「つながり」を読み解く英文読解(17)~情報構造③:主題(シーム)と題述(リーム)(2)~
▼前回は,英文の情報構造を考えるにあたり,センテンスを「主題(シーム)」と「題述(リーム)」という2つのパーツに分けて把握することについてお話ししました。今回はその続きになりますので,前回の記事をまだ読んでおられない方はこちらからお読みください。
▼今回は,なぜ〈「主題(シーム)」と「題述(リーム」)というややこしい考え方が必要なのか,それが英文を読む際にどのように役に立つのかということについてお話ししたいと思います。
【1】前回のまとめ
▼前回お話ししたことをまとめると以下のようになります。
①主題(シーム):センテンスの前半部分(目安としては主節の述語動詞の前まで)で,「これからそのセンテンスで何を言おうとしているのか」を示す。「心理的主語」とも呼ばれる。主節の主語の前に副詞(句・節)がある場合,それを「大シーム」とし,主節の主語を「小シーム」とする。
②題述(リーム):主題(シーム)を除いた残りの部分。主題(シーム)で提示された内容について詳しく説明している部分。「コメント」とも呼ばれる。
※なお,以下の点にも注意してください。
「主題と題述は,それぞれ伝統的な主部と述部とに一致することが多いのですが,前者と後者は観点の異なる概念であり,両者は常に一致するわけではありません。」(p.26)上山恭男『機能・視点から考える英語のからくり』(開拓社)
【2】なぜこうした区切り方をするのか~「しりとり」と「鯉のぼり」~
▼では,なぜこうした区切り方をするのか,ということですが,そのことについて説明するために,まずは次の例文を読んでみてください(前回引用した例文とその続きです)。スラッシュ( / )は主題(シーム)と題述(リーム)の区切りです。
①The Amish / are a Christian community with roots in the Protestant Reformation in sixteenth-century Europe. ②By the end of the seventeenth century, the Amish / emerged as a distinctive group living in Switzerland and the Alsace region of France. ③Their first leader / was Jakob Ammann and ④his followers / were soon called Amish after him.
(アーミッシュとは16世紀ヨーロッパのプロテスタント改革に端を発する、クリスチャンの共同体である。17世紀の終わりまでに,アーミッシュはスイスやフランスのアルザス地方に暮らす固有の集団として現れた。彼らの最初の指導者はジェイコブ・アマンで,彼に追従する人々がまもなく彼にちなんでアーミッシュと呼ばれるようになった。)
(2016年度金沢大学前期日程 )
(Donald Kraybill, Karen Johnson-Weiner, and Steven Nolt, The Amish)
▼①~④の主題(シーム)を [T],題述(リーム)を [R] と表します。
① [T1] The Amish(アーミッシュは)
[R1] are a Christian community with roots in the Protestant Reformation in sixteenth-century Europe(16世紀ヨーロッパのプロテスタント改革に端を発する、クリスチャンの共同体である)
② [T2] By the end of the seventeenth century, the Amish(17世紀の終わりまでに,アーミッシュは)
[R2] emerged as a distinctive group living in Switzerland and the Alsace region of France(スイスやフランスのアルザス地方に暮らす固有の集団として現れた)
③ [T3] Their first leader(彼らの最初の指導者は)
[R3] was Jakob Ammann(ジェイコブ・アマンであった)
④ [T4] his followers(彼に追従する人々が)
[R4] were soon called Amish after him(まもなく彼にちなんでアーミッシュと呼ばれるようになった)
▼このそれぞれの [T] と [R] を見てみると,そのつながり方にある特徴があることがわかります。①の [R1] にある sixteenth-century(16世紀)という表現とつながりがあると考えられるのが,②の [T2] にある seventeenth century(17世紀)です。
① [T1] The Amish(アーミッシュは)
[R1] are a Christian community with roots in the Protestant Reformation in sixteenth-century Europe(16世紀ヨーロッパのプロテスタント改革に端を発する、クリスチャンの共同体である)
② [T2] By the end of the seventeenth century, the Amish(17世紀の終わりまでに,アーミッシュは)
