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【読書】『宿無し弘文ースティーブ・ジョブズの禅僧ー』 柳田 由紀子 著 集英社インターナショナル 2020年

「禅」といえば、スティーブ・・ジョブズの名前が浮かんできた。
スティーブ・ジョブズが禅を好み、京都にきて禅寺に通っていた、ということは知っていた。ただ、どういうきっかけで禅の世界に入っていったのか、については知らなかった。

ジョブズの導師は、乙川(知野)弘文という曹洞宗の僧であり、アメリカで禅の普及活動をしていた。2002年に亡くなった弘文のことを著者が6年以上取材をして、話を聞いた人に弘文のことを語らせた形で本書は進む。

弘文は、日本の新潟の小京都といわれる町で生まれ、禅の指導のために訪れていたスイスで娘と一緒に溺死した。これだけでも彼の生涯が波乱万丈である、ということが窺われる。

日本での弘文は真摯に禅の実践に生涯を賭けていた。
海外に出てからの弘文は禅を伝えながら、破戒僧ともいえる人生を送った。
例えば女犯のことだ。
弘文は日本では女性との付き合いはほぼなかったらしい。
海外に出てからは2回の結婚、同棲やら派手な女性関係であった。
このギャップが弘文に対して真逆の評価がなされる原因となる。
ただ、悪く評価する人も弘文の禅に対する姿勢、弘文から受けた影響については肯定している。

スティーブ・ジョブズは、何をしたらよいのか、どう生きるべきか分からないときに弘文に出会い、弘文を師とした。永平寺で修行したいと相談し、弘文から修行しながら実業家になるといい、と言われたようだ。また、本書にも書かれているが「現実歪曲フィールド」と表されるほど人を人と思わない性格であったジョブズがありのままでよい、と思えるようになったのも弘文の影響である、とも語られている。

著者は丹念な取材を続けていたが、弘文の素顔がなかなか分からなかった。
アメリカ在住の著者は、アメリカ中で弘文の足跡をたどり、ヨーロッパに行き、そして何度目かの日本での取材の中で曹洞宗の高僧に話を聞いてやっと腑に落ちる。
弘文の素顔が見えた。

思いかけず読むことになった本書は、禅に対する見方を変える一冊となった。

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