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忘れられないLive Day7 闇を照らす光(後編)

あの時と同じ光。
それが闇に染まっていた僕の心を照らした。
輝きは今、この瞬間だけかも知れない。
だけどここが、俺の居場所なんだ…

前編はこちら!



激しく心臓が脈を打つ。冷や汗もかなり出ていた。

新年、2011年を迎え1週間程経ったある日、悪夢に魘され目が覚めた。

僕が見ていた夢は「死語の世界」だった。僕は何故だか死んだ事になっており、これから何処かに向かう途中だった。現世に置いて来た夢、大切な人に伝えきれていない気持ち…

もう行くぞ、と聞こえた。夢を諦めろ…そんな声も聞こえた。
その時僕の思考がパニックになった事で目が覚めた。


現実世界に戻って安心したが、やはり精神面は元に戻らなかった。最悪な新年のスタート…と言いたい気持ちだが、最悪を招いたのは紛れもなく自分だ。

全て自分が悪くてこうなってるんだ…
1日に一度は、そんな思考に辿り着く瞬間があった。

練習やLiveもあったがそれで気持ちが戻る事もなく、メンバーに会えば不満ばかりが募っていた。
ある日、深夜にスタジオ入りして始発電車での帰宅中、僕は窓の外を見ながら考えていた。

「バンド、辞めた方がいいかな…」

また単純な価値観の違いが僕の胸を刺すような事があった。単純に心に余裕が全く無い状況で、すぐ感情的になってしまう。失った自信を取り戻せる雰囲気は全くない。心の支えだったあの人が離れていったダメージは相当なものだった。

誰かに相談しても、最終的には自分で決断しなくてはならない。世の中を甘く見ている子供の言葉だと相手にされない事もあった。
そんな事もあり再び誰にも相談しない日々が続いた。

年が明けて間もなく、1ヶ月後に半年前と同じ大舞台に上がれる事が決まった。

話を聞いた時は、またこんな時に…と思っていた。
だが、主催者が誰かを考えたら断る事は出来ないし、出たくないとは言えない。本当はそこまで気乗りしていなかったが、今はまだバンドに所属している立場として承諾した。そして、決まった後にはやっぱり気持ちを少しは昂らせる事も出来たし、もし、自分が大舞台に上がる姿をあの人が観てくれたら考え直してくれるかもしれない…そんな色気も出ていた。

だが、プレイヤーとしての自分を顧みた時、果たして今の自分があの神聖な舞台に上がっていいのだろうかという気持ちが拭えない。

半年前とは180度違うテンション。今度は自分が「出演条件に満たないメンバー」になれば良いんじゃないか?そんな事を考える程には追い込まれていた。結局そんな事を言う事は出来ず、大舞台への出演が決まった。

そしてライブまでの期間に色々考えた末、この大舞台をバンドでの最後の思い出にしようと思った。

アマチュアプレイヤーが聖地をそういう場所にするのは違うだろうと後ろめたい気持ちはあったが、決まっている事を全うす責任もある。もうこのやり方しか思い浮かばない…本当にごめんなさいという気持ちだった。


そしてあの人にもまた会える機会があり、その時にチケットを渡した。だけど実はそのチケットを渡した時にもまた落ち込む事があった。


経験した事の無い八方塞がりの状態。何を選んでも迷いは拭えず、本質は全てを失いたくない恐怖。その恐れに僕は常に支配されていた。


2011年2月6日。

そんな状態で、ライブ当日になった。

そして結局、この日を迎えた時点ではバンドのメンバーとして明るく振る舞えていた時を取り戻す事は出来なかった。

自己を肯定する言葉が何一つ口に出せない沈んだ心。ライブハウスに入れば熱いバンドマン達の姿がある。だが、その空気に入っていく事が出来なかった。どう振る舞えばいいか分からない。


最近頑張ってますか?調子はどうですか?と聞かれても、頑張ってますとは言えても心の底から答えられない。アーティストとしての振る舞いを装いこの日はサングラスをかけていたが、本音は悲しみに満ちて、光を失っているかもしれない目を相手に見せたくなくてかけていたサングラスだった。


勿論「今日でバンドを辞めようと思ってます」とこの場は言える場所では無い。今の状態の自分が本来、この場にいる事がそもそも間違っている。本当に申し訳ない気持ちだった。誰と話していても自分が嘘をついて本音を話せない事が罪悪感にしかならない。それに耐えられず僕はただ孤独を求めていた。


