スイスアルプスの消えゆく氷河(3)
氷河の上を歩く
やっと、氷河に到着しました。氷河の上を歩いてみると、白い場所はつるつるで滑りやすく、気を張るのですが、一方、黒っぽい場所は、細かい石や砂が顔を出しており、それがグリップとなって歩きやすいことがわかります。こうした砂や礫が氷の表面に出ているのはなぜでしょうか?実はこれ、氷が融けているということの証なのです。もともと、砂礫は氷と一緒に運ばれてきています。氷の量が多いと、砂礫は氷の中に隠れているのですが、氷が融けることによって、中にあった砂礫がだんだん表に出てくるのです。
融けた氷は水となり、流れ出します。氷の上では水は左右に「蛇行」し、同時に下の氷を溶かしつつ流れていくため、水の流れ道が「氷の回廊」として人が通れる道にもなったりします。また、ところどころに穴があり、水が氷河の下に落ちていき、最終的には、氷河の末端から川として勢いよく流れ出て行きます。この川の水は透明でなく濁っていますが、これは、氷とともに運ばれてきた砂や泥を多く含んでいるためです。氷河から水とともに流れ出た土砂は谷底にひろがり、アウトウォッシュプレーンと呼ばれる土砂の溜まり場をつくります。
氷河の中心から顔を上げると、左右の斜面に、土砂が山のように溜まっているのが目につきます。これは、氷河により運ばれた後、その外側に押し出された土砂で、モレーンと呼ばれます。モレーンには、ごつごつした、粒のそろわない石ころや砂がたくさんみられます。川で運ばれる石ころは、転がったりぶつかったりして、すぐに角が取れてしまいますが、氷河で運ばれた石はあまりお互いぶつかることもなく、角張ったままの形をしています。一方、氷の底では、運ばれる砂礫がやすりのようなはたらきをして、その下にある岩盤を削っていきます。削られた岩は氷の流れの方向に筋が入り、丸みを帯びた羊のような形をすることから、羊背岩(ようはいがん)と呼ばれます。
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