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スキーマを広げる(6):沈黙の春

▼1962年に出版され,世界中に大きな衝撃を与えた本があります。その本は今でも読み継がれ,大学入試の問題でその本から出題されたり,その本や著者について言及された英文が出題され続けています。

▼その本の名前は "Silent Spring"(『沈黙の春』)。著者はレイチェル・カーソン(Rachel Carson:1907年5月27日ー1964年4月14日)という生物学者です。

▼『沈黙の春』というタイトルの由来は,本書の冒頭で描かれている近未来のアメリカのある都市の風景にあります。

▼春になると,鳥や獣が冬眠から目覚め,花が咲き,虫が出てきて賑やかになるはずなのに,ある年の春にはそうした喧騒が一切なく,ただ不気味な沈黙だけが町を支配していた―これは架空の町の話ではあるけれど,そんな殺伐とした風景をもたらしたものは,農薬や化学物質であり,近い将来,そうした風景があちこちで見られるようになるのではないか,とカーソンは警告しました。

▼1962年(昭和37年)といえば,日本でも公害病が問題になり始めていた頃です。しかし,高度経済成長の中では経済原理が優先され,根本的な解決はなされぬまま被害が拡大し,いまだに後遺症やいわれなき差別に苦しむ人々が少なからずいます。日本で「四大公害病」とされるのが,水俣病(1956年=昭和31年頃~),新潟水俣病(第二水俣病)(1964年=昭和39年頃~),四日市ぜんそく(1960年=昭和35年~1972年=昭和47年頃),イタイイタイ病(1910年代~1970年代前半)です。これらはいずれも工場から出た化学物質が原因の公害病です。

▼『沈黙の春』は書かれてから既に半世紀以上が経過しているため,内容に関して科学的に疑問視されるようになった箇所もありますが,当時はまだ注目されていなかった農薬や化学物質の被害,とりわけ「残留農薬」や「生物濃縮(生体濃縮)」といった問題点を指摘した草分け的存在の本であり,化学物質に安易に依存する人類の愚かさに警鐘を鳴らした重要な著作だと言えるでしょう。

▼もっとも,アメリカはその後,ベトナム戦争において猛毒のダイオキシンを含む枯葉剤をベトナムで散布し,ベトナム人やアメリカの軍人に対しても取り返しのつかない大きな被害を与えました。その件についてはこちらの本に詳しく書かれています。ショッキングな写真も掲載されていますが,決して目を背けてはならない歴史的事実であり,アメリカという大国が犯した非人道的な愚行の貴重な記録です。


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