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日本の伝統文化にみる食事の祈りと共鳴その2 日本独自の食事法の歴史と個食

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お膳の食事法とその深層

歴史と背景

日本の食事文化は、古代から現代に至るまで、日本独自の特色を持ち続けています。その中でも、お膳と呼ばれる食事法は、日本の伝統的な食事スタイルの一つであり、その歴史と背後にある深層には興味深い側面があります。

食器の進化とお膳の起源

お膳の起源は縄文末期から弥生時代まで遡ります。弥生時代の遺跡からお膳の基盤となる物が発見されています。そして古墳時代に、食器や調理法に変革がもたらされ、その後の日本の食器様式を形成する重要な要因となりました。

奈良時代には折敷(おしき)が登場しました。時代が進み室町時代に入ると次第に足のついたお膳へと変化していく過程で、それまで床に置いていた食事が、お膳(食台)になり高さが加わったことで、個人の食事空間が形成されていくことになります。


禅宗の影響と食事作法の展開

室町時代の東山文化

室町時代(14世紀後半から16世紀初頭)における東山文化は、日本の歴史上でも重要な文化の一つであり、特に京都の東山地域を中心に栄えた文化・芸術の潮流を指します。この時代には、室町幕府の支配下で平和な時期が続き、寺社や公家の支援によって文化が繁栄しました。

禅の思想や美意識が大きな影響を与え、茶の湯、文学・芸術の繁栄、庭園と建築の美意識などが結びついて、独自の美しい文化が花開いた時代でした。現代の食事の作法は、この時期にほぼ完成を見ていると言えます。その成果は、現代の日本の文化や美意識にも継承されています。

禅宗の静寂さと感謝

禅宗は、仏教の一派であり、その核心的な教義は「坐禅」や「座禅」(座って瞑想すること)によって直接的な体験を通じて悟りを求めるというものです。禅宗は日本にも伝わり、日本の文化や思想に大きな影響を与えました。お膳と禅宗との関わりは、食事を通じて禅の教えを実践する一環として重要な役割を果たしてきました。

お膳における禅宗の影響は、食事の作法や心構えに見られます。禅宗では、一切の行為を精神的な修行の一環として捉え、食事もその例外ではありません。食事を摂る際には、ただ食べる行為だけでなく、食材のありがたさや他者への感謝、食べること自体への集中を大切にします。

禅宗の教えの一つに「一食一味」という言葉があります。これは、一食ごとにその食事そのものを味わい、感じることを意味します。食べ物の味わいを大切にすることで、ただ食べることだけでなく、その瞬間に自己や周囲の状況と向き合い、心を静かにすることが目指されます。

さらに、禅宗では食事における共感と共感の重要性も強調されます。一人ひとりが同じ食事を共にすることで、他者とのつながりや共感を感じる機会が提供されます。この共感の心が、自己中心的な思考を超えて他者への思いやりや理解を深める一助となるとされています。

総じて言えることは、お膳と禅宗の関わりは、食事を通じて心を静め、現在の瞬間に集中し、感謝の心や共感の心を培うことを追求するものであるということです。お膳の作法や心構えは、禅の教えと共に、食事そのものを実践的な精神修行の場として捉え、心身の調和を促進する一翼を担っています。

お膳の特徴と構造

お膳の最大の特徴は、個人専用の食事法としての性質です。江戸時代には「箱膳」と呼ばれる箱に一人分の食器が収められ、食事時には蓋をひっくり返して食卓として使用されました。このスタイルは、自分だけの食事空間を確保し、他人との食事との違いを明確にします。

姿勢と食事の距離感

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