No.37 『堀場製作所』 鷹の翼は広がるか
いわゆる二代目と言えばロクでもない人物の代名詞といったイメージがある。象徴は徳川秀忠か。しかし、わたしが知っている二代目にはむしろ優れた経営者が少なくない。たとえば、スター精密の佐藤肇(さとうはじめ)会長。最も懇意にしていただいた経営者のひとりである。静岡の寿司が美味しいことをわたしに教えてくれた。そして、もうひとりが堀場製作所の堀場厚(ほりばあつし)会長である。
堀場製作所の成長ペースは厚会長の代からむしろ加速した。経営戦略の要諦を一言でいえば、事業の多角化とグローバル化の推進である。自動車の排ガス計測機器を柱としながら、半導体機器や医療機器、分析機器や科学機器へと事業領域の裾野を広げていった。また、計測の技術をコアとしながら、足りないリソースについてはM&Aを積極的に活用してきたのも厚会長の功績といえる。欧米の企業をグループ内へ上手に取り込んで収益に貢献させる手腕は日本電産の永守会長に勝るとも劣らない。結果として、堀場製作所の売上高は2001年744億円から2018年2,105億円、営業利益は同25億円から同288億円へ成長した。わたしが担当していた2010年前後と比べても営業利益は倍増している。立派なグロース企業だ。
ただし、少し気に食わないこともある。今回の2012年上期(1-6月期)決算と同時に新しい中期経営計画(2019年〜2023年)を予告なく公表した。2020年を最終年度とする現在の中期経営計画の着地を待たずして、である。厚会長はその理由を「加速度が増して変化する外部環境にスピーディに対応し、さらなる事業成長と企業価値向上を実現するため」とした。実際にそうなのかもしれないがどうも腑に落ちない。2019年通期の業績見通しを下方修正せざるをえない状況の中で、最終年度の目標達成が難しくなったから早めに計画を切り上げただけではないかと思ってしまう。なんとなく姑息な感じがして嫌だ。
厚会長の経営手腕を基本的には高く評価しているが、事業ポートフォリオを眺めると課題もある。「バランス経営」を標榜して5つの事業セグメントがバランスよく成長することを志向する一方で、実際の事業ポートフォリオは自動車計測と半導体機器に収益が変調した構造を是正できていない。新しい中期経営計画におけるセグメント別営業利益の目標は、自動車計測120億円、半導体機器177億円、医療機器40億円、分析機器28億円、科学機器35億円。特に医療機器に関しては厚会長も思い入れのある事業で、過去から収益の引き上げに力を注いできたが目論見通りの成長を実現できていない。簡単にいえば、シスメックスやベックマンとの競争に勝ち抜けていないのである。
医療機器の存在感を強めるにはどうしたらいいか。個人的に思うのはふたつである。ひとつが生化学分析において日本電子と提携すること。もうひとつが創薬分野においてコニカミノルタと提携すること。
新しい中期経営計画のシンボルマークはHawk(鷹)。5つの事業を翼に高い視点から目標を見定め、最速で実現する思いが込められている。力強い飛翔を可能とするには真の「バランス経営」の実現が今こそ必要だ。
無名の文章を読んでいただきありがとうございます。面白いと感じてサポートいただけたらとても幸いです。書き続ける糧にもなりますので、どうぞよろしくお願いいたします。