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やまなしフューチャーセンターをつくろう〜その5「デンマークでのデザイン思考との出会い」


前回からの続きです。

省庁の壁を超えてつくられたデンマークのMind Lab

デンマークを訪れたのは、私にとって今回の視察が初めてでした。オランダから深夜のフライトでコペンハーゲンに到着し、駅から徒歩でホテルに行くはずが道に迷い、親切な地元の方に道を教えていただきながらなんとか辿り着くことが出来ました。

翌日は、午前中にMind Labの視察ということで、通訳の方と一緒にホテルから徒歩で施設に向かいました。国の内部機関として設立されたMind Labは、3つの省(教育省、産業成長省、雇用省)とオーデンセ市が関与する形で運営されており、施設も国の建物の中にありました。

この施設が設立された背景には、行政と国民との間に信頼関係がなくなっていることがありました。従来の省庁の壁を超えて、国民にとって何が一番良いかを考え、サービスを再構築していくの場として、このMind Labが設立されたのでした。

そもそも、なぜMind Labを視察先として選んだのか。

大学COC事業は、地域ニーズに基づいて、その解決に資する取組を大学全体として推進することにより、地域志向の大学に向けた教育改革を推進することにありました。この場合の「地域ニーズ」とは、自治体が考える地域課題と言い換えることができます。当時、日本国内のフューチャーセンターの議論は、行政よりも民間企業主導で進められる中で、海外における公的機関が設立したフューチャーセンターではどのような場や手法が用いられているのかということが、私にとっての一番の関心事でした。そのため、今回の視察先は、国や公的機関が運営するフューチャーセンターを中心に選んだのです。

施設には、パソコンなどが並ぶスタッフの執務スペースと、カーテンで仕切られた多様な対話に用いられるオープンスペース、そして集中して議論を行うための卵形のカプセルのようなスペースが設けられていました。

施設の説明と案内をして下さったLykketoftさんによると、従来の統計学などの量的調査に加え、質的調査を中心に行政問題の解決を行っていくことが、Mind Labが目指していることでした。具体的には、公共サービスに関する利用者からのインタビューを収録し、その映像を分析したり、「サービスジャーニー」と呼ばれる、公共サービスのプロセスを利用者目線で記録し、サービス内容の何が問題なのかを日常生活の中から見つけ出すといった手法が用いられていました。

そこにあるのは、国民と民間企業、行政が一体となって、改革に向けて取り組んで行くという新たな試みでした。

そして、Mind Labにおいて最も活用されているのは、「エスノグラフィ(民族誌)」と「デザイン」とのことでした。

これまでとは違った「デザイン」

デザイン?

ここで言う「デザイン」とは一体どういう意味なのか、と質問をしてみると、試作品のように何かを形づくるだけではなく、芝居やアイデアを画にしていくことなど、ビジュアル化して捉えることとの回答が返ってきました。

私自身、大学では建築や都市計画を専攻し、4年間、設計事務所で意匠設計を担当していましたので、「デザイン」はとても身近な言葉でした。

しかし、ここで言う「デザイン」とは、自分が知っているデザインなのか、それとも他の意味なのか、正直なところ、分かったような分からないようなモヤモヤした気持ちでした。

Lykketoftさんは、ある事例を用いて説明してくれました。

デンマークは、優秀な外国人を呼び寄せる魅力のある国だと、一般的には言われています。しかし、実際には、海外で高い教育を受けてデンマークにやってきた外国人の多くは、短期間で帰国、または他国へ転出していました。その理由は何かを把握するために、ひとりのインド人エンジニアを対象にインタビュー調査を行いました。

その結果、子どもをインターナショナルスクールに通わせることができなかった、奥さんがデンマーク語を習う場がなかった、デンマークで生まれた子どもにインドの名前をつけたかったが、受け付けてもらえなかったことなどが、彼らが帰国をしてしまった大きな理由であることがが明らかになりました。

このように、多様な省庁や自治体に関係する複数の問題が関係して大きな問題が生じていることを、サービスを利用する立場から明らかにすることで、従来の統計では分からなかった問題とその対応策を検討することができました。

Mind Labで取り組まれていた手法とは、従来の特定分野の専門家がその知見を活用しながら問題解決をしていくことではなく、サービスの利用者である個人の日々の生活から問題を見つけ出し、その想いに寄り添いながら解決方策を検討していくという新しい試みでした。

その中心となるのが、デザインという考え方。

つまり、何が具体的なものやことをデザインするということではなく、デザインのプロセスや手法を活用しながら、多様な課題の解決方策を導き出していく。それが、フューチャーセンターの中心にあるものだったのです。

それまで対話の場というものは、付箋や模造紙といったツールを使い、個人の意見を出したりそれらをまとめていくワークショップのような断片的なイメージしか持っていませんでした。しかし、今回の視察を通じて、質的調査手法と融合しながら体系化され、さらには対話を通じて解決方策を導き出すためのプロセスにおいて中心的な役割を担っているのが、「デザイン」という概念であることを実感しました。そして、対話の場と融合しながら創造的問題解決を目指すというフューチャーセンターの姿が、少し見えてきたような気がしました。

この記事は、山梨県立大学理事(学生・地方創生担当)である佐藤文昭が書きました。(2018年8月22日)


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