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No.28 『自動車業界』 電機メーカーの失敗に学べ

少し前になるが、日経新聞に『トヨタ「ケイレツ」、CASEで変容』という記事が掲載されていた。覚えている人もいるかもしれない。記事によると、「トヨタ自動車グループの主要16社(トヨタ本体に加え、デンソーやアイシン精機、トヨタ紡織など)と取引のあるサプライヤー約4万社を調べたところ、ソフトウェア会社がエンジンなど既存の部品メーカーを初めて上回った」。背景にあるのは「CASE(つながる車、自動運転、シェアリング、電動化)」と呼ばれる自動車業界の大きな潮流だ。

(話は逸れるが、世の中にはアルファベット4文字の言葉が実に多い。GAFA、VUCA、LGBT、PDCA・・・。4文字の言葉をできるだけ多く挙げる力が『知能』だとするなら、たとえば「VUCA」の時代をどう生き抜くかを問い続ける力が『知性』なのだろう。AI時代の到来が叫ばれるなか、後者の力を涵養することに意を注ぎたいと思う今日この頃である)

ソフトウェアと聞いて、みなさんはすぐに理解できるだろうか。ものづくりの企業を長く見てきたアナリストにとって、実体のないソフトウェアをリアルに捉えるのはどうも苦手である。電機業界において、かつてNECや富士通がハードからソフトへ事業構造を大きく転換したとき、両社をフォローするアナリストの顔ぶれも、それまでのテクノロジー系からITサービス系へごっそりと入れ替わった。次は自動車業界の番である。CASEの到来は、サプライヤーのみならずアナリストの変容も促すことになろう。

自動車においてソフトウェアが使用される具体例を思いつくままに挙げるなら、横滑りを防止する機能、急ブレーキ時の挙動を安定させる機能、自動車が曲がる方向にヘッドライトを照らす機能、車間距離を一定に保つ機能、カーナビのような情報システムを制御する機能などだろうか。これらの機能ではカメラやセンサーなどの電子部品も使われるが、ハードウェアだけでは実現が難しい機能を補完するものとしてソフトウェアも併用されることになる。中身のプログラムを書き換えることによって、機能を自在に変更したり更新したりできる柔軟性がソフトウェアの利点であり、自動車の電子化が進めばそれだけソフトウェアの活躍する機会も増えるというわけだ。

それでは、自動車向けのソフトウェアに強みを持つ企業はどこか。富士ソフト、システナ、セックなどを挙げることができよう。富士ソフトは約2,000名の技術者を抱える大手企業だ。ブレーキやステアリングの制御に実績を持っており、ステレオカメラによるADAS(またアルファベット4文字!)のソフトウェア開発を手がけている。また、システナはパナソニックからソフトウェアの開発を受託しているようだ。そして、セックはインフォテインメント系のソフトウェアに実績を持つとみられる。

さらに、別の日の日経新聞には『巨大隕石級の衝撃』という記事が掲載されていた。要約すれば、CASEの進展は自動車業界のサプライチェーンを垂直統合から水平分業に変え、完成車メーカーにとって儲かりにくい構造となりうるというものだ。この大変化に対して、マッキンゼーのシニアパートナーは「付加価値が高い高級車に製品群を絞り込むなどの改革をしなければ、自動車会社が生き残るのは難しい」と指摘している。

しかし、これではダメだと個人的には思う。山口周氏の言説に倣えば、目指すべき方向はふたつしかない。『役に立つ』でトップに立つか、『意味あるもの』に転換していくことだ。すなわち、コスト競争力で圧倒的な優位を築くか、あるいはそれを持つこと自体がみずからの人生を豊かにすると思わせるか、のどちらかである。単に高級なものを作ってもそれこそ意味はない。テクノロジーでの差別化は必ず陳腐化するからだ。それはフラットパネルディスプレイ業界がすでに経験している。液晶テレビが韓国や中国勢に席巻されたとき、日本の企業は高付加価値路線を謳って挽回を試みたが失敗した。『意味あるもの』への転化とは、言葉を変えればブランド力の強化である。

電機業界の軌跡から自動車業界が学ぶべきことは多いと思う。

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ゆういち@証券アナリストの『私的な企業分析』
無名の文章を読んでいただきありがとうございます。面白いと感じてサポートいただけたらとても幸いです。書き続ける糧にもなりますので、どうぞよろしくお願いいたします。