[R2] emerged as a distinctive group living in Switzerland and the Alsace region of France(スイスやフランスのアルザス地方に暮らす固有の集団として現れた)
▼さらに,②の [R2] にある a distinctive group (固有の集団)と繋がりがあると考えられるのが,③の [T3] にある Their first leader(彼らの指導者)です。
② [T2] By the end of the seventeenth century, the Amish(17世紀の終わりまでに,アーミッシュは)
[R2] emerged as a distinctive group living in Switzerland and the Alsace region of France(スイスやフランスのアルザス地方に暮らす固有の集団として現れた)
③ [T3] Their first leader(彼らの最初の指導者は)
[R3] was Jakob Ammann(ジェイコブ・アマンであった)
▼そして,[R3] の Jakob Ammann とつながるのが,④の [T4] にある his (followers)(彼の[信者たち])です。
③ [T3] Their first leader(彼らの最初の指導者は)
[R3] was Jakob Ammann(ジェイコブ・アマンであった)
④ [T4] his followers(彼に追従する人々が)
[R4] were soon called Amish after him(まもなく彼にちなんでアーミッシュと呼ばれるようになった)
▼このように,直前のセンテンスの題述(リーム)が,次のセンテンスの主題(シーム)に引き継がれていることがわかります。いわば,「しりとり」のような構造になっているということです。これを図にすると次のようになります。
▼〈旧情報/新情報〉という観点で言えば,それぞれの [R] に新情報が登場し,それぞれの情報が次のセンテンスの [T] で旧情報として引き継がれていることになります。
▼では,次の例文ではどうなっているでしょうか。
①Since World War II, Americans / have been engaged in an enormous spending binge*. ②We / now spend nearly two-thirds of our $11 trillion economy on consumer goods. ③For example, we / spend more on shoes, jewelry, and watches ($100 billion) than on higher education ($99 billion). ④We / spend as much on auto maintenance as on religious and welfare activities.
*spending binge: 買いまくること
(第二次大戦以来,アメリカ人は膨大に買いまくることに参加してきた。私たちは今,11兆ドル規模の経済のほぼ3分の2を,消費財に費やす。たとえば,私たちは高等教育(990億ドル)よりも靴,宝石,時計(1000ドル)により多くの金を費やす。私たちは宗教や福祉活動に対するのと同じくらい多くの金を自動車のメンテナンスに費やす。)
(2013年度明治学院大学B日程)
(John de Graaf David Wann, Thomas Naylow, Affluenza: The All-Consuming Epidemic, 2005)
▼この英文も,各センテンス①~④の主題(シーム)を [T],題述(リーム)を [R] と表します。
① [T1] Since World War II, Americans(第二次大戦以来,アメリカ人は)
[R1] have been engaged in an enormous spending binge(膨大に買いまくることに参加してきた)
② [T2] We(私たちは)
[R2] now spend nearly two-thirds of our $11 trillion economy on consumer goods.(今,11兆ドル規模の経済のほぼ3分の2を,消費財に費やす)
③ [T3] For example, we(たとえば,私たちは)
[R3] spend more on shoes, jewelry, and watches ($100 billion) than on higher education ($99 billion).(高等教育(990億ドル)よりも靴,宝石,時計(1000ドル)により多くの金を費やす)
④ [T4] We(私たちは)
[R4] spend as much on auto maintenance as on religious and welfare activities.(宗教や福祉活動に対するのと同じくらい多くの金を自動車のメンテナンスに費やす)
▼今度は「しりとり型」になってはいません。そして,②~④の [T] の We とは①の [T] のAmericans のことと考えられるので,「主題(シーム)が共通で,題述(リーム)が発展している」ことになります。まるで [T] が一本の竿になっていて,[R] がそこからはためく「鯉のぼり」のようになっています。これを図にしてみましょう([T] は共通なので,番号を [T1] で統一し,ダッシュをつけて表しています)。
