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玉置浩二さんとオレ。玉置浩二さんとのんのんばあ。玉置浩二さんはのんのんばあ。

玉置さんの言葉の力

玉置さんと言えば,その類稀なる歌唱力に誰もが注目するところですが,私は玉置さんの書く歌詞の魅力に,もう,くらくらしています。

1998 年に発表のアルバム GRAND LOVE。そのアルバムの1曲目が「願い」という曲。ぜひとも,「玉置浩二」「願い」「歌詞」をキーワードに検索して,歌詞を読んでもらいたい。この「願い」という曲,「すみれの花」という6文字からはじまります。その後,5文字,9文字と続くと,もう頭のなかに青い空のしたで,並んで咲くすみれの映像が浮ぶ!道端にそっと並んで咲く,ふたつのすみれの花が,風に揺られて,ふたり,うなづきあっている,笑っているような,泣いているような,そんな風景が頭に,うわーと浮かんでくる,すごい歌詞。

そういう風景を,たった6文字,5文字,9文字で表現してしまう。風景が頭に浮かぶと,ぐっと感情があふれてくる。ああ,私たちも,そんなふうに,互いにうなづきあって,笑ったり,泣いたりしながら,ふたりでそっと生きていけたらな。

すごー。

その後も,「つぐみ」や「雪割草」などが出てきますが,もう風景が,北海道の風景がもう立ち現れてくる。ぎゃー。

あの頃に戻りたいか

1996 年,玉置さんは「メロディ」という曲を発表されています。昔のころを思い出して歌う曲。なんにもなかったけど,楽しかったよね。みんなと,あの喫茶店,名前,そうそう,その喫茶店によく集まって,なんていうこともないことをずっとずっといつまでも話していたよね。というような曲です。

1986年,ボブ・ディランは Bob Dylan’s Dream という曲を発表しています。この歌詞,玉置さんのメロディにどこか似ていて,何もうまくいってなかったけど,みんながいて,あの店に集まって,楽しかったというような内容の歌詞。ああ,昔はよかったなという内容。 Bob Dylan’s Dream というタイトルをつけているんだから,ボブ・ディランの昔のことが歌われているのかな?最後にボブ・ディランはこう歌っている。あの頃に戻りたい。あの頃に戻れるなら,なんだって投げ出すのに。そんなふうに歌っている。ボブ・ディランは何か大切なものを無くしてしまって,それを悔いているんだろう。

玉置さんもメロディのなかで,やっぱり,悔いている。大切なものを無くしてしまったと歌っている。でも,玉置さんは戻りたいとは書かない。

玉置さんは,あの大切な思い出の場面場面,そのときの感覚,今も全然忘れていないよ,心のなかでずっと大切に思い出は生きているよと歌う。全然,戻りたいなんて,言わない。

大切なひとをなくす

大切なものは無くしたけど,忘れていなくて,今も僕を支えていると玉置さんは書く。無くしたけれども,支えられているって,矛盾しているよなーと思うかもしれないけど,これって,大切なひとを失くしたときのことを考えたら,よくわかる感覚なんじゃないかな。

1年前のこと,数ヶ月のうちに,私は家族を3人亡くした。何回目かの葬儀の後,いつもは見ないテレビをつけた。テレビをつけたら,NHK が水木しげるさんの漫画「のんのんばあとオレ」の紹介をしている。水木しげるさんというのは,ゲ,ゲ,ゲゲゲのゲ,夜は墓場で運動会,楽しいな,楽しいな,で有名なゲゲゲの鬼太郎の作者。漫画家。

「のんのんばあとオレ」という漫画は,水木さんが子どものころを振り返って描いた漫画。水木しげる少年,友達を亡くし,何もやる気がおきなくなって,ぼーとしている。その様子を見た,のんのんばあが言う。しげさん,気持ちが重いでしょう。気持ちが重いのは,死んだその子の魂がしげさんの心の中に入ったから。だから,心が重い。

私は,目を見開いて,テレビを見る。なんて,タイミング。

のんのんばあが続ける。これからも,しげさんは気持ちが重くなることがある。もっともっと,心が重くなることがある。だけど,耐えないといけない。耐えられるようになる。おっきくなる。それが成長することなんだよ

私の目はぱかーと見開いたまま。私のこのつらさは,父や母たちが,心のなかに入ってきたから。そう考えることもできる。うん。うん,うん。そうだよね!

こういう感覚,さきほどの玉置さんと同じじゃないかな。無くしたけど,支えられている。

玉置さんもお父さんやお母さんを亡くされている。やはり,NHK で玉置さんがご両親を亡くされたことに触れれていた。玉置さんはこんな意味のことを話されていた。

両親を亡くしたけど,今のほうが,前よりも,ずっと近くにいるように思います。

私もそう感じる。

大切なひとの思い出が,今も心にあるから支えられている。という意味では全然ない。ちがうんです。大切なものが過去あった。それが大切なのは,自分にとって,あるときは助けてくれる存在,あるときは憎むべき存在,生きる指針のようであり,乗り越えるべきものであったり。うーん,自分以外の自分じゃない存在。他人。もういない。もう会えない。無くした。でも,まだ乗り越えていないし,そのひとが指し示すような生き方もできていない。何がよくて何が悪いかもよくわからない。そういう課題のようなものが,すとんと胸に落ちてきた,そんな感じ。

ありがとうございますという感覚。

ボブ・ディランは無くしたものを金で買いたいと歌いました。それははなからできないと分かっていて歌うので,なんとも,ものがなしい。情緒的な感じ。

玉置浩二はちがう。情緒的なように表面的には聞こえるけど,すごい意志を感じる。生きているんだ,それでいいんだ!玉置浩二の曲を聴いて,勇気づけられるひとがいるけど,なんでっていったら,目をぱかーと見開かされるから。こんな強い,大きなひとがいるんだ! そういう驚き。玉置浩二さんは歌もすごい。でも,もしかしたら,玉置浩二さんの作詞の能力はもっとすごいんじゃないか。その生きる意志!こんな歌詞はぜひとも小学校の教科書にいれておいてください。

詩人,玉置浩二

玉置浩二さんはその歌唱力が群を抜いているので,そこに目が行きます。それは仕方のないことです。でも,玉置浩二さんの作る詩,これには途方もない力があると思います。

このごろ,玉置さんの新しい詩を見ることがないですけど,あー,また新しい詩と出会えたら最高なのにな。

おすすめの書籍

のんのんばあって,どんなひとだったんだろうと想像すると,悲しい。ひとを縛る言葉じゃなくて,ひとを強くする,柔軟にする言葉を,私ももっと使えたらいいのになと思う。

あなたが誰か大切なひとを亡くして,今もなお立ち直れないでいるならば,もしかしたら,この一冊はあなたを救ってくれるかもしれません。私たちは必ず大切なひとを亡くします。親であったり,家族であったり。悲しいことに,子どもを亡くすことさえ,あります。なぜ,こんな悲しみを経験しないといけないのでしょう。そう本当に思います。

重いこのこころの理由がなんなのか。のんのんばあの言葉は,悲しみのふちにある私たちにとって救いとなるでしょう。苦しんでいる方,どうぞ,手にとってみてください。

玉置浩二さんが特集されている雑誌

今の玉置浩二さんが特集されるとしたら,どんなタイトルかな。愛!とか。

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