子ヤギの放牧(がちょっとうまくできないこと)について (野球少年観察記6)
4年生以下のCチームは4年生だけでチームが組めるところと、4年生と3年生どころか2年生まで入れてチームを作るところとあって、そもそもCチームなんて作れないところもあるのですけれど、とはいえ老舗の…子ヤギがお世話になっているチームは昨年は2年生の子ヤギ君を使ってチームを作っていたし、今年も4年生では足りず3年生の子ヤギ君だけじゃなく2年生の子に入ってもらったりして試合を回しています。
今年の2年生の子は身体も大きいし、肩も強いし、ゴロもフライも綺麗に捕るし、バットも良く振れているのです。わくわく。
もっと強く、もっと早く、もっと正確に。
打球判断、走者の位置、アウトカウントやなんやいろんな事でするべき事が変わるのです。野球ってそういうもののようですが。
息子が迫られるまで注目してみたこともなかったけど、その場所の仕事は大変そうなのです。
三塁手はホットスポットだからね。と、兄さんは鼻の穴を膨らませました。
ふふん?君は苦手そうやな?と切り返すと、「俺は、できない。」(そもそも守備はチームで最下位クラスに苦手【と父親に揶揄される】)と自慢げに兄さんは親指を立てて格好つけて来ましたよ?
1年生から野球を始めて、2年生から実戦に入っている子が3年生になると、どんなに身体が小さかろうが、野球のルールや流れが身体に入っていて、できなくても言えば理解はできる(実行できなくても)ってだけで…、しなければいけない時はあるのです。
子ヤギ君は、三塁手の先輩が負傷中のため前の試合から三塁手を拝命していたのです。
相手チームの選手は一目見ればわかるほど。充実した身体、はっきりしたまなざし、確かな足取り。張りのある声出し。そんな子達ばっかりです。おじさんであるコーチや監督すら気力体力が充実しているように見えるのですから、もうどうしようもありません。
あそこは強くなりたい子が行くチームだよと、誰かが言いました。
バットを強く振ることのできる相手チームの選手。そんな選手が打ってくる球は、打球速度もはやいのです。
不甲斐ない試合になってしまい親として申し訳ございません。遠くからお運びありがとうございました。
おおよそみんな一学年上の4年生だろうけれど、我が子が来年たどり着くだろうか?目標とする分には良いかしら?
子ヤギくんは、今まだ体重も25キロない。9歳。3年生。後頭部の立体感が美しい坊主頭を自分で認識しており、頭を丸めてやる気をアピールするという種類の武器を折々使う…。私譲りで東アジア人のうちでは顔に立体感のあるタイプ。なので正面から見たときの目の存在感が大きいのに、こと野球となるとその大きな目をキラキラさせて食い付いてくるので、まわりもついつい可愛がってしまう。そんな子です。
無駄のない身体を良く鳴らして、大きな届く声を出す子です。そして、実はびびりで、だから母親である私がついて歩いている。そんな子です。
そんな子の背中が最初のうちは緊張で震えているように見えたのです。見えるだけで、本当に緊張して震えているのはきっと母親の私なのだけど。
そのうち、無駄のないどころか、骨と皮と愛嬌だけの子が、唇結んできゅっと黙り込んでしまったのです。
響く良い声のあの子。声が出てないってだけで、実際もう駄目なのだけれど、残念ながら余裕はないのです。
母はベンチに下げて欲しいところだけれど、残念ながら、チームにもそんなに余裕がないのです。
見学していた5年生が、声をかけてくれます。「子ヤギ!ツーアウト!」
「ツーアウト!ツーアウト!あと一個だよ!」1年生の2月から試合に出ている、その時からの子ヤギ君の台詞なのです。
身体全体で一生懸命言うのがあんまりかわいいので、当時のCチームの仲間だった子が促して言わせるのです。
「子ヤギ!ツーアウト!」促しの声が5年生からかかります。
子ヤギはそのいつもの声が出ません。
それもそのはず。さっきから、そのツーアウトから全然、アウトが取れずにいるのです。
投げれば、暴投、受ければ逸らす。こぼす。で、辛い状況が続いているのですから。
少し前から一塁手が涙を拭いている様に見えます。
球数がきて一人ピッチャーが交替し、その子も球数が積み上がってきました。
ストライクがもうなかなか入りません。
相手チームが2巡以上しました。戦意など子ヤギどころか、みんなどこかに飛んでしまい、どう食い付いて良いやら。そんな試合になりました。
子ヤギはどちらかと言えば、生来集中力はない子です。野球をすることでそれを身につけてきたのです。その、元々脆弱な集中力が地上2メートルくらいのところでふわふわしているのが見える気がしました。白く鈍く光って漂っているようでした。
課題が沢山過ぎるのです。どこから考えれば良いのでしょう?
