こいつには何を言ってもいい系女子のその後

自分より年齢も立場も上の男性からセクハラを受けた時、若い女性には何が起こるのだろうか。

私は会社員だったとき、上司から自分の身体や容姿に対するいじりという名のセクハラを受けていた。当時はこれを受け流すことが大人のコミュニケーションだと思い込んでいたが、その後私は体調を崩して休職する。

当時の自分に起きた出来事を記録しておきたい。

ーーー

私は新卒で男性ばかりの会社に入った。

セクハラを初めて受けたのは、新入社員として入社した直後の飲み会だった。私はその場で一番年下で、唯一の女だった。

飲み会の席で上司は私を指さして突然「あなたは全然おっぱいがないね」と言った。一瞬何を言われたのかわからなくて、急に頭の動きが鈍くなったような気がした。

私が手で胸を隠す仕草をしながら「えー」と言うと、周りの男性がどっと笑った。私も一緒になってへらへら笑った。その後の会話はよく覚えていない。

帰り道、当時遠距離で付き合っていた夫に電話を掛けた。夫は電話に出なかった。ただそれだけのことに苛立ちが抑えられなくて、涙が出た。

飲み会を機に上司からは、「こいつには何を言ってもいい」と思われたのだろう。

その後たびたび宴会の席で、顔が美人じゃないと言われても、もっとスカートを短くした方がいいと言われても、あるいは仕事の姿勢が「甘い」と言われても、残業が自分たちの頃より短いと言われても、私は毎回「えー」と言って笑った。

ある時、私は女性の先輩に「こんなこと言われるんですよ」と努めて明るく訴えたことがある。先輩は「あなただから言いやすいんだよ」「いじってもらえておいしいよ」と言った。

呆然としそうになるのを私は必死に顔に出さないようにした。心が痛むのを無視しなければと自分に言い聞かせた。

私は大学時代やバイト先など、これまでの人生で関わってきた年上の男性たちのことを思い出そうとした。誰も、私の容姿や身体をおとしめた言葉を言う人たちはいなかった。

でもこの会社を選んだのは自分。そしてしばらくはここに居続けなければいけない。その事実に私はめまいがしそうになった。

ーーー

上手くいかなくなる日は突然やってきた。

ある夜の飲み会で下着のサイズを聞かれ、私はいつもと同じように笑顔で「えー」と言った。胸にまつわるいくつかのセクハラを、また上手くやり過ごしたと思った。

翌朝、出勤前にセーターを着ようとして私は突然自分の身体に嫌悪感を覚えた。どうしたって身体の前面にはりつく胸が疎ましくて仕方ない。苛立ちが抑えきれず、「これ以上私を見るな」と叫びたかった。

それでも、よろよろと準備をして会社に行った。

ずっと無視し続けた心の痛みは次第に動悸や手の震えなど身体の不調となって表れ、心療内科へ通院するようになった。

ーーー

先日、アメトークのみちょぱの回を見た。男性芸人からセクハラを受けても笑顔で受け流し、その対応を絶賛されていた。私は泣きたい気持ちになった。自分がかつてひとりぼっちで男性たちの中に取り残されたことを思い出した。

私はもうセクハラを受けるような状況にいない。それなのに突然当時の自分がよみがえって、あの時の男性たちを憎みたくなった。

私はただ普通に働きたかった。心の落ち着きを求めていた。けれど会社はそれが許される場所ではなかった。

無神経な上司の発言。それを笑う男性たち。

女性たちはこれをどうやって乗り越えて行ったのだろう。今になっても私はよくわからない。

ーーー

時々、夫に対して「私、可愛い?」と聞いてしまう。夫は毎回「可愛いよ」と言う。夫の優しい言葉に自分が満たされていくのを感じる。当時、傷ついて平気でいられなかった自分を、今いたわっているのだと思う。

あの時死にたくなるほど憎んだ自分の女性性は、いま夫のそばにいるとちゃんと大事にしたいと思えるようになった。

それでも未だに心の底にべたっと憎悪は張り付いていて、それは会社を辞めた今でも無くならないままだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?