思い出してください。
ランダムノイズとダークノイズはCMOS温度によって変化するのです。その変化は温度が高ければ増えるのです。ということは冷たいほうが良いため、天文用のカメラは冷やすようになりました。

私が使っているASI294MC Proは外気温より35〜40度の冷却が可能ということなので、夏場は0度・冬場は-10度で利用しています。

BiasとDarkの事前撮影

BiasとDarkフレームを事前撮影する場合に、どれくらいの枚数を撮影して於けば良いのかについては基本的に「Lightフレームと同じ枚数」が望ましいと言われていますが、天体撮影においてそれ必ずしも現実的ではない場合が有ります。(私自身、4晩かけて24時間露光した対象もあります)

なので私はLight以外のフレームは露光時間関係なく128枚撮影する。と決めています。(128枚なのは100枚を超えてて2の倍数と考えているため)
そしてDarkフレームは自分が使う露光時間のパターン分だけ必要になります。

ちなみにBiasとDarkフレームの撮影時のゲインは私のASI294MC Proの場合には読み出しノイズが下がるHCG(high conversion gain)モードが作動するgain = 120に設定しています。このHCGモードが作動するゲインはカメラ機種ごと違いに、ASIAIRであればM設定すると自動的にそのゲインになります。

実際に撮影しようとするとそれなりに時間がかかります。どれくらいかかるかというと。(観望会用もあり短い露光時間のパターンもあります)

  • 5秒 × 128枚 = 約10分

  • 10秒 × 128枚 = 約20分

  • 15秒 × 128枚 = 約30分

  • 30秒 × 128枚 = 約1時間

  • 60秒 × 128枚 = 2時間

  • 120秒 × 128枚 = 4時間

  • 180秒 × 128枚 = 6時間

  • 300秒 × 128枚 = 10時間

  • 600秒 × 128枚 = 20時間

これを合計すると約44時間かかることになります。なのでこれを撮影するときはASIAIRとカメラとAC/DCアダプタだけの状態で作業というか放置しています。

また確実に真っ暗なダークフレームを撮影するために、付属の蓋ではなくM42の蓋を利用しています。

そして実際にASIAIRでこの撮影を行うときはAutoRun機能を用います。
AutoRunでShooting ScheduleをこのようにBiasからDarkを一気に9種撮影するようにしています。
ちなみに撮影メインだと5,10,15秒はあまり使わないと思いますが、私は明るい場所での電子観望の際に使うことが有るのでこちらのダークも準備しています。

こちらはASI294MC ProのMaster Biasです。
本来は真っ黒ですが強調してみると格子状の線があることが分かると思います。

こちらはASI294MC Proを0℃のgain 120で300秒露光したMastarDarkです。このカメラはアンプノイズが顕著に出ることで有名で、左右にハッキリと出ているのが分かると思います。

Biasとライトフレーム用のDarkの撮影が終わったら一旦準備は完了です。
もちろんこれらは後から撮ることもできますが、晴れて撮影できる夜を待っている間に撮ってしまいましょう。
※ 非冷却・一眼カメラの方は撮影時に撮りましょう。

BiasとDarkのマスターファイル作成

Mater BiasとMaster DarkはPixInsightのWBPPで作成しています。AutoRunで撮影したFITSファイルをまとめて入力すると対象ファイルが一気に表示されます。
前述した電子観望用の5,10,15秒のダークはWBPPではまとめられてしまうため、Grouping KeywordsにDARKと入れて秒数で分かれるようにしています。

WBPPが終わりmasterディレクトリを確認するとそれぞれのxisfファイルが作成されていることが確認できる。これをLightフレーム撮影後のWBPPのときに利用します。


おわりに

今回は事前準備としてBiasとDarkフレームを撮影すること、そしてそもそもなぜ各種フレームを必要とするのかについて書きました。これは後の画像処理編の前提知識になるのでこのタイミングにさせていただきました。

次は撮影の際の流れについて書きたいと思います。早く晴れろ!



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