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令和6年度簡裁訴訟代理等能力認定考査の結果
前回、特別研修を経ての認定考査受験までの記録をまとめておきました。
その後、12月4日に合格発表がありましたが、受験時の体感がやはり数字の上にも結果となって表れていた。ような気がする。
法務省発表の「司法書士法第3条第2項第2号の法務大臣の認定(令和6年12月4日付け)について」によると、
考査受験者数(A)706人
認定者数(B) 438人
認定率(B/A) 62.0%
昨年度(令和5年度)の77.2%に比べると大幅に下がり、令和に入ってから最も低い認定率となりました。
近年は出題がなかった「動産」の引渡訴訟という出題で、私も含めてですがかなり面食らった受験生が多かったのではないでしょうか。
白状すると、動産引渡についてはほぼノーマークでした。出題サイクル的に売買か登記請求、そうでなければ金消か建明、万が一金田一で請負か不法行為、あたりを想定しておくみたいな感じで対策を考えていた。
当日のことは前回書きましたのでここでは省略。思い出すだけで頭の後ろがチリチリしてくる感じがするのは司法書士試験と変わらない。ツラい。
それはともかく、先ほど引用した法務省発表の結果、全受験生の得点員数表というものも毎年発表されているのですが、得点の分布が視覚的にわかりやすいようグラフ化して前年度と比較してみました(ヒマか?)。
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ちなみに
【R5年度】平均点44.63点
【R6年度】平均点42.52点
となっています。
合格基準点である40点〜50点代前半に大きな集団がある5年度に比べると、6年度は分布が広範囲に及び、点を取れてる人と取れてない人との差が開いて二極化しているといえる。
どこまでも個人的な感覚でしかありませんが、令和5年度の結果を見て「それなりにちゃんと」勉強しておけば大丈夫そうだ、と何となく思っていた横っ面を往復ビンタされたのが今年の試験だった、のではないか。
もちろん、私自身も張り倒されて両頬腫れ上がった一人である。何故か合格できたことはいまだに信じられないけれど。
今年は何が難しかったのか
第1問。法務省のサイトに実際の問題が掲載されたのでご覧になってください。XとYの言い分自体は、近年の出題としてはさほど長くないので一見すると易しそうに見えるが、取り組んでみると要件が抽出しづらい。
さらに、抗弁再抗弁に至っては問題文に「◯◯については考慮するな」という但書がついており、それに必要以上に拘束されて時間を浪費してしまった。
そしてとどめに「予備的抗弁」を問うてきた小問6と評価根拠事実の「評価」をさせる小問7。予備的抗弁は、後でリストアップしておきますが岡口先生のゼロマス本には載ってはいるものの、そこまで学習できておらずお手上げ。
時間の関係でいったん第2問へ。
第1問で思うように点が取れないのも可哀想だから、第2問と第3問で稼がせてあげようという親心(誰の親や)だったのだろうか。発表された配点を見ると、例年は20点しか配点されてなかった第2問と第3問に今年は24点が割り振られている。
しかし、第2問も小問1と2は訴訟物と要件事実について問われていた。それに関しては昨年度も同じだったので、弁論部分が重要なのは変わらない。
今年の第2問は譲渡債権。過去問出題実績は一度きり。
第3問の業務範囲と規律も勉強してなければ当然ながらわからない。司法書士法22条とそれに対応する行為規範の条文との関係を掴むのには、相応の時間がかかる。
司法書士試験における出題科目としての司法書士法とは、全く位置づけが異なり、ざっと眺めておけばオッケーなどというものではなく、しかも今年は手薄になりがちな法人との関係について問われており要件を正確に押さえておかないと結論を間違える。
もし、受験対策として弁論のところだけ力を入れていたら、自分の場合は間違いなく40点取れてなかっただろうと思う。業務と規律については合計14点の配点があり、決しておろそかにはできない。
加えて私がどうにか受かることができたのは、泣きそうになりながらも小問7の②の時系列に気付いて最後の1分でどうにか答えをひねり出せたおかげのような気もします。
司法書士試験と同じで、やっぱり人間、諦めたらアカン。
勉強法、教材について
あくまで、私個人の体験によるものです。
先述したように、自慢できるような答案は書けておらず、かろうじて合格できた一個人の記録ですのでその点はご了承ください。
【書籍】
『認定司法書士への道 第2版』蛭町浩・坂本龍治(弘文堂)
※入門編、理論編、実践編の三部構成
『ゼロからマスターする要件事実――基礎から学び実践を理解する』岡口基一(ぎょうせい)
『要件事実の考え方と実務 第4版』加藤新太郎(民事法研究会)
『民法(全)第3版』潮見佳男(有斐閣)
『司法書士 簡裁訴訟代理等関係業務の手引令和5年版』日本司法書士会連合会(日本加除出版)
『注釈 司法書士法(第四版)』小林昭彦・河合芳光・村松秀樹(テイハン)
