シャバは美しい所 視線

ついに部屋(豚箱)に案内される、と廊下を歩く。そこから見える各檻の中からいくつかの視線に気付いた。
時間がもう遅いにも関わらず目が合う女被疑者達からは何かパワーを感じた。まぁ実際にはパワーというか、全員目が据わっていた。

留置される女被疑者達は勿論化粧禁止である。
まつげエクステをしていた女が、異物だと見なされて剥がされていた程だ。全員スッピンに、五日に一度しか風呂に入れない状況で、髪はボサボサ。鏡もまともに見ていない彼女達は、自身の外見を気にするという概念が取り払われていて、まるで動物であった。

檻の中の動物と目が合う、私も今から動物になる?
目を合わせたまま、その場で少し深呼吸をした。


現代においてシャバで生活する人間と、檻の中に居る人間との大きな相違点は、スマホが手元に有る・無しの環境だと察知した。
2020年に生きる現代人、捕まる様な事でも無ければ、何週間何ヶ月も情報機器と完全に離れる機会はほぼ無いに等しい。



私は大学に四年間通い卒業した今、そこで出来た友達は一人も居ない。もっと知りたい 一緒に遊びたい 等と思える人間を同じ大学内に見つける事は不可能だった。
理由を一言にするならば、皆目が死んでいたからだ。

完全なるSNS世代
常時スマホを片手に、取り憑かれたかの様に画面に視線を奪われ、常に自分がどう思われているかを気にしながら校舎をうろつく同級生に毎日心底嫌気が差していた。
くだらない程平和で 豊かな時代に生まれた
現代人そのもの。自分自身ががそう感じる集団の中の一人だという事実にも、時折無性に腹が立った。
何も自分が秀でて特別というよりか、これはただの同族嫌悪に近い。こんな時代に生まれてしまったけど、現実を直視しろ 今を生きろ といった事を常々自分に言い聞かせていた。



真っ直ぐと私を見る彼女達は、確実に意識が此方一点に集中している。何だかピュアだ。
情報機器が一つも無い部屋に居る彼女達にとって、”新入り”が来たという出来事は大きかったのである。

人間を警戒する動物のようも見えたし、
転入生を直視する幼稚園児のようにも見えた。

何方にせよ、あの大学内で見かけていた同級生達よりかは、目と目で何かを通じ合えた気がした。


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