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12人のイカレたおばけたち 1・2

第一場  陪審開始

  舞台には『12人のイカレたおばけたち』のタイトル。陪審員が席についている。

化猫  さて、今回は陪審員1号であり、化け猫の王、我輩ケットシーが陪審員長を務めさせていただこう。

  一同、拍手。

化猫  この残虐かつ無慈悲極まりない事件について、おばけ界から選ばれた我々が陪審員として、想像力の正義の名の下に被告が有罪であるか無罪であるか決定する評議に入ろう。

魔女  有罪確定でしょ。私、五時の新幹線に乗らなくちゃいけないの。

バン  ほうきで来たんじゃないんですか。

魔女  人間のせいよ。

化猫  私語は慎め!

河童  魔女のばあさんに賛成だぜ。挙手かなんかでパパーッと終わらせちまおう。

  あちこちから賛成の声。

化猫  では挙手を行う。被告が有罪だと思う者!

  人間以外、全員が手を挙げる。

化猫  陪審員8号、お前はあの被告が無罪だと思っておるのか?

人間  いや……その……。

河童  お前、見ない顔だな。スーツ着てるってことは最近生まれたおばけだろ。

小豆  それなら、かどとりちゃんと一緒ね。

かど  うん。名前は何て言うの?

人間  佐々木太郎です。

狼男  ササキタロー? モモタローの親戚か?

鬼   狼男どん、桃太郎は一応人間だぞ。

バン  そういえばあなた、やけに人間くさいですね。

人間  人間です。

  一同、はじかれたように「どうしてここに人間が」「どういうことだ!」と大騒ぎ。

人間  さっきから、まさかと思ってたんですが、あなたたちおばけなんですか!

ジン  当たり前です。

人間  当たり前じゃないですよ!

サンタ 当たり前じゃないのは君の方じゃ。これはおばけの裁判。人間がいるなんてありえない事。

人間  でも、ぼく、召喚状が来て……(召喚状を取り出す)ほらっ!

小豆  私の召喚状と同じ。

魔女  変な魔力も感じない。本物だわ。

河童  本物だろうと、おかしいもんはおかしい。守衛を呼んで追い出してもらおう!

化猫  待て待て。小豆洗いと魔女が言うように、召喚状は本物である。陪審員の選出は神によって行われる。今回の被告は人間の子ども。何か意図があっての人選かもしれん。

河童  でもよお。

バン  私はかまいません。人間の匂いを嗅ぐと少しお腹が減りますが。

鬼   バンパイアどんは今アメリカで大人気だったな。

河童  これだから外国のおばけはいけすかねえ。

バン  私から見たらあなたが外国のおばけですよ、河童さん。

化猫  私語は慎め、河童! バンパイア!

河童  だってよ! ……人間だぜ。

  おばけたち、人間をなめるように見る。

人間  悪い夢だ。おばけなんているわけがない……。

  おばけたち、あわてて人間の口をふさぐ。

河童  ほら! 人間ってのは目で見たものすら信じない! 被告だけじゃねえ、人間まるごと有罪だ!

鬼   いっそこいつを食べて、おらたちで評決を出すか。

バン  それもいいですね。

かど  関節はかどとりにちょうだい!

人間  待ってください! さっき言ったことは謝りますけど、これってフェアじゃないですよ! ぼくも陪審員なのに、追い出せ、有罪、食べる! ぼくへの敵意むき出しだ。

ジン  あなたにだけではなく、全ての人間に、ですよ。

人間  落ち着きましょう。あなたたちは本当におばけなんですか。

化猫  教えてやるがよい。


第二場  自己紹介

化猫  2号。

狼男  おれは狼男。

人間  満月の夜、狼に変身する……。

狼男  狼のおれと会ったら頭からガリガリかじってやる。 

化猫  3号。

サンタ サンタクロースじゃ。

人間  本物?

サンタ もちろん。君にはバイクの模型をプレゼントした。

人間  それ、まだ持ってる!

化猫  4号。

鬼   おらは鬼。地獄の獄卒だ。

化猫  5号。

河童  ケーッ。人間に名乗る名前はないね!