今自分がこの場にいるのは、これまでみんなと頑張って来たからなのは間違いない。だけどあの日の事は、これまでの全てを全否定される程に重い出来事だった。あの日までは楽しくバンドをして、ライブが終わった後で観に来てくれた方々とお話して、他バンドも交えて今後を熱く語り合う瞬間が大好きだった。だが、もう今はそんなに心が優しく無い。

微かに「ライブハウスに行って、先輩バンドやバンド仲間に会えればまた気持ちが盛り上がるかも知れない」と考えてはいたが、それは絵に描いた餅に過ぎなかった。孤独を求める自分が考えていたのはライブの事ではなく、いつ「今日で辞める」と言うかのタイミングの事だった。


だけど…言えなかった。メンバーの顔色を伺った部分は確かにある。それでも、今日でバンドを終わらせてしまうかも知れない刀を抜く決意は僕には無かった。バンドへの愛が止めたのかも知れない。


そして、結局何も言えぬままライブの時を迎えた。

この日の出順はトップバッター。とにかく私情は関係なくこのステージだけは必ず全力でやり切ると決めていた。


スタート曲は前回の大舞台と同じだった。一瞬曲が止まる。そして、前を向いた時お客様としっかり目が合った。その時だった。



あの時と同じ光。

それが闇に染まっていた僕の心を照らした。

輝きは今、この瞬間だけかも知れない。

だけどここが、俺の居場所なんだ…



僕達を待ってくれた人が、ここにいる。


応援してますって言ってくれて、声掛けしてないのに来てくれた人も居た。


この笑顔が見たくて今日まで続けて来たんだ。

心を覆っていた闇が消えていく。


色々な事が頭を駆け巡り瞬時に僕はドラムセットから立ち上がり、羽織っていた上着を脱ぎ捨てていた。

心の中で僕は自分に言い聞かせた。


「そうだよ。バンドなんて、8割は辛い事だ。だけどこの瞬間があるから頑張れるんだろ?」


フロアから見えた笑顔が、僕を救ってくれた。

「何故お前が救われているんだ。お前はお客様を喜ばせる立場だろ?」

僕は我に帰った。そして心の灯が燃え上がった。

今までの思いを全てここで吐き出す。
ここで全力を出せないならこの先も知れている。
これが終わったら倒れても構わない。
そんな思いで僕はドラムを叩き、身体を揺らしていた。

「もう引きずるのは辞めよう」

理由をつけて逃げようとしていただけじゃないのか?という考えが浮かび、この大舞台に立つまでそこに支配されていた事も、もう関係ない。

これまで溜め込んだ思い、全て爆発させてやる…音に全てをぶつけるつもりでドラムを叩いた。

ライブが終わり、余韻に浸った。
そして、バンドを脱退する意思は胸にしまう事にした。


まだみんなとバンドがやりたい。

もう一度お客様を喜ばせたい。やはり僕はこのバンドのドラマーだ。

そしてこの日からもう一度バンドに全力で挑む事を決意した。また辞めたいって思うかも知れないけど、そうなるまではこのバンドのメンバーとして出来る事をまだまだやってやる…

こうして僕は一時的に平穏を取り戻した。


半年後に、全てが終わるとも知らずに…



皆様、前後編共に読んで下さり本当にありがとうございました。

この話は本当の事を言うと触れないつもりでした。
趣旨逸れてるやん!って思ってましたし、何よりここに向かう経緯が複雑過ぎて(実際はもっと複雑で…)、必要な文だけを抽出しても前後編になってしまいました。

ですがこのLiveも本当に忘れられません。なのでそれを書かないのもどうかと思い、長くはなりましたが記す事にしました。

この日から「Liveに来てくれたお客様に喜んで貰いたい」気持ちは本当に強くなりました。敷居とペースを下げて音楽してる今でも、その気持ちは変わっていません。

今考えたら簡単に突破出来そうな悩みでめちゃくちゃ悩んだ時期でもあり…そこも今となっては良い思い出です。

さて、次回ですが悩んでいます。

この後時系列的にはこの半年後にバンドは解散してしまいました。
それを書くと趣旨が本当に逸れるのでどうしようか悩みますが、ここまで書いてしまったし…ってのもあります。ただその話を抜くと結構時系列的に一気に飛んでしまうし、悩みどころです。

ちょっとゆっくり考えます。

改めて最後まで読んで下さりありがとうございます!


2023年3月追記

この時系列の続きは次のストーリーに記しました。

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