途中からもう疲れ切って朦朧としているので一歩目が遅れて打球に追いつけないのです。
捕球できても3塁から1塁に良い送球ができないのです。
試合後のミーティングが終わる頃には、もう軽度の熱中症でした。
お昼には、だから横になっていました。
だけど、コーチにしんどいから休んでいますって言えなかったんです。母に強く促されたのに。試合後のミーティングで強めの指摘を受けて、心に強く思うところが本人もあって、少し遠慮をしてしまったのでしょう。で、結局午後も練習しました。集中力は頭の上をふわふわしたままで。
母は午後の練習の付き添いは抜けて野暮用にいきたかったのだけど、おかげで抜けることができなかったのです。
集中力が頭の上をふわふわしているのが見えるので、母もだんだん怒れてきます。
言葉も指摘も強くなります。
チームの片付けをするべき時に、あなたはいつまでも自分の荷物を右に左にしているだけよ?一体何しているの?!
みんなが集合しているときに、階段の掃除をしているフリとかやめて!
(熱中症で判断力が落ちてて、周りを見たりお片付けができない状態なんですね)
周りを見て、指示出すのが仕事でしょ?1年生からチームにいる子には3年生になったらやるべき事があるでしょ?
できないなら、野球なんてしなくていい!!
ヤギは野原で草食っとけ(遂にはただの暴言)
やる気無くて、やれない子が大事なポジションに居られるほうが迷惑!やる気があって、できる子に場所を譲れ!
(…ああ、我ながら…なんて理不尽…。)
3年生から野球を始めた兄さんは迫られることの無かった種類の課題を子ヤギ君は突きつけられています。
どこから手をつけて良いやら。ご飯を食べるところから、なんだけど、食べる体力すらないほどの…脆弱。そして、食べたら、その倍動いて消費してしまうのです。
当の子ヤギは土日で疲れ切っているから、月曜日火曜日は辛くて、平日の自主練も兄さんほどはできないのでした。
気力も体力も充実している兄さんが、父親に限界まで追われるのが、家庭内の日常なので、ご飯を食べる体力すらない子ヤギ君には高い高い壁なのです。
練習ができないと、またボールが手につかず、目にもつかない…悪循環がはじまります。今週は、月曜火曜が疲れていて、水曜日は頭が痛くて、木曜日にはついに学校で嘔吐してしまいました。
感染症という感じではないので、熱中症の余波だと思います。小児科の医師には「疲れたね」と言われてしまっています。母の私もそう思うのです。
人数足りないからと出された小学1年生の2月の試合から、木に放たれた小猿のように…まるで、元々そうであったかのように野球少年を生きている彼です。
試合に出たいから、全力アピールして機会を手に入れに行くスタイルの子ヤギ君です。その頑張りを見ていて重要なポジションをくれる指導者に感謝しつつ、だからってできるわけではなくて、だからちゃんと仲間を育てて譲ることも時には必要で、それって結構辛いことではあるのだけど、その痛みに向き合うこともまた成長の糧になると思うのです…さぁ、ご飯食べて寝なさい。
学びとモヤモヤはノートに書き出しなさい。起きたらご飯食べなさい。
ピッチャーとセカンドとサードを一緒にすることはできないよ?多分。知らんけど。守備範囲が内野全部とかになってくるとそれって…競技が変わってくるよ?
ピッチャーになってね、全部三振でアウト取れば良いんだよ。と兄さんが鼻を膨らませています。相手チームの子だって野球頑張ってるのにさ、そんな子が手が出ないようなストライクボールを投げて、取ってもらえるようなできるキャッチャーが必要でしょ?
居るのか?できるんか?おん?
だからチームのみんなと一緒に一個一個成長していくしかないのよ。
先は、長いね…。
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