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転職2.0
不確実性の高い時代の突入により、年功序列の形態が崩れ新卒から生涯一社で勤めることが、リスクと捉えられ始めた昨今。そんな今だから読むべき書籍の1つだと考えます。少し偏った視点はあるもしれませんが今のキャリアに少しでも不安に感じた方の学びになれば幸いです。
【転職2.0】「普通の人」こそ、自身の市場価値に気づくべきだ
村上 臣
リンクトイン(LinkedIn) 日本代表
日本は旧型のキャリアの価値観「転職1.0」から新型のキャリアの価値観「転職2.0」へシフトしていく──
ビジネス特化型SNS「LinkedIn(リンクトイン)」日本代表の村上臣氏は、4月2日発売予定の著書『転職2.0』(SBクリエイティブ)にて、こう予言している。
ジョブ型雇用や働き方改革が普及し、新卒一括採用がなくなるこれからの時代の転職の新ルールとは。連載前編では、『転職2.0』における基本的な考え方を5つのポイントで整理した。
後編では、村上氏が本書執筆において特にこだわったポイントや、転職で陥りがちな「落とし穴」について語ってもらった。
転職のハードルはまだまだ高い
──今回、本を執筆するにあたって、特にこだわった点はどこでしたか。
村上 『転職2.0』というタイトルをつけるにあたって、これまでの経歴に関係なく、誰もが正しい転職の価値観と方法論を身につけて、望み通りのキャリアを手にするための本にしようと考えました。
これまでの転職は、まだ「一部の人のもの」というイメージが強かった。若い世代にはようやく転職や人材の流動化も定着してきたのですが、全体で見るとまだ転職をしたことがない人の方が多いです。
実際に(転職を)検討するが、いろいろ我慢しなくてはいけなかったり、結局考えるだけで諦めてしまう。給料を取るなら家庭は捨てる、みたいな「トレードオフ」的なイメージがまだつきまとっている。
企業側も、中途採用は新卒の「地頭採用」の延長で、「総合職」という漫然としたジョブディスクリプションしか与えられない。
そういった声を、いまだに聞きます。
つまり、副業解禁だ、働き方改革だと言われていても、実際にやっていることは高度経済成長で生まれた新卒一括採用の頃から変わっていなかったのです。
ジョブ型雇用や働き方のニュースを見かけるたびに、専門家としてコメントをすることも多いですが、社会がいまだに変わらないのなら、このタイミングで僕が持っている知識をまとめて世に出すのが良いのではと考えました。
むらかみ・しん:LinkedIn(リンクトイン)日本代表。青山学院大学理工学部物理学科卒業。大学在学中に現・ヤフーCEO 川邊健太郎氏らと有限会社電脳隊を設立。日本のインターネット普及に貢献する。2000年にその後統合したピー・アイ・エムとヤフーの合併に伴いヤフーに入社。2011年に一度ヤフーを退職後、2012年にヤフーへ復帰し、弱冠36歳でヤフーの執行役員兼CMOに就任する。2017年11月より現職。
転職に縁が無いと思っていた人へ
また、変な言い方なのですが、今回は想定するロールモデルを「多くの共感が得られそうな人」にすることにこだわりました。
本の中でロールモデルをしているAさんは、中小企業の法人営業マンで、別にトップセールスを叩き出しているわけではありませんが、会社の期待には応え続けています。
「平均的な法人営業マン」であるAさんが、どうすれば転職や自身の市場価値への意識が変わるのか。
世の中には転職やキャリアアップについてのキラキラした情報が溢れていて、「あの人は凄すぎるから参考にならない」と、Aさんは諦めてしまうかもしれない。
読み物としては面白いけど、結局自分は何をしたらいいかがわからず、現状維持で終わってしまう人がまだたくさんいると思うんです。
言うまでもなく、僕らは仕事をして対価をもらっているわけで、その時点で十分「プロ」なんです。トップセールスでなくても、毎月目標を達成して、会社に貢献しているのであれば、自分自身をアピールする方法があるはず。
日本の大多数の方は謙虚で、自己アピールのトレーニングを積んでいません。謙虚すぎることは時にマイナスでもあります。
なので、健全に自分のやっていることに自信を持ってもらって、必要であれば(転職に)動いてほしいという思いや方法論も含めて網羅的に本を作りました。
──自分からアクションを起こしていかなければ、転職で成功する確率は低いと。
転職したいからとりあえず転職サイトに登録するというアクションは、新卒の頃の就活と変わらないんです。就活のシーズンになっていきなり自己分析を始めて業界研究をして、面接を詰め込んで半年で終わるみたいな。
ですが、転職活動において、新卒の頃と同じ量の自己分析や業界研究なんてできないですし、新卒で入社してから今まで、自己分析や業界研究をどれくらい行ってきたかといったら、ほとんどの人がやってないと思います。
極論を言えば、就活の頃にやっていた自己分析や業界分析は、社会人になっても毎日やらなければならないですよ。
