シャバは美しい所 シャブ中アケミ
前回の⊃⊃″、キ
私が留置所に入った五日目、同部屋に新入りがブチ込まれた。“新入り”と言っても明らかに、留置所が初めてでは無い様子の40代女性である。
背が低く、市販のカラー剤で繰り返し染めた様なヤンキーちっくな茶髪、声はしゃがれていて、いかにもなビジュアルであったが、彼女はとても優しかった。
出会ったその日に、彼女は自らの本名を躊躇い無く明かしてきた。
印象が近い所で仮名にするならば
トウジョウ アケミ
そんな感じ。レディースの番長みたいな名前だと思った。
中学生の頃に初めて覚醒剤を経験してから40歳になるまで、完全に薬を辞めた事は無いと彼女は話す。
留置所や刑務所は今回で五度目。檻の中で何度も自分の事を話しているからか、彼女は話上手で私は毎回聞き入ってしまった。
16歳のアケミは、暴走族に所属した年上の男と付き合い、何回か遊んだ頃、地元のバーに誘われたと言う。そこで目をつぶってみろと言われ、何も分からなかったアケミは強制的にシャブを打たれたそうだ。
檻の中での会話にて、私が
「今迄で一番衝撃的なトリップ体験は?」
と、ニートtokyoの様な質問をした答えも、この初めてのシャブだと言っていた。
(ちなみに彼女は“全て”やってるタイプの人である)
「合意してないのに、当時は覚醒剤の存在さえよく知らなかったのに、あの時の衝撃は今どんな量を使っても超えることは無い。髪の毛一本一本が逆立って、アニメの変身シーンの様に感覚が研ぎ澄まされた」
なんて事を言っていた。
他にも沢山の体験談を聞かせてくれた。
ヤクザと長年付き合った話、薬の為にもう10年以上風俗で働いている話、量を打ち過ぎて全身が真っ青になり呼吸が止まりかけた話、コンビニ弁当を作るバイトをしながらキマり過ぎてレーンから流れてくる食材を全て跳ね除けた話…等
実は、私とアケミが居た隣の部屋にも、覚醒剤で逮捕された女が一人居た。その子は20歳。毎日シャブの良さを同部屋のメンバーに語り、そのせいで隣の檻の中では
「そんなに良いなら出たらやってみたい」という意見で溢れているのを聞いてゾッとした。
一方アケミは、毎回面白おかしく体験談を話しながらも、オチには必ず
「俺みたいになるなよ〜シャブは一生やるな、此処で約束」と、薬物関係で逮捕された私に対して何度も何度も釘を刺してくれていた。
そう、アケミは一人称が“俺”の女♡
目を合わせながら、もう二度と此処には来ちゃダメと言う度に、彼女はそれを自分自身に言い聞かせている様に感じた。
ちなみに私、シャブ経験は正真正銘0。アケミが腕を見せてくれた時、初めて見たものとして驚いた。
映画やドラマの特殊メイクではいくつもの小さな注射跡があったりするが、あれはフェイクだなと。
私が見たそれは、ほんの数カ所に集中して、でも眺めているだけでバッドに入りそうな位深い跡が残っていた。
私は、やりたい事の一つにタトゥーを彫る仕事があるとアケミに話した。
アケミは、捨て猫を見つけたら一匹残らず保護してしまう程の猫好きである。だからいつか、もう辞めたいから、この腕の内側に猫のタトゥーを彫ってよって話をした。
それが何とも、ド底辺なりの頂点な会話な感じがして良かったんですわ
アケミの本名アケミじゃないけど、アケミ元気ですかね?私は元気、シャバは今日もいい天気です。