▼さらに,[R1] ~ [R4] の関係を見ると,[R1] がもっとも抽象的(包括的)で,[R2] では具体的な数値を挙げ,さらに,[R3] と [R4] とで具体的な支出項目を挙げています。このような「鯉のぼり型」の場合,通例,一番上に来ているものが「トピック・センテンス」であると考えることができます。このことからも,①~④が一貫したつながりとまとまりをもつ文章になっていることがわかります。
▼このように,「主題(シーム)」と「題述(リーム)」という観点でセンテンスを分析することによって,センテンスとセンテンスがどのようにつながっているのかをよりはっきりと意識することが可能になります。
〈しりとり型〉
〈鯉のぼり型〉
▼ただし,注意しなければならないことがあります。それは,全ての文が綺麗に「しりとり型」か「鯉のぼり型」に分けられるわけではないということです。多くの文章は,この2つの複合型になっています。また,一見、つながりがなさそうに見えるものの,その背後に「隠れシーム(hyper-theme)」があり,それを巡って論が展開されている場合もあります。〈主題(シーム)/題述(リーム)〉という観点は絶対的なものではなく,あくまでも一つの見方に過ぎない,と理解してください。
▼ちなみに,〈主題(シーム)/題述(リーム)〉を使った,ライティング(自由英作文)対策の優れた参考書があります。山岡大基先生の『英語ライティングの原理原則――テストに強くなる、レポート・論文で評価される』(テイエス企画,2018年)です(「鯉のぼり型」,「しりとり型」を山岡先生は「フォーク型」「階段型」と表現しておられます)。つながりとまとまりのある英文を書くための参考書です。ぜひご活用ください。
【3】〈主題(シーム)/題述(リーム)〉を使って問題を解く①
▼〈主題(シーム)/題述(リーム)〉という観点で入試問題が解ける場合もあります。センター試験で出された次の問題について考えてみましょう(※書式上,下線を引くことができないため下線部を太字で表現しています)。
▼次の問いのパラグラフ(段落)には、まとまりをよくするために取り除いた方がよい文が一つある。取り除く文として最も適当なものを、下線部①~④のうちから一つ選べ。
How do astronauts sleep when they are floating in a spaceship or space station? ①The astronauts are weightless and can sleep anywhere, facing in any direction. ②In order to protect their eyes from strong and harmful sunlight astronauts should wear sunglasses. ③If they were to sleep in an ordinary bed as they do on Earth, their bodies would float away in the air currents and possibly knock into something. ④They have to attach themselves to a wall, a seat, or a bed inside the crew cabin to prevent themselves from getting hurt. Regardless of what they attach themselves to, it is of major importance that astronauts avoid drifting by securing themselves before sleeping.
(2015年度センター試験追試験)
▼上のセンテンスを〈主題(シーム)/題述(リーム)〉に分けて表にしてみます。
▼主題(シーム)の中でキーワードとなる astronauts(宇宙飛行士)とその言い換えにあたる表現を太字で記しましたが,これによりこのパラグラフはほぼ「鯉のぼり型」で書かれていると考えることができるはずです。また,下線部で記したように,このパラグラフでは sleep(眠る,睡眠)がキーワードとなり,④と最後のセンテンスでは attach themselves to (自分を…に固定する)という表現が引き継がれていることから,その間につながりがあるとわかります。よって「睡眠」や「自分を…に固定する」といった表現を全く含んでいない②が,前後とのつながりが弱い部分であり,正解だとわかります。
【4】〈主題(シーム)/題述(リーム)〉を使って問題を解く②
▼では,さらにもう1問解いてみましょう。
次の英文ア~エを,与えられた英文に続けて論理的に意味が通るように並べかえるとき,その順番として最も適切なものを,下の①~④の中から1つ選びなさい。
Illegal wildlife trade results in the loss of precious species and also severely alters the ecosystems in which species and people live.
