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『処方箋のないクリニック』仙川環【先生のための本棚-オススメ医療作品】治療するのは先端技術では治せない患者と家族の人生―――。

こんにちは!代ゼミ教育総研note、編集チームです。
代ゼミきっての読書家 Hさんオススメの医療に関する小説、3冊目です。
本日は心温まる作品をご紹介!


1冊目はこちらから⇩

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「処方箋のないクリニック」仙川環(小学館文庫)

掉尾を飾るのはサスペンスでもミステリーでもなく、ハートウォーミング小説です。

本書における「総合内科」は、病気が原因で家庭の人間関係が崩れていく、そんな時に相談できる医師がいる医療に特化した「よろず相談所」です。治療するのは先端技術では治せない患者と家族の人生―――。

総合内科は青島総合病院の裏手雑木林の中に建つ別棟にあります。創業者の大叔父が戦後まもなく開設した診療所が長らく放っておかれ、ほぼ廃屋となっていた平屋を手入れして開いた私設クリニックで、青島総合病院とは独立採算となっていました。

物語の最初の相談者が総合内科を訪れると、オレンジ色のナース服に身を包んだ看護師、小泉ミカに、パンケーキがたっぷりあるのでどうぞと勧められます。
診察室に通されると、上半身はパリッとした紳士風なのに、なぜか膝丈のハーフパンツ姿のイケメンに迎えられます。イケメンは数種類のベリーを盛りつけたふっくらしたパンケーキを示し、「まずはご賞味ください。我ながらうまく焼けました。(中略)お口に合うといいのですが」と笑みを浮かべます。このイケメンこそ本書の主人公、青島倫太郎その人です。

医療相談に来た患者や家族にしてみれば、眉を顰めたくなる特異キャラの登場ですが、実はこの風変わりな医師、凄い人なのです。以前は有名な大学病院の准教授で、米国の大学病院に勤務していた際、臨床研究で顕著な業績をあげ、国際内科学会の理事に抜擢されたほどの医療界のスーパーエリートなのです。

それなのになぜ、廃屋同然の建屋で、病院の正式な部門ではない総合内科を開設しているのでしょう?

現在の青島総合病院の理事長兼院長は、先代からその職を引き継いだ青島柳司、主人公倫太郎の弟です。柳司は国内の大学を卒業後、米国のビジネススクールで学んだ経営手法を駆使し、病院を作り変えました。
最新鋭の医療機器や動線を計算し尽くした快適な病棟は、患者のみならず優秀な医師を呼び込むことにも成功しています。根拠に基づく医療を推進し、青島総合病院は先進的な病院として注目を集めるようになりました。

柳司は、自身は理事長として経営に専念し、兄の倫太郎には院長を任せるつもりでした。しかし、倫太郎は民間病院で勤務した経験のない自分は勤務医から始めたいと院長職を固辞しました。兄を名医としてプロデュースしたかった柳司は、内科全般を担当してくれるなら大歓迎と言いますが、倫太郎は医療に特化したよろず相談所となる総合内科の開設を主張します。

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患者が増えるに従って医療現場の余裕はなくなってきている。三分どころか一分で診察が終わる場合もあり、患者の話を丁寧に聞く余裕がまったくない。とにかく時間が足りない。青島総合病院も例外ではない。だが、患者は医師に聞きたいことが山ほどある。じっくり相談を受ける場が、今の日本の医療現場には不可欠だ――。それが倫太郎の信条です。

しかし、柳司は採算がとりにくいのを理由に、医療相談を専門とする総合内科の設置を却下します。諦めきれなかった倫太郎は、敷地の片隅で廃屋となっていた平屋に自ら手を入れ、総合内科の看板を挙げたのでした。

人間関係に傷つき、青島総合病院に辞表を出したミカに、倫太郎は自分の総合内科で働かないかと誘います。

「患者さんの中には、頭が固くて困った人もいる。滑稽なほどの心配性もいる。そして家族の方も患者さんとどう接したらいいか悩みを抱えているケースも多い。でも、みんな真剣だ。そういう人たちと、正面から向き合って話しているうちに、いろんなものが見えてくる。その積み重ねが、医者としての財産になると僕は思ってる。看護師としての財産にもなると思う」

倫太郎の言葉に心を動かされたミカは、彼の申し出を受けいれます。


緑内障を疑われながらも頑なに車の運転をやめようとしない父。胡散臭いサプリに大金をつぎ込む母。怪しげな民間療法に心酔する理事長の妻。彼ら・彼女らが起こしたトラブルに思い悩む家族たち――。倫太郎はどのような治療を施すのでしょうか。ぜひ、本編でお確かめください。

ラストシーンで、倫太郎は柳司に明るく笑いかけます。「誰もが不安になっているこんなご時世だからこそ、よろず相談所が必要なんだよ」と。


 タイプの異なる3作品をご紹介しました。医療系の小説は、ひとつのジャンルとして確立されていて出版点数も多いようです。

今回はピックアップしませんでしたが、

自分の無力さに打ちひしがれた新米医師の葛藤と成長していく姿を描いた、現役外科医、中山祐次郎先生の「泣くな研修医」シリーズ(幻冬舎文庫)や、

完治が望めない人々の心残りを解きほぐし、より良い看護をめざそうと奮闘するナースが起こす小さな奇跡に心温まる、元看護師の秋谷りんこ先生「ナースの卯月に視えるもの」(文春文庫)

などもチェックしてみてくださいね。

ご紹介した作品が、医療系の職業に就いて活躍したいと志す生徒さんのモチベーションアップの一助になれば幸甚です。また機会があったらお会いしましょう。


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