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サンタ、苦労す。

 ここは、モノカキサンタが集う、クリスマスプレゼント製造工場。イブまで1か月をきった今、サンタたちは大忙しでプレゼントの準備にあたっています。それぞれ、いったい何を贈ろうというのでしょうか?
 それでは、玄関に近いこのお部屋から覗いてみましょう。こんばんは、お邪魔しまーす。

「わっ」

 ん、なんか聞こえたような。
 しかし、ずいぶん殺風景なお部屋ですね。もっとこう、包装された大量のプレゼントを想像していたんですが……。

「どなたですか?」

 わあ! どうしたんですか、そんな机の下から……。

「明るくなるとびっくりしてしまうんです。それに、大事な万年筆を落としちゃって」

 はあ。

「ああ、お気になさらず。ごめんなさい、まだ目が良く見えなくてお顔が分からない。何か御用ですか?」

 ああ、そうです。ええと、ここはサンタさんのプレゼント製造工場、なんですよね?

「そうですよ、ここには七人のサンタが居て、それぞれ一つ部屋をもらってます」

 ですよね。ええと、でもここにはプレゼントらしいものが何も……。

「あ」

 あ、え、どうしました?

「七人のサンタって、七人の侍みたいで格好良いですね。なんで今まで気づかなかったんだろう」

 はあ。

「話の続きでしたね。何でしたっけ?」

 ああ、ええとですね、ここはプレゼント製造工場の一部なんですよね。

「はい、その通りです」

 で、あなたは、七人のサンタの1人で、 

「やっぱり七人の侍っぽいなあ」

 こだわりますね。観たことあるんですか?

「いや、観たことはないです」

 ……サンタさん、なんです、よね?

「そうだす、わたすがサンタさんだす」

 ……。

「……」

 仕事しろよ。

「あっ、言ってはいけないことを」

 赤い服も着てなければ、プレゼントも作らない。机と椅子だけのこの部屋で、一体何やってんだか。あなた、仮にもサンタでしょう? 

「んー、あなたがいると上手く説明できないんですよね」

 は?

「いや、うん。そうだな。サンタクロースって、何だろう?」

 だから、それはあなたでしょうが。

「そうなんですけどね。サンタって、どういうものです?あなたにとって」

 はあ? 私があなたに言うのも変な話ですけど。
 サンタクロースっていうのは、子どもたちの願いを聞き入れて、プレゼントを贈るものでしょう。

「プレゼントかあ、すごく即物的ですよね」

 いや、物ってだけじゃないでしょう。サンタさんがいるってことが、子どもたちの夢とか希望とかそういうものを育てるんですよ。間違っても、あなたみたいにボーっと過ごしてる人のことじゃない。

「なぜ靴下にプレゼントを入れるか知ってますか?」

 え?

「プレゼントは靴下に入っているものですよ。なぜか知っていますか」

 いや。それが何か関係あります?

「……ずっとずっと昔の話ですけどね。貧しい三人の娘を不憫に思った聖ニコラウスは、その子たちのために、煙突から金貨を投げ込んだんだそうです。」

 はあ。

「煙突を通って部屋に落ちてきた金貨は、たまたまそこにあった靴下の中に次々と入った。朝起きてきた家族はそれで幸せに暮らすことができた」

 それがどうかしましたか?

「恐らく、そのお金が無かったとしたら、娘たちは娼婦をしていたでしょうね。家族を守るために」

 ……はあ。

「またある時、聖ニコラウスは、肉屋に入りました。『七年前の塩漬けの肉が欲しい』と言うと、店主は驚き、恐れた。」

 ……。

「七年前のひどい飢饉の年に、店主はたまたま訪ねてきた子どもを塩漬けにし、売っていたんですね。彼は罪を告白し、神に許しを請いました」

 それで?

「聖ニコラウスは店の奥に行くと、子どもたちの入った樽に手を置きました。すると、まるでただ眠っていたかのように、樽の中から子どもたちが目を覚ましたんだそうです」

 ……。

「これが、サンタクロースです。まあ、これが、とまでは言わなくても、その起源には違いありません」

 だから、何だと言うんです?

「あなたの言う、夢とか希望とかを届けなきゃいけない子どもたちって、誰のことなんでしょう」

 ……。

「プレゼントは少なくとも、夢も希望も持っている子どもたちの元へ贈られている。ほとんどがね。あれは幸せの象徴ではあっても、それによって幸せになるような代物ではありません。本当に贈らなきゃいけない人も、物も、ほかにたくさんあるんじゃないかと思うんです」

 ……。

「私は、そう思ってしまって」

 ……。そう思ったから、何なんですか?

「……」

 そう思ったから、何もしないんですか。何もできないって言うんですか。
 何をしたって、誰も、何も、変わらないければ、何もしなくて良いんですか。

「……」

 なんだか、がっかりです。
 ……他の部屋へ行ってみます。失礼しました。

 バタン、と音を立てて扉が閉まった。途端、私の部屋は明かりが消える。音もなく、ふっと。目が慣れるのには時間がかかる。急に暗くなったり明るくなったり、とても目に悪い職場だ。

「ああ、見えてきた」

 慣れてしまえば、それは綺麗に、くっきりと、浮かび上がった。部屋中を覆う、星、星、星。
 サンタクロースはそれぞれに力を持っている。この工場に居る七人も、またそれぞれに力を持つ。秋にその数を減らしてしまう星たちを、またもとの数に戻すのが、私にもたらされた力だった。

「何もしなくて良いんですか……か」

 神様はなぜ、初代のサンタが起こせた奇跡を、その力を、私たちには与えなかったのか。子どもたちの幸せを願うサンタに、なぜ限界を設けたのか。

 万年筆のキャップを外すと、ペン先はじんわりと光を放つ。机に上り、天井のある一点に、ぐりぐりと星を書き込む。これでどうだろう。少しは、雪の結晶にに見えたりするだろうか。絵本のような星空になっているだろうか。

 冬空にサンタクロースなど探さないであろう子どもたちでも、星を眺めることはあると信じて。


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素敵なイラストは小山さとりさんとれとろさんに描いていただきました。

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