人間  (じっと見て)河童。

河童  気安く呼ぶんじゃねえ!

化猫  6号。

ジン  (一礼)わたくしはランプの精。

人間  『アラジンと魔法のランプ』!

化猫  7号。

魔女  あんた、あたしが誰だかわかるね?

人間  魔女でしょう! ほうきで空を飛ぶ……。

魔女  昔はね。今はどこ見ても掃除機、掃除機、掃除機! あんた、あたしに掃除機に乗れって?

化猫  静粛に。

魔女  (無視して)ごめんだね! あんなのに乗る魔女、誰がカッコいいと思うのさ。古きよき趣ってもんをもっと大事にしたらどうだい!

化猫  静粛に。

魔女  (無視して)あたしはほうきに乗れなくなっても、あんたに呪いをかけるくらい朝飯前。いつでもかけてやる。

化猫  静粛に! 次、9号!

小豆  私は小豆洗い。ほれ、おはぎお食べ。(おはぎを渡す)

人間  ぼく、和菓子より洋菓子派なんだけど……。

小豆  お食べ。

人間  いただきます。

化猫  十号!

  かどとり、席ではなく人間の背後にいる。

かど  (人間に)わっ!

人間  わっ! 君は……座敷わらし?

かど  ううん、かどとり!

人間  かどとり?

小豆  かどとりちゃんはこの中で唯一、これから人間たちに広まっていくおばけよ。

かど  (人間に)かどとり、かど取るの得意なの! 見ててね!

  かどとり、鬼のほうに向かって力をこめるしぐさ。

かど  かどとった!

パッと鬼のツノが取れる。一同唖然。

鬼   何をするんだこの……! (こぶしを振り上げる)

かど  かどとり!

  かどとり、力をこめるしぐさ。鬼の怒りがへにゃりと抜ける。

かど  かどとった!

鬼   (こぶしをおろしながら)しょうがないな。それがお前さんの力だもんな。

人間  今のは……。

かど  かどとり、かどを取る。とがったもの、取る。とがった気持ちも取る。みんな丸くな  る!

  かどとり、鬼のツノを返す。

化猫  十一号。

雪男  おれは雪男だ。

化猫  十二号。

バン  バンパイアです。(人間を見て)ちょっと脂っこい食事が多い? サラサラした血のほうがのどごしサッパリで好みなんですが。

  人間、バンパイアから距離を取る。

化猫  最後は我輩だ。我輩は化け猫の王・ケットシー! この胸の白まだらが高貴なる精霊である証。我輩に従わぬ者と猫をいじめる者はケットシーの王国に連れ去るぞ!

人間  狼男さん、サンタさん、鬼さん、河童さん、ランプの精さん、魔女さん、小豆洗いさん、かどとりさん、雪男さん、バンパイアさん、ケットシーさん……。おばけだらけだ。

サンタ なぜ人間がこのおばけ裁判の陪審員になったのか。君は特別な人間なのか?

人間  ぼくにもさっぱり。

魔女  さっさと評決を出しちゃいましょう。

人間  もうひとつ質問があるんですけど。

化猫  言ってみよ。

人間  人間が妖精を殺した罪を問われているんですよね。有罪になったらどうなるんですか?

小豆  おばけ達がその人間から離れていくのよ。

人間  離れる?

河童  かーっ、しちめんどくせえ! いいか、おれたちおばけってのは人間の信じる心、想像力によって存在してる。裏を返せば、おれたちが人間の想像力を豊かに養ってるんだ。持ちつ持たれつなんだよ。おばけが人間から離れると……。

人間  想像力がなくなるって事ですか!

河童  何かを楽しむ心、愛する気持ち、ふしぎがる感性、夢、希望……。そういうものがなくなった人間はただ生きてるだけになるって寸法だ。

人間  あれ? ってことは、有罪の人間が増えたら、あなたたち消えちゃうんじゃないですか? なんで自分で自分の首を絞めるような真似を!

バン  わかりませんか? もう人間に振り回されたくない、いっそ消滅してでも人間を見捨ててしまおう。おばけ界の総意です。

人間  それって……。

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