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その3Dプリンタ製クッキー型、違法です


本文に行く前に

この記事は個人の推測に基づく内容となっています。
気軽に書いてみた結果、予想外の大反響となってしまい、保健所に正式な見解を求めました。
その内容については別記事でまとめているので、ご参照ください。

それでは続きをどうぞ。



3Dプリンタで作るクッキー型って楽しいですよね。
市販にないデザインの物があったりして、私も家でプリントしてクッキーを焼いたりしてます。

データ元:https://www.thingiverse.com/thing:4617812

また副業としても人気なようで、見栄えが良いし、参入のハードル低いし、気になる商材ですが…
世に出回ってる3Dプリンタ製クッキー型の大半は食品衛生法違反です!

多分。

今回はそういうお話です。

食品衛生法で言う「器具」と規格

調理の際、食品に直接接触する物は食品衛生法で「器具」と定義されます。

第4条〔定義〕
④ 器具とは、飲食器、割ぽう具その他食品又は添加物の採取、製造、加工、調理、貯蔵、運搬、陳列、授受又は摂取の用に供され、かつ、食品又は添加物に直接接触する機械、器具その他の物をいう。

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000176711.pdf

その器具には一般規格というものがありまして

器具・容器包装の一般規格
1. 器具は、銅、鉛及びこれらの合金が削り取られるおそれのない構造
2. 食品に接触する部分に使用するメッキ用スズ→鉛0.1%以下
3. 食品に接触する部分の製造又は修理に用いる金属→鉛0.1%以下、アンチモン5%未満
4. 食品に接触する部分の製造又は修理に用いるハンダ→鉛0.2%以下
5. 食品衛生法施行規則別表第1に掲げる着色料以外の化学的合成品たる着色料の含有禁止(溶出して食品に混和するおそれのない場合は除く)
6. 電流を直接食品に通ずる装置を有する器具の電極→鉄、アルミニウム、白金及びチタン以外の金属は使用不可(食品を流れる電流が微量である場合は、ステンレスも使用可)
7. 油脂又は脂肪性食品を含有する食品に接触する場合、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)を原材料として用いたポリ塩化ビニルを主成分とする合成樹脂は原材料として使用不可(溶出して食品に混和するおそれのない場合は除く)
8. 紙製の器具又は容器包装であつて、紙中の水分又は油分が著しく増加する用途又は長時間の加熱を伴う用途に使用されるものには、古紙は原材料として使用不可。(紙中の有害な物質が溶出又は浸出して食品に混和するおそれのないように加工されている場合は除く)

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000176711.pdf

と、まぁこういう感じで含有しちゃダメな物が決まってるわけです。
じゃあ、どうやって含有していない事を確認するのか?
もちろん試験をするわけですねぇ~~。

「器具」に必要な試験

器具の材質が合成樹脂の場合は
・カドミウム、鉛の含有量の測定
・重金属、有機物の溶出量測定

これらが必要ですし、
ポリ乳酸(PLA)の場合は
・総乳酸、蒸発残留物の溶出試験
これも必要になります。
複数の材料を使うなら材料毎に試験が必要です。
引用元:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000176711.pdf

こんなお金がかかって面倒くさい事をやってたら採算が合うわけありません。
なので、基本的にWebで売ってる3Dプリンタ製クッキー型は違法です!知らんけど。
多分ちゃんとやってる人は「試験して食品衛生法適合してます!」って書いてると思います。付加価値なので。

※記事公開後に「試験をしてない事が違法ではない」「販売者は食品衛生法適合であると説明義務がある」等のコメントを頂いたので、記事後半に追記しました

合法的に作るなら

都度試験するのが無難な流れですが、試験用サンプルを出力した3Dプリンタはもうその材料しか使えなくなってしまうので現実的ではありません。

で、あれば外注するという手があります。

国内の3Dプリントサービスとして大手のDMM.makeなんかはちゃんと試験成績書を公開してます。えらい。
めっちゃ高いけど。

食品衛生法適合な水洗いレジン「エキマテ」というのもあります。

ただし、材料が食品衛生法適合というだけで、3Dプリンタ本体や製造環境を含めた最終製品に対して試験が必要なはずなので、エキマテ使えば試験不要で合法かというと多分そんなことはないです。ちゃんとやりたい人は保健所に聞くべき。
(ただ、食品衛生法適合レジンという点では安心安全な素材なので、クッキー型に使うかどうかは別として、小さいお子さんがいるご家庭なんかでは安心して使える上に、廃液を下水に流せる点も良し)

