スタートアップの1人目のデザイナーへ
どんな組織・状況・職種であれ、1人目でjoinするというイバラの道をあえて選択できる人は、失敗しても困らない状況や能力のある人か、目標や志を高く持っている人か、もしくはネジの外れたクレイジーな人のどれかです。
僕は能力があったとは言えないけど、どこでもやっていける自信はあったし、ネジがたくさん外れていたおかげで、最悪失敗したとしても死なないから大丈夫だろうとくらいに考えていました。
志だけは高く掲げていたかったので、1人目としての使命感を強く意識して入社しました。特に言語化などはせず、直感に従って動いていましたが、3つの軸に沿って行動してきました。
(1) 社長を育てる
社長が描くビジョンやイメージを具体化していくのがデザイナーの役割になることが多いと思うので、社長とデザインのイメージや認識が揃っていれば、特に問題はないはずです。
ただ、僕はそれだけでは足りないと思っています。経営の経験豊富なスペシャリストであれば話は別ですが、スタートアップの社長って、社長やるのが初めての人が多いし、その組織における社長としては完成形じゃないはずなんです。そもそも社長だって人間だからそりゃあ失敗もするし、未熟で完璧じゃないんです。
組織の原理として、トップの器が組織のキャップになります。社長が成長しないと組織が成長していかないんです。ライバル意識に燃えたり、お互いに切磋琢磨できる関係性があると、早く成長できたりするものです。もちろん、そのライバルの存在は別の職種の人でも構いません。ただ、デザイナーでそのライバルになれる可能性がある存在は、他ならぬ自分しかいないんです。
会社を立ち上げて社長をやっているくらいだから、素晴らしいエネルギーの持ち主が多いはずです。そのエネルギーに負けるようじゃダメだと思います。それを超えるエネルギーで、社長を刺激し続ける存在でいる、それくらいの覚悟を持って取り組むことが、1人目のデザイナーの宿命だと思っています。
そのためには信頼関係を構築しなくてはいけませんが、それはまた別記事で書こうと思います。
(2) 自分の活躍が組織のデザイナーの立場を左右する
自分が1人目なので、今後デザイナーという人間の判断基準のモノサシになるはずだと思っていました。デザイナーに対する印象や評価や給与、デザインの領域の広さなど、全てが自分によって決まっていきます。
デザインが事業に貢献できることを証明するために、まずは成果を出すことを心がけました。成果につながれば、デザイナーの立場が認められるはずだし、逆に成果がでなければデザイナーへの信頼を失ってしまうという危機感を持って取り組むようにしていました。デザイナーが働きやすい環境を作りたかったので、そのためにも成果は必須だと考えていました。数字などの定量的なものだけでなく、社内からの信頼といった定性的な成果も意識しました。
また、僕は給与基準を下げて入社したので、それが基準にならないよう業界水準のデータと照らし合わて、本来の適正額と比較できるようにしたり、定量で測りにくいデザインの評価を別軸で評価できるように、細かく調整をしていきました。
スタイル調整としての側面だけではなく、未来を作る活動としてのデザインができるようにしたかったので、矮小化することない広い定義でデザインを捉えるようにすることも強く意識していきました。
(3) 事業モデルやビジネスの深い理解
プロダクトやサービスの開発の側面だけに関わっていると、ビジネスの全体像を見失いがちです。当たり前ですが、会社は営利目的でやっています。ビジネスの基本的な原理や構造を理解していないと、コミュニケーションで上手くいかないことがあるので、自分が関わっている事業の全てを知ることがすごく大事だと考えています。
自分が関わっている事業の市場規模、競合の存在と動向、ステークホルダーの理解、キャッシュポイントはどこか、戦略の勝算、今のフェーズで何をすべきか、今後どんな変化をしないといけないか、などなど。
サービスのミクロな部分だけでなく、ビジネスの大局を掴むことで、事業全体としてやるべきことや意思決定が研ぎ澄まされていくはずです。
僕は前職から同じ業界にいたこともあり、割とざっくりした課題感は掴めていたのですが、営業・インフラ・ファイナンスなどの守備範囲外の知識が浅い状態でした。分からなかったので、社内外に限らずに人に聞きまくったり、本や記事を読むことで理解を深めていきました。理解することで、全体像が見えるようになり、デザインが事業に貢献できそうな領域はどこかを把握することができるようになっていきました。
(4) 1人目にしか味わえない喜び
1人目は孤独な戦いが続くので、辛いこともたくさんあります。でも1人目にしか感じることのできない歓びがあります。それは2人目が入ってきたときです。仲間が増えていくことの高揚感と安心感は、1人目にしか味わうことのできない、何にも変え難い唯一無二の報酬だと思っています。