怪我した選手の患部外強化トレーニング
ウェイト・トレーニング(WT)を実施する目的・狙い、あるいはWTに期待する効果の一つに、怪我の予防が挙げられます。
一方で、スポーツ選手にとって、大なり小なり怪我はつきものであり、できる限り、練習や試合からの離脱期間を短くして戦列に戻ることが理想です。
そして、その為に我々のようなトレーナーやトレーニングコーチが存在し、そのサポートが求められています。
しかし、時として、数週間〜数ヶ月単位での離脱を余儀なくされる怪我を負うことがあります。
今回は、現場で起こるそのようなケースにおける、トレーニングコーチ視点での考えを述べていきます。
トレーナー(AT)、あるいはメディカルサイドの視点では、ちょっと違うのでは?という反論のようなものもあるかと思いますが、そういった意見もあろうことを想定に入れた上での考えです。
ここでは、具体的な怪我の例をイメージして、話を進めていきます。
具体例として、現場で頻発する足関節捻挫、あるいはハムストリングの肉離れを想定します。
受傷側は右脚。損傷度は中程度で、完全復帰まで6〜8週間程度とします。
さて、受傷直後は急性期として、腫脹と痛みのコントロールを主として、患部安静が基本になるかと思います。
その後、腫れが落ち着いた段階から、初期のリハビリがスタートします。
そして、この段階からのアプローチが今回話題にしたいポイントです。
まずは、トレーニングコーチとしての私の主張から述べます。
端的に言うと、
この段階から、患部外トレーニングを開始するべきです。
ここでいう患部外トレーニングとは、上体や体幹はもちろんのこと、患部側とは逆側の左脚(健脚)も含みます。
しかし一方で、このように健脚を先行して強化することに対して、以下のような理由から反対する声もあります。
①左右(健側と患側)でアンバランスが生じる
②(トレーナーの立場から)怪我している期間のトレーニングは、トレーナー管理で進めたい。
③患側のリハを進め、ランニングなど基本的な動きができるようになってからWTでの強化を再開させたい。
選手の多くは、まずは①を気にします。
また、トレーナー(ATやメディカルサイド)の立場からも①を気にする方も一定数いて、多くは②③のような考え方をするケースが見受けられます。
つまり、健側の強化も患側の強化とタイミングを合わせて進めていきたいという考え方です。
これらに対して、以下のようなイメージ図をオリジナルで作成しました。
※少し小さくて見ずらいかもしれないので、拡大して見て下さい。
怪我する前の状態が、一番左の図です。
怪我する前は、左右均等の筋力だと仮定し、そこから時間経過に伴う筋力変化を右側に図示しています。
上は、早期に患部外強化を開始したパターン。
下は、初期段階では患部外強化を行わず、患部リハがひと段落してから、健側・患側同時に強化を再開するパターンです。
リハの初期段階では、患側の筋力が低下します。
ここで、患部外トレーニングとして健側のみトレーニングをした場合、どうなるでしょうか。
当然のことながら、健側の筋力は向上します。
一方で、患側は低下するものの、健側強化を行わなかった場合と比べ、筋力の低下度合いは小さくなると言われています。
※いつのどの論文のデータであったか不明確ではあるものの、健常者のトレーニング実験で、片側のみのトレーニング実施でも、逆側の筋力も僅かに向上することが分かっています。
そして、ここからは、エビデンスに基づくものではなく、あくまで経験則からのイメージになりますが…
いざ、患側の強化を開始する段階では、一時的に左右の筋力差はアンバランス(健側>患側)となるものの、強い健側に患側が追いつこうとするように筋力が伸び、復帰段階では多少の左右差は生じるものの、健則,患側共に受傷前よりも高い筋力レベルになっていきます。
一方で、患部外トレーニングを早期に実施しない場合、下の図のように、まずは左右同時に筋力低下が起こります(多少、荷重の関係で健側の筋力が高くなる)。
そして、患側強化を開始する段階においては、左右共に筋力が落ちた位置から上げていかねばならず、復帰段階においては、受傷前との比較において、上積みした状態は見込めずに競技復帰することになります。
そうなると、試合等での満足なパフォーマンス発揮が難しくなるだけではなく、再受傷のリスクも高まることになります。
いかがでしょうか?
怪我した場合、どちらのパターンで復帰に向けたリハビリ、あるいは復帰トレーニングを進めていくのが良いのか。
図示したものは、アバウトなイメージに基づくものであり、実際はもっと複雑な要素が絡み合うということは言うまでもありません。
これまでの現場における経験では、意外と下のコースを進んでいることが多々あります。
言い方を間違えると誤解を招きかねませんが、これはトレーニングに対する理解が低い、トレーナーの方と組んで(分担して)リハビリ過程をみる場合に起こり得ます。
トレーニングコーチの私の感覚的には、「もっと早い段階から患部外トレーニングできないかなぁ」と感じるのです。
それでも、結果としては、下のコースを進んだとしても、無事に競技復帰できていることが多く、結局のところ、比較して確かめることはできません。
しかし、どちらのコースを進んだ方が良いかは、このように図示してみることで明らかではないでしょうか。
怪我をチャンス(プラス)に変えるか、ピンチ(マイナス)に変えるか。
怪我をしてしまったら、次の瞬間、切り替えて、チャンスに変えて欲しいものです。
その鍵を握るのが、患部外トレーニングだと思っています。
JPFストレングス工房
鬼頭 祐介
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