FDM向けのフィラメントとしては北陸エンジニアプラスチックからPP製のものが出てたりします

以下メーカーサイト

まぁこれもエキマテ同様に材料が食品衛生法適合ってだけではダメだと思います。

よく売られてるクッキー型に「PLAと呼ばれるトウモロコシ由来の樹脂を使用しているので安心です!」と書かれてますが戯言です。
乾燥大麻も100%自然由来でオーガニックでヘルシーですよ。

食品衛生法違反のペナルティ

で、食品衛生法に違反すると具体的にどうなるのさ?という話ですが

行政処分として

  • 食品、添加物、器具、容器包装の破棄、その他必要な措置の命令

  • 営業許可の取消、営業の全部又は一部の禁止、営業停止

刑事罰として

  • 3 年以下の懲役 又は 300 万円以下の罰金

といったとこらしいです。
引用:https://www8.cao.go.jp/chosei/dokkin/archive/kaisaijokyo/mtng_8th/mtng_8-4.pdf

あと、回収事案になった場合、
厚生省の公開回収事案検索や、
消費者庁のリコール情報サイトに載るかもしれません。やったね。
実際、規格を満たしていない可能性があるため回収になった事案があります。

【回収理由の詳細】
・輸入通関時の検査不備が判明。蓋の部分が、食品衛生法の規格基準に適合しているか確認が取れていないため

L.L.Bean x Peanuts ダブル・ウォール・キャンプ・マグ、14オンス

違法だとしても、実際健康被害とか起きなくない?

実際のところ、そうかもしれません。
ただ、フィラメントメーカーはクッキー型に使う事なんか想定して製造してませんし、仮に何かが起こっても補償なんてして貰えないはずです。
自己責任の名の下でやる分には良いですが、善意の第三者に対価を貰いながらそんな無責任な物を提供するのは、誠実と言えるでしょうか

というか、結局違法は違法なので、
健康被害の可能性がなくても厚生省や保健所の人たちは許してくれないし、怒られたら相当めんどくさいぞ!!マジで!!!(仕事で食品衛生法違反事例経験者

あとは何かあれば製造物責任法(PL法)にも問われる可能性があります。
これはクッキー型に関わらず3Dプリンタ出力品を販売する上で付いて回る話ですが…。

まとめ

  • 食品に接する道具は器具として定義される

  • 器具には規格があり、合成樹脂製の場合は溶出試験などが必要

  • 食品衛生法に適合させる方法はいくつかあるが、手間とお金がかかる

  • 食品衛生法に違反すると行政処分や刑事罰を受ける可能性がある

  • 健康被害の可能性が低くても違反は違反

法令遵守でがっぽり儲けましょう!!!

公開後追記(23/2/7)

はてブのコメントで指摘がありました。

「検査したら違法かもしれない」を「違法です」というのはミスリーディング。規格外のものを売ることが違法なのであって、検査してないこと自体が違法なわけではない。(輸入時の通関に検査書類が必要なのは別の話。

https://b.hatena.ne.jp/entry/4732014783392166724/comment/kanflu

有識者!!なるほど、ご指摘ありがとうございます。
ということはつまりシュレディンガーのクッキー型的な…?
規格はあるけど検査の義務はないのか…。

食品衛生法 第3条を見ると

食品等事業者(食品若しくは添加物を採取し、製造し、輸入し、加工し、調理し、貯蔵し、運搬し、若しくは販売すること若しくは器具若しくは容器包装を製造し、輸入し、若しくは販売することを営む人若しくは法人又は学校、病院その他の施設において継続的に不特定若しくは多数の者に食品を供与する人若しくは法人をいう。以下同じ。)は、その採取し、製造し、輸
入し、加工し、調理し、貯蔵し、運搬し、販売し、不特定若しくは多数の者に授与し、又は営業上使用する食品、添加物、器具又は容器包装(以下「販売食品等」という。)について、自らの責任においてそれらの安全性を確保するため、販売食品等の安全性の確保に係る知識及び技術の習得、販売食品等の原材料の安全性の確保販売食品等の自主検査の実施その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない

