シャバは美しい所 発端
2019年のクリスマスイブ
かなりオーバーサイズのアウターのポケットに赤い長財布を雑に突っ込んでいた。この頃、私は渋谷付近に住んでいて、家に帰る前にいつも通りコンビニで水を買おうとしていた。 会計時に何か嫌な予感がした。咄嗟にその場にしゃがみ込み、くたくたで小汚い鞄を漁る。鞄の中にはアクリルラッカースプレーが何本も入っている。 太陽の塔入場券 ペンとメモ帳 香水 AirPods
財布がポケットにも鞄の中にも入っていない事に気が付いた。 財布を無くした事が初めてでは無い私はコンビニを飛び出て駅までの道を隈なく探した。改札は問題無く出れた。つまりこの辺りで落としたのは絶対である。スリかと勘繰って人を疑って見ても違う、何度も来た道を往復して見ても財布は無かった。
一番に24時間対応のカード会社に電話をしてカードを止めてもらい、次は何をすればいい?かなり焦っている。
現金や身分証が全て無い。
身一つでは行動が制限される。人間は付属物に支配されてる、、グググ と物を無くす度に思う。
喉がめちゃくちゃ乾いているのに水を買うお金も無く息がどんどん上がっていた。家に帰る気にもなれず、この時は音楽も聞く気にもなれず、ただ駅の周りを往復しながら財布は絶対にある大丈夫 大丈夫 と自分に言い聞かせていた。
1時間程経ち、交番に財布が届いていないかと電話をかけた。名前を伝え、暫く対応を待っていると
「ちょうど今届けられましたよ」との声にかなり高揚した。一気に安堵感が押し寄せてきて、ナイスクリスマス!と足取りが軽くなる。
交番に着き、返してもらう為手続きの用紙を埋めていると、警官が財布の中身を全て出していた。
プリクラや御守りを手に取りふーんといった顔で見ている。私は一刻も早く家に帰りたかった。
しかし、財布の点検が異様に長い。
半年以上前に
「縁起が良いから〜…」と言ってスピった知人に貰った神社の砂が入ったパケ袋を思いっ切り怪しまれたのだ。濁りのある白色の細かい砂
(この砂は隠語でも無く正真正銘の砂である。)
この時、怪しんだ顔で此方を見ている警官を目の前にした私は本気でけろっとしていた。
透明マントのように“余裕”を纏っている感覚だった。しかし、自分が生み出した余裕フィルターが強力であっただけで、内心の核は既にぶっ壊れていた 多分。
「砂を化学鑑定に出したいので署まで来れる?」 と言われ、私はすんなり同意した。事の発端はこれである。学生時代 クリスマスイブ 刑務所で尿を提出したあの日がもう一年以上前の出来事になってしまった。
例として、パケの中身がどっからどう見ても大麻!等では無い私は頑なに拒否すればその後の展開は避けられる事象であったらしい。しかし、砂にも自分にも何も怪しい事は無い と署に同行する選択を自分でしたのだ。もはや自首である。
今思えば、いつか何らかで捕まる事を自身で観測していたからかもしれない。
そんなものは、後講釈とも言えるが。
…
罪を犯している証拠が無くても、怪しまれた段階で自分のあらゆる角度からの写真を撮られた。もちろん逮捕後はより細かに撮られる
元々友達の物だった黒いファーコート、ACCのロンT、裾を引きずる丈のデニム、厚底のブーツ
その時の格好で撮影された自分のマグショット?のようなそれが心底欲しかった。修学旅行の写真や成人式の写真の何百倍もヤバくてウケると思ったからだ。それにしても神社の砂全然縁起良くねーじゃん、それとも神の禊かも 笑い
⊃⊃″<カゝも