ア. A false belief that rhino horn cures cancer has skyrocketed demand in Vietnam, where it costs as much as gold.
イ. In the Greater Mekong, the region's biodiversity is threatened to the point where the survival of species like tigers and elephants hangs in the balance.
ウ. Illegal hunting was the likely cause of the death, as it was found with a bullet in its leg and had its horn removed.
エ. In 2011, the last Javan rhino in Vietnam was declared extinct.
① ア-ウ-イ-エ ② イ-エ-ウ-ア
③ ウ-エ-イ-ア ④ エ-ア-ウ-イ
(2014年度獨協医科大学医学部)
( http://www.worldwildlife.org/places/greater-mekong )
▼まず、書き出しの文の主題(シーム)[T]と題述(リーム)[R]を見てみましょう。
[T]Illegal wildlife trade (違法な野生動物の取引は)
[R]results in the loss of precious species and also severely alters the ecosystems in which species and people live(貴重な種[の動植物]が損なわれ、さまざまな種[の動植物]や人間が暮らす生態系を深刻な状態に変えるという結果になる)
▼この内容に続く選択肢を考えるのですが,ここでまず「鯉のぼり型」と「しりとり型」の2通りに分けて考えてみましょう。
(a) 鯉のぼり型の場合:「違法な野生動物の取引」を言い換えた主題(シーム)の文が続く。
(b) しりとり型の場合:「貴重な種[の動植物]が損なわれ、さまざまな種[の動植物]や人間が暮らす生態系を深刻な状態に変えるという結果」を受け、その内容に関連した主題(シーム)の文が続く。
▼次に,各選択肢の英文を [T] と [R] に分けてみましょう。
▼仮に「鯉のぼり型」だと考えた場合,ウの [T] が Illegal hunting なので,書き出しの文のシームである Illegal wildlife trade を言い換えたものであるように思えますが,ウの [R] の the death(その死)に相当する情報が書き出しの文には含まれていないので,(1)の次にウが来るのはおかしいということになり,③が誤りだとわかります。
▼なお,ウの [R] に含まれる the death に相当する内容を探すと,エの [R] に含まれる extinct のことだと考えられるので,エがウよりも先行していなくてはなりません。よって,①も誤りとなります。
▼②か④が正解ですが,イの [T] の In the Greater Mekong, the region's biodiversity も,エの [T] の In 2011, the last Javan rhino in Vietnam も,Illegal wildlife trade の言い換えではありませんので,「鯉のぼり型」ではなく「しりとり型」だと判断し,「貴重な種[の動植物]が損なわれ,さまざまな種[の動植物]や人間が暮らす生態系を深刻な状態に変えるという結果」に関連する [T] を含む文がイとエのどちらであるかを考えましょう。
▼書き出しの [T] に含まれる the ecosystems in which species and people live(さまざまな種[の動植物]や人間が暮らす生態系)という表現を言い換えたものと考えられるのは,イの [T] の In the Greater Mekong, the region's biodiversity に含まれる biodiversity(生物多様性)だと考えられます。となると,あとは②の〈イ-エ-ウ-ア〉という並び方で問題が生じないかどうかを検証すれば良いということになります。
▼以下の表で検証してみましょう。語句のつながり(lexical cohesion)をそれぞれ太字,四角囲み,下線,斜体などで表していますので,そこにも留意してください。
▼この展開を簡略化して書くと次のようになります。
▼この展開図でわかるように,全体の流れはほぼ「しりとり型」ですが,ウで [T1] が [T1’] となって「復活」しているため,後半のつながりがややわかりづらくなっていると言えるでしょう。
▼〈主題(シーム)/題述(リーム)〉という観点はかなり難しいもので,この区分自体,異論もありますが,英文を読み解くための様々な観点のうちの一つとして,また,つながりとまとまりのある英文を書くための道具としても役に立つと思います。
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