毎日が転職活動でもあり、自分のビジネスのための活動であって、本来これは分けて考えることではありません。
常に面白いことや将来のキャリアを考えつつ、その結果、今いる会社が最適であればそこでキャリアアップを考えればいいし、うまくポジションではまるところがないなら、緩く外も見なければいけないなと。
常に自分の位置を確認するためにも、社内と社外を見ていかないといけないのです。
考え続けていないと、例えば転職エージェントに相談しても、的外れなアドバイスを受けたり、自分にマッチしない転職先を斡旋されるリスクが高まります。
【村上臣】望み通りのキャリアが手に入る「転職2.0」とは
スタートアップに向いている人材とは
──年明け以降、ガバナンスの観点から「スタートアップ業界」が悪い意味で話題となりました。本著でもポイントはまとめられていますが、改めて、スタートアップへの転職において、確認すべき・気をつけるべきポイントを教えてください。
スタートアップはカルチャーフィットを重要視しつつ採用費も抑えたいので、リファラル採用を優先する傾向にあります。
そのため、もしスタートアップで働くことに興味があるのであれば、いきなり求人に応募するよりも、半年から1年ぐらいかけてネットワーキングをして従業員とつながり、対話をする機会を積極的につくるべきです。
また、スタートアップは向いている人と向いていない人がくっきり分かれるので、逆説的ですが、「スタートアップで働きたいかも」ぐらいで止まっている人は、多分向いていないと思います。
スタートアップに行くべき人は、自然と(スタートアップに)関わっちゃうんです。例えば、副業が許されている大企業であれば、気になるスタートアップに既に知り合いがいて、「ちょっと手伝って」なんて言われて繋がるんです。
そうでなくても、向いている人は自分で動けるので、例えば問い合わせフォームから「何かポジション空いてないですか?」と飛び込める。「ちょっと今タイミング合わないけどもいつか私は手伝いたいんですよ。」みたいに言えちゃうとか。
そういう人は「成長期」のスタートアップには合っています。「スタートアップ行きたいんですよ」みたいにしている人はもう少し待った方がいいです。上場直前か直後ぐらいになるとそういう人もチームに必要なので。
経営者だけが目立っている企業は…
──本では「経営者だけが目立っているスタートアップには気をつける」という項目もありましたね。
ちょっと毒っぽく聞こえてしまうかもしれませんね(笑)。
例えば、スタートアップでお金もないけど、知名度を上げなければいけない時、社長や経営者の発信で一点突破していくことは、会社を知ってもらうという意味ではすごく武器になると思います。
それを分かってやっている経営者は素晴らしいですし、成果も出てくると思いますが、その発信内容が会社のためなのか個人的なものなのかが曖昧になってしまうケースも見られるんですね。
やっぱり人間なので、ちやほやされると承認欲求も刺激されるんですよね。
「その発信は会社のためにやってるんだっけ?」という大前提が見えなくなってしまうと、危険信号の気がします。
こうした動きはSNSでの投稿を見ていれば普通に判断がつきますので、よく見た方がいい。あくまで「スタートアップ企業の見分け方」という文脈で、書かせていただきました。
──3月からは新卒の就職活動も解禁となりました。新卒就活シーズンだからこそ見えてくる、企業の姿などもあるのでしょうか。
新卒就活シーズンは企業の情報発信が増えるので、効率的に情報収集ができるというメリットがあります。最近ではオウンドメディアを効果的に活用する企業も多く、特に実際に働いている人の声が掲載されていれば参考になります。
一方で、企業の人事採用チームは新卒・中途で分かれていない場合もあるため、そのような企業の場合は新卒採用時期に中途採用を走らせる余力がないことがあります。
また、転職マーケットの季節性を理解しておくことも大事です。求人の山は1月、6月、9月の年3回あると言われています。各社の予算編成や組織変更などがあるためです。
若手の方は新卒での不足を第二新卒や中途で補充するタイミングである、6月あたりに応募することを意識するとよいのではないでしょうか。
いずれにせよ、『転職2.0』を通じて伝えたいのは、自分が働いていて、どんなことに気持ち良さを感じているのか、何が楽しいかを考え、理解してほしいということです。
出典:『転職2.0』
本来、自分に最適な会社はライフステージによって変わるはずで、20代では死ぬほど働くけど経験を積ませてくれる会社が最高なのかもしれないし、パートナーや子供ができたらバランスがうまく取れる会社が最高なのかもしれない。
今まではそれを何故か会社が決めていた。「お前はそろそろ30代だからちょっと管理職になるか」とか「お前も嫁さん持ったからそろそろこのポジションにならなきゃな」みたいな。
そうではなくて、最適な働き方や会社を決める主語は「自分」なんだと、本書を通じて皆さんに気づいてもらいたいですね。