と、あるので、原材料の安全性を確保してるか?というと、食品衛生法適合じゃない原材料を使用している人はその時点でやっぱダメ?
「努めなければならない」がどれぐらいのニュアンスなのかわからないなぁ。

更に追記(23/2/7)

再びはてブコメントより

後で検討するけど、さしあたり器具製造営業は製造施設基準遵守義務(§52②)、成分湧出リスクある材質(§18③)を使う場合は規格適合義務等(§53①)(いずれもnot努力義務)。違反は営業停止(§60①)、無視すると罰則(§81①三)

https://b.hatena.ne.jp/entry/4732014783392166724/comment/casm

情報ありがとうございます!
食品衛生法 第52条はこちら

第五十二条
厚生労働大臣は、器具又は容器包装を製造する営業の施設の衛生的な管理その他公衆衛生上必要な措置(以下この条において「公衆衛生上必要な措置」という。)について、厚生労働省令で、次に掲げる事項に関する基準を定めるものとする。
一 施設の内外の清潔保持その他一般的な衛生管理に関すること。
二 食品衛生上の危害の発生を防止するために必要な適正に製造を管理するための取組に関すること。
② 器具又は容器包装を製造する営業者は、前項の規定により定められた基準(第十八条第三項に規定する政令で定める材質以外の材質の原材料のみが使用された器具又は容器包装を製造する営業者にあつては、前項第一号に掲げる事項に限る。)に従い、公衆衛生上必要な措置を講じなければならない
③ 都道府県知事等は、公衆衛生上必要な措置について、第一項の規定により定められた基準に反しない限り、条例で必要な規定を定めることができる。

そして続く第53条はこちら

第五十三条
第十八条第三項に規定する政令で定める材質の原材料が使用された器具又は容器包装を販売し、又は販売の用に供するために製造し、若しくは輸入する者は、厚生労働省令で定めるところにより、その取り扱う器具又は容器包装の販売の相手方に対し、当該取り扱う器具又は容器包装が次の各号のいずれかに該当する旨を説明しなければならない。
一 第十八条第三項に規定する政令で定める材質の原材料について、同条第一項の規定により定められた規格に適合しているもののみを使用した器具又は容器包装であること。
二 第十八条第三項ただし書に規定する加工がされている器具又は容器包装であること。
② 器具又は容器包装の原材料であつて、第十八条第三項に規定する政令で定める材質のものを販売し、又は販売の用に供するために製造し、若しくは輸入する者は、当該原材料を使用して器具又は容器包装を製造する者から、当該原材料が同条第一項の規定により定められた規格に適合しているものである旨の確認を求められた場合には、厚生労働省令で定めるところにより、必要な説明をするよう努めなければならない。

器具が規格に適合している旨を購入者に対して説明する必要がある、と書かれてますね…?やっぱダメじゃない…?
詳しくは食品衛生法を読み解いて欲しいんだけども、私も読んだ感じでははてブでcasmさんが書かれている通り、この説明義務に違反すれば都道府県知事や厚生労働大臣は販売者に対して営業停止をさせられる事ができ、それを無視すれば罰則があるようです。
ワンチャン、購入者にだけ「食品衛生法適合だよ!!!」ってメールが飛んでたりするかもですが、普通は販売サイトの説明に書いてそうですよね…。
食品衛生法適合な3Dプリンタ製クッキー型を謡ってるショップは…見たことない…。
あった
ちゃんとしてる人はちゃんとやってた。

♦︎当店のクッキー型は、すべて3Dプリンタで制作しています。
材料には「食品衛生法 器具及び容器包装規格試験」に合格したPLA(プラスチック)を使用しており、食用クッキー生地にご利用頂けますが、誤飲食にはご注意ください。

https://www.francesca-vonsweets.com/items/26100677

これで説明の義務は果たしてますが、材料は問題ないとして3Dプリンタ本体側が問題ないってとこはどうやって担保してるんだ…?

