デザインは未来を創る活動
ここ数年ビジネスの競争力や思考の側面からデザインの重要性が語られることが増えてきました。テクノロジーやシステムの進化によりビジネスが高次元化したため、複雑で変化の早い時代に生き残るために、デザインの活用が有効な手段となってきたからです。
同時にデザイン領域も拡張してきて「デザイン」という言葉がハイブリッドなものになってきています。本来「デザイン」という言葉の意味はとても広く、そしてとても曖昧です。外観を美しくする、意匠を設計する行為、造形の工程や活動、指針を示すなど、様々な意味を持つハイコンテクストな概念でもあります。価値や構造の深いメタな部分までデザインの対象領域が広がってきています。
言葉の意味や捉え方は様々ですが、全てのデザインには「未来を創る」という共通するバリューがあります。なので僕は、デザインとは何か?と問われたら「未来を創る活動だ」と答えています。未知で溢れた世の中に、新しい未来の形を生み出すことがデザインの役割で、その可能性を信じたいと思っています。そのデザインの正体を紐解いていきます。
4つのプロセス
デザインは4つのプロセスで構成されています。
1. 人の話をきく(聞く、見る)
課題にまつわるデータを抽出する。データの種類は観察や対話などから得られる定性データや、数値などの定量データまで様々。
2.正しく理解する
分析したデータが示唆するものが何かを知る作業。深い部分に眠る本質を探る。
3.考えをまとめる
要件を整理し方針をまとめる。課題解決までの道筋を作る。
4.形にして伝える
人が見て分かりやすい形に変換し、相手に伝える。言葉・ビジュアル・動画など様々な形で届ける。
どんなデザインにおいても共通するもので、全て対話することからはじまります。社会を知る、課題を知る、ニーズを知る、ユーザーを知る。そして後述しますが、これらのデザインスキームは様々な課題解決に応用可能です。
デザインによって達成できる未来
デザインを通じて実現できる未来にはいくつかのレベルに分けられます。レベルが高くなるほど実現難易度も上がり、関わる人数も増え、与えるインパクトも大きくなっていきます。マズローの欲求5段階と近いです。
レベル1:使える
存在する。機能している。
レベル2:安定する
問題なく使える。耐久性がある。
レベル3:好かれる
使いやすい。分かりやすい。美しい。気になる。
レベル4:売れる
多くの人が求める。明確な数字で成果が残る。流行る。
レベル5:豊かになる
みんなが豊かになる。流れを変える。次の未来へつながる。気がついたら巻き込まれている。社会を進化させる。
何のためにデザインするか?
デザインするうえで無視できないのが「どう向き合っているか?」というスタンスだと思っています。
スタンスの違いを示すこんな例え話があります。
ある街で教会の建築をしており、外壁のレンガを積み上げる作業をしている人がいました。その人に「あなたは何をしているのか?」と尋ねました。
(A) 私はレンガを積み上げています。この作業をすればお金がもらえるからです。
(B) 私は教会の外壁を作っています。
この外壁があれば教会を強風から守ることができるからです。
(C) 私は人々の幸せを作っています。
この教会が完成すれば、みんながここで祈りを捧げることができからです。
3つの返答はそれぞれ目的が異なり、向き合う姿勢・信条・価値観などの行動原理が異なります。Aは支払う報酬が少なければ辞めるだろうし、Bは作業者が増えれば手を抜いてサボるでしょう。でもCはちょっとやそっとのことでは辞めないし手を抜かないはずです。誰のために行っているか?という対象も異なります。Aは自分(もしくは家族)のため、Bは教会のため、Cは教会に訪れる人々のためとなります。
これをデザインに置き換えみるとこうなります。
(A) 私は画像編集ソフトやペンを使ってデザインをしています。この作業をすればお金がもらえるからです。
(B) 私は製品を作っています。
これが売れたら、会社に安定した収益をもたらすことができるからです。
(C) 私は人々の未来を創っています。
この製品によって多くの不便さや不条理が解消できるからです。
あなたは何のため、誰のためにデザインをしていますか?
デザイナー=未来を創る人
社会の不条理・不義理・不便と向き合い、デザインという武器で解決する人がデザイナーだと思っています。僕が考えるデザイナーとはこんな人たちです。
1. 曖昧な暗黙知をできる限り可視化できる
イケてる、かわいいなどの感覚を曖昧な状態で放置しない。感性のロジックをデータレベルまで分解できる。誰にでも分かる形に変えて、伝えることができる。
2. 課題に耳を傾け、解決のために最善を尽くせる
課題を課題のままで放置せず、解決しようと模索し続ける。傾聴や観察によって本質を探ることができる。世の中の課題は必ず解決できると信じる強さも持っている。
3. 様々な課題解決に応用できる
デザインの仕組みを応用して、社会の様々な課題解決を行います。課題に介在する人が多ければ多いほど、デザインの効力が発揮できるチャンスです。体験のデザイン、組織のデザインなどは応用の良い例だと思います。
4. 目的に応じて道具を使い分け、最適なアウトプットができる
時代やテクノロジーの変化に伴って、デザインするための道具も進化しています。紙とペンだけでなく、パソコンやスマホアプリでもデザインができる時代です。デザイナー1人だけで操作するものではなく、複数人で共同操作することを前提としたツールも増えています。極論、頭一つあればどこでもデザインできます。目的に合わせて柔軟にツールを使い分け、最も適切なアウトプットができます。
5. 未来に導くことができる
黒澤明の名作「七人の侍」で、仲間が敵の銃弾に倒れ、皆が悲しみにくれる中、一人がチームのシンボルマークが描かれた旗を村の中心に高く掲げたことで、チームが再び奮起し一致団結していくというシーンがあります。
向かうべき未来に旗を立て、その道筋を作り、正しい方向へと導く。
これぞデザイナーのあるべき姿だなと感じさせる、とても好きなシーンです。デザインするときにこの情景をイメージすることがあります。
未来を創ることは難しいことじゃない
ありがたいことに僕たちのいる日本には、様々な優れたデザインが存在します。よく日本はデザインへの投資が遅れてるとか云々言ってる人がいますが、僕には全く共感できません。捉え方や見え方の問題で、こんなにも恵まれた環境は世界にも存在しないと思っています。コンビニのおにぎり、電車の掲示板、ラーメン屋の券売機システム、ウォシュレットの快適さなど、周りに目を向けてみるだけで、優れたデザインであふれています。こんなに素晴らしい教材に溢れているのに、そこから学ばないのは勿体無いです。
国内に限らずともデザインによって新しい未来が生まれた例はたくさんあります。iPhoneというプロダクトは、誰でも気軽にインターネットにアクセスできる未来を創りました。株式という仕組みは、お金をみんなから集めることで、人員を雇ったり新しいものを創ったりすることが簡単な未来を創りました。これは素晴らしいデザインの功績の一部ですが、もっと簡単にできるものはたくさんあります。
部屋のレイアウトを少し変えれば、生活の視点がちょっと変わる未来が創れるし、「ありがとう」と伝えるだけで未来は創れるはずです(ちょっと青臭いけど、それくらい簡単だってことが伝えたい...)
デザインはそんなに難しいことではないです。目の前にいる誰かをちょっと笑顔にすることも立派なデザインの活動だと考えています。誰かの「未来を創る」ことは誰にでもできることだと思います。
もしこれを読んでデザインに少しでも興味が湧いてくれたら幸いです。
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以前イベントで話した内容なんですが、自分の中でアップデートされた部分もあるので、改めて書いてみました。
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