これらを全て隅々まで読んだ、ということではなく、学習していて引っかかる箇所やきちんと確認したい時に適宜辞書的に使ったものもある。
メインで使っていたのはやはり『道』シリーズであり、人によっては道だけで認定考査対策は大丈夫だという意見もあるが、私の場合は特別研修で提供される推薦図書リストにあった本の中で入手していたものをそのまま考査対策としても使っていました。
特別研修でも、認定考査の問題検討に際しても、やはり物を言うのは民法の知識になってくる。私自身は、合格後に実体法の記憶の抜けが著しく、大いに反省することになりました。
【その他】
・伊藤塾の認定対策講座(模試演習付き)
昨年の司法書士試験合格発表後、坂本龍治先生の講座を申し込んで少しずつ視聴していました。全てを消化することはできませんでしたが、初歩から実際の試験で気をつけるべきことまで丁寧に解説されているので理解しやすかった。
また、模試の題材として、債権譲渡が扱われていたのはありがたかった。直前に解いていたおかげで本番の第2問は概ね正確に書くことができました。
・特別研修の教材
書籍を読むだけでは今ひとつピンとこない訴訟手続が、研修を受けてみて初めて身を以て理解できるということがあるので、合格後の流れとして①ひとまず時間のある時に『道』でウォーミングアップしておく②特別研修を受ける③あらためて考査対策に着手、というサンドウィッチ方式で学習したのは結果的には良かったのかも。
※認定考査の答案を書くにはそのままでは使えない表現等があり注意が必要
・同期との勉強会、情報交換
基本的には独習状態なので、どうしてもやる気が起きなかったり小さな疑問を置き去りにしがちになりますが、同じ課題をそれぞれが解いて答えを出し合うという勉強会を地元の同期が開いてくれたおかげで、緊張感をもって学習ができました。
別の同期からは資料の提供などをしてもらってそちらも大いに役立った。ありがとうございました。
合格(認定)後の手続き
認定考査に合格すると、合格証書が交付されますが、手渡しまたは郵送での交付となります。
当地では、合格発表の翌々日に受験地(高松)の法務局から郵送されて来ました。
喜びの反面、合格すると登録料として金五千円が強制的に徴収されるので財布は泣きべそかくことになる。
しかし、あの特別研修と考査を以て簡裁代理の能力があると「認定」されるのは、ありがたいような恐ろしいような気もします。
司法書士試験もそうですが、受かって終わりではなくそこからが本番であることを忘れてはならない。
考査後は忙しさに紛れて勉強も疎かになってしまっていたけれど、今回この記録を書き残すにあたってあらためて訴訟手続について多少なりともテキスト等を読み返すきっかけとなりました。
ということで、結果発表後に成績通知と答案の開示請求をしたので返送されてきましたらこの記事に追加編集しようと思います。年明け以降に、お気が向かれましたらまた覗きに来てやってください。
それでは良い年末年始を!
開示請求と成績通知の結果
(2025.1.19追記)
合格発表後に成績通知と答案写しの開示請求を申し込んでいたところ、法務省から順次、封書が届きました。
まず自分が試験当日に書いた答案。
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そして成績通知は、年明けて1月半ばに。
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法務省発表の「司法書士法第3条第2項第2号の法務大臣の認定(令和6年12月4日実施)の基準点等について」により、出題の趣旨と配点が公表されています。
その内容と照らし合わせてみるに、やはり第1問の小問4〜6が大半合ってないのでそこだけで20点近く失点しているのではないかと思われます。
配点が最も大きいのは小問4の14点、次いで小問5の12点。仮にこの2問を丸々落としていたとすると減点が26点ということになり、計算が合わないので少なくとも抗弁については部分点は付いただろうと考えられる。
第2問と3問は対策用の書籍や予備校の模範解答と照らし合わせた結果からすると減点されてたとしてもおそらく数点で、答案の裏面でどうにか稼いだという体感は概ね正しかったのではないだろうか。
総合得点しかわからない以上、推測にとどまりますが。
例年、メインは弁論部分であることは間違いないので、来年以降も考査対策としては私自身の反省からも訴訟物から抗弁、再抗弁まで時間をかけてきちんと対策するとともに、行為規範(旧倫理)についても関連書籍で条文そのものと規定の構造を確認しておくべきかと。裏面の記載でどうにか合格できたと自認している身としては。
勤務や開業されたりで勉強の時間が取れなかったり、ご家庭の事情があったりなど、短期間では思うように学習が進まずたいへんだとは思いますが、今年認定考査を受験される皆さまのご武運をお祈り申し上げます。
司法書士試験同様、最後まで諦めず挑まれますよう…
いやいや、人様にがんばれなどと言えるような立場ではないと思い直し、己こそ、認定の名を汚さぬよう、今回の試験結果を猛省しつつ、引き続き勉学に励む所存であります。
それではまた。