No.25 『電機メーカー』 研究開発効率が高いのはHとN
あくまで個人的な好き嫌いの話だが、電機・精密セクターの経営者の中ではHOYAの鈴木洋CEOがわりと好きだ。グローバル優良企業へ同社を引き上げた経営手腕もさることながら、上品な江戸っ子といった風情のべらんめえな脱力感がいい。「ここだけの話だけど」と業界や競合の裏話を、多数が参加する決算説明会で確信犯的に披瀝する。一方で、英語によるコミュニケーション能力は抜きん出ており、ネイティブのような発音でビシッと海外投資家の質問に答えたりもする。留学中に悪い仲間とさぞ遊んだのであろう。アナリストとして話を伺っていた頃には、石神井公園の池沿いにある邸宅からジャガーをみずから運転し出社していた。事故を起こしたら大変なので運転手をつけるように周囲は懇願したが運転好きだから仕方ない。
「不況期の方がウチのブランクス(半導体の回路が書かれた原板)はむしろ増えるんだよねえ」。かつて鈴木さんが愉快そうに話していた。「半導体メーカーはヒマになると新しいデザインルールの開発にトライするようになるから。ブランクスって習字で言えば半紙みたいなものだからさあ、半導体メーカーが回路設計にトライアンドエラーすればするほど需要が伸びるんだ。ホントいい商売だよねえ」。
東京エレクトロンが研究開発分野で逆張りの大型投資に動くと過去の新聞記事に出ていた。半導体市況の悪化は鮮明ながら、中期的な需要回復を前提に海外メーカーとの開発競争を勝ち抜くための賭けに出るという。もともと山っ気のある企業だから特段の驚きもないが、不況期に敢えて開発投資を増額するとの記事にHOYAの鈴木さんの悪い顔が思い浮かんだ(半導体製造装置の開発投資とブランクスの需要は直接的には繋がらないとのツッコミは遠慮いただきたい)。
当然ながら研究開発費を投じればOKというわけではない。きちんと収益に結びつけることが重要である。ブランクスにやたらと開発費を投じていたであろう日本の半導体メーカーが韓台中勢に敗北した事実を考えれば、必ずしも効率的にお金を使えていなかったことは想像に難くない。
試しに、主要な日本の電機メーカーの研究開発効率を算出してみよう。分子は直近5年(2014年度〜18年度)の営業CF累計額、分母はその前の5年(2009年度〜13年度)の研究開発費累計額。研究開発費が営業CFに反映するまでの時間差を考慮して分子と分母の抽出時期を違えてある。結果はこうだ。
HOYA7.5倍、日本電産4.6倍、ソニー2.2倍、三菱電機2.0倍、日立製作所1.7倍、パナソニック0.8倍、NEC0.5倍。
あっぱれ、日本電産、HOYA。がんばれ、パナソニック、NEC。
研究開発効率の指標にも企業クオリティの格差が如実に表れて面白い。
無名の文章を読んでいただきありがとうございます。面白いと感じてサポートいただけたらとても幸いです。書き続ける糧にもなりますので、どうぞよろしくお願いいたします。