まぁ、とりあえず、販売サイトに食品衛生法の規格に適合している旨が記載されていなければ、その時点で説明義務違反と考えて良さそうです。

そして更に追記(23/2/8)

食品衛生法の第七章 検査を確認しました。

第二十五条
① 第十三条第一項の規定により規格が定められた食品若しくは添加物又は第十八条第一項の規定により規格が定められた器具若しくは容器包装であつて政令で定めるものは、政令で定める区分に従い厚生労働大臣若しくは都道府県知事又は登録検査機関の行う検査を受け、これに合格したものとして厚生労働省令で定める表示が付されたものでなければ、販売し、販売の用に供するために陳列し、又は営業上使用してはならない。
② 前項の規定による厚生労働大臣又は登録検査機関の行う検査を受けようとする者は、検査に要する実費の額を考慮して、厚生労働大臣の行う検査にあつては厚生労働大臣が定める額の、登録検査機関の行う検査にあつては当該登録検査機関が厚生労働大臣の認可を受けて定める額の手数料を納めなければならない。
③ 前項の手数料は、厚生労働大臣の行う検査を受けようとする者の納付するものについては国庫の、登録検査機関の行う検査を受けようとする者の納付するものについては当該登録検査機関の収入とする。
④ 前三項に定めるもののほか、第一項の検査及び当該検査に合格した場合の措置に関し必要な事項は、政令で定める。
⑤ 第一項の検査の結果については、審査請求をすることができない。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000233

つまり「登録検査機関で試験を受けて合格し、厚生労働省令で定める表示がされているものでなければ、販売したり営業に使っちゃダメ」と解釈できるのでは。
ちなみに「第十八条第一項の規定により規格が定められた器具若しくは容器包装」の第十八条一項っていうのはこちら

第十八条
① 厚生労働大臣は、公衆衛生の見地から、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、販売の用に供し、若しくは営業上使用する器具若しくは容器包装若しくはこれらの原材料につき規格を定め、又はこれらの製造方法につき基準を定めることができる。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000233

やっぱ検査してなかったらダメなのでは…?
法律って難しいね!そろそろ保健所辺りに聞かないと分からなくなってきました。

引き続きご指摘などあれば是非!!!


その他コメント色々返信

・個人が製作している物にそこまで適用されるのか疑問
・業として行ってるかどうかで判断が変わるのでは

前述の食品衛生法 第三条にある通り、器具を販売する食品等事業者には適用されるはずです。
どれぐらいの規模で売ったら該当するのかは…うーん。
そこは読み取れなかったですが、販売した時点でアカンやつかもしれません。
また、無償譲渡でも不特定多数に配る場合は該当してくるようです。
飲食店等で食品衛生法の規格に適合していない器具を使って食品を提供するのもダメそう。
業かどうかは反復継続意思があるかどうかで変わると思いますが、少なくとも自前のショップサイトを持ってるクッキー型屋さんなんかは該当するのではと思います。
ググったらわかると思いますが、そういうショップいっぱいあります…。


・粘土型なんじゃね
・クッキー型風雑貨と呼べばいける?
・サランラップ越しに使えという注釈を入れればワンチャン

粘土型として売るなら大丈夫…かな?
ただ乳幼児向けのおもちゃも食品衛生法が関わってくるはずなので、年齢制限を設けた粘土型という体なら…?
そしてなによりクッキー型が欲しい層に粘土型はリーチしないので、それはそれでどうなんだという。
手作り石鹸は薬機法を回避するために雑貨として販売されている実情があるので、クッキー型風雑貨は普通にいけそう。絶対にクッキー焼くなよ!絶対だぞ!
ラップはどうなんでしょうね…個人使用でも衛生面が気になる場合に有用ではあります。違法クッキー型が脱法クッキー型ぐらいになる?
※型自体が違法な存在なわけではありません

かなり反響があるので(23/2/11)

元々3Dプリンタ界隈ぐらいにしか届かないかな~と思って書いた記事が、予想の何倍もの反響があったので、ちょっと保健所にお手紙書こうと思います…。
個人的興味で保健所に問い合わせるのもな~~と思ってたのですが、これだけの人に見ていただいている記事を「違法です!(多分)」で終わらせておくのはよろしくないし、まとめる社会的意義もあるのかなと思います。
保健所の回答を記事化出来るかわかりませんが、続報をお待ちください。

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