映画『ブルーピリオド』過酷を極める最難関・藝大の実技試験――しかし、受験生の才能、個性をも問う奥深い入試。芸術の本質をうかがわせる一面も【先生のためのシアタールーム】
こんにちは!代ゼミ教育総研note、編集チームです。
新マガジン「先生のためのシアタールーム」始動!
「教育ニュース最前線」でおなじみの奥村研究員・林研究員は実は大の映画好き!教育に携わる皆さま、学び続ける皆さまにオススメしたい映画がたくさんあるとのこと。
今回は、今日封切られたばかりの映画をご紹介。
奥村研究員が、鑑賞後の感動冷めやらぬ間に、一気にレポートしてくださいました。
ぜひぜひお盆休みのご参考にしてみてくださいね。
今回ご紹介するのは、映画『ブルーピリオド』。
監督は萩原健太郎、出演者は眞栄田郷敦、高橋文哉、桜田ひより、板垣李光人、薬師丸ひろ子、石田ひかり、江口のりこ ほか非常に豪華な顔ぶれです。
ここ数年の美大人気に一役買っている、ともいわれる人気漫画がついに実写化。
映画の原作は山口つばさの人気漫画。
何事にもそつなくこなしていた普通の高校生・矢口八虎が、先輩が描いた絵画を見た瞬間、突然目覚め、藝大(東京藝術大学)受験を目指すことになる青春ストーリー。
絵画の制作シーンや美大進学予備校での授業風景などがリアルに描かれ、「絵」というものが実際に、キャンバスに向かってどうやって描かれていくのかを、こうした実写映画で初めて知る人も多いのでは。
眞栄田郷敦演じる矢口八虎が、様々な苦難を乗り越えながらも、様々なモチーフを描き、腕を磨いていくプロセスを通して、美術の道に触発される高校生が増えるのも十分頷けますね。
もっぱら根性一辺倒のストーリーと思いきや、そうではありません。
美大進学に反対していた母親の転寝姿をこっそりスケッチをして、和解につながっていくターニングポイントでは、
「自分が絵を描いていなければ、お母さんのささくれだった手、服のほつれには気付かなかった」との八虎の台詞に、絵を愛するということはこういう事なんだ、と痛感させられるのです。
“美しい”と感じるとはどういうことか、芸術的感性があちこちにちりばめられた素敵な作品でもあります。
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過酷を極める最難関・藝大の実技試験。
ところで、この作品では、矢口らが志望する美術大学として、藝大や多摩美術大学(多摩美)が、実名で登場します。
そして、藝大(油画科)での実際の実技試験の様子が詳細に再現され、後半の重要な舞台となります。
試験会場で繰り広げられる緊迫の課題制作シーンでは、尋常ならざる高度な技量、センス、コンセプト等が要求されることが、実写版では、美術を専門としていない観る人にもひしひしと伝わってきます。
一筋縄ではいかない藝大入試の奥深さ、すごさにも圧倒されます。
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実は、藝大の入学者選抜(入試)は実技がメインの一般選抜だけなのです。
かつて存在していたAO入試(現在は総合型選抜の名称)や推薦入試は実施していないのです。
つまり、藝大は毎年たった1回の一般選抜だけで合格者を決めているのです。
映画の中では、矢口の先輩・森まる(桜田ひより)が、無事多摩美に合格する場面が出てきますが、こちらはAO入試での合格なのですね。森は、一般選抜では不利と感じ、自分の作品や経験を生かせるAO入試を選んで、合格を勝ち取ったわけです。
藝大は、多摩美のように複数の入試方法から選択をする、ということはできず、あくまで一発勝負というわけです。
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美大以外の通常の大学の一般選抜と言えば、、、
共通テストで代表されるように、正誤がはっきりした入試問題の合計点で合否が決まることが多いです。
しかし、藝大での実技による一般選抜は、それとはまるで異なる入試であることに驚かれる方も多いのではないでしょうか。
作品の中で、美大予備校講師の大葉(江口のりこ)が、
「藝大は、その人の目・個性・世界をどこよりも重視している大学なの」
と矢口を諭す台詞がありますが、
ここに、東大を超えるとも言われる難関の藝大が求めるポリシーが如実に表れているでしょう。
モチーフをただ正確に再現する程度では藝大は全く通用しない、というわけです。
藝大入試――一見魑魅魍魎とはしていますが、とても奥深くて、才能や個性を含め、受験生の真の実力が問われる入試。
しかも、長年びくともせず、実施され続けていることに、畏敬の念すら覚えます。
だからこそ、美術を志す若者たちが、決して大げさではなく、人生を賭して臨むに値する入試となるのでしょう。
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さて、最後に、昨今の東大をはじめとする国立大の学費値上げ問題に絡めて、もう一点。
矢口家は父親が専ら夜勤の仕事をしなければいけないくらい家計は苦しく、大学の進学先は国公立大だけ、が大前提となっているのです。私立大という選択肢は存在しないのです。
したがって、美術をやるには、自ずと藝大だけとなる。しかも最難関の大学、となっていくわけです。
国立大の学費が大きく上がるとなれば、そもそも矢口家のような家庭の子どもは、たとえ優秀であっても、藝大どころか、大学進学すら危うくなる、のですね。
家庭の経済状況に関わらず、入試さえしっかりパスすれば、どんな大学であっても進学への道がきちんと確保されるべきである、という、もう一つの隠れた大切なメッセージが、この作品にはあるということも忘れてはいけません。
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(参考リンク)
▶代ゼミ造形学校(芸大・美大受験対策)
▶東京藝術大学
▶多摩美術大学
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