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12人のイカレたおばけたち 5・6

第五場  矛盾証言

雪男  だが、被告が妖精を殺す言葉を言ったのを聞いた証人がいるんだぞ。

河童  ぶ、ぶら、ぶらなんとかの証言は無視できないぞ!

人間  ぼくはあの証言も怪しいと思います。

河童  なんだと! (人間につかみかかろうとする)

かど  かどとりっ!

  かどとり、河童に向かって力をこめる。河童、へにゃへにゃと椅子に座り込む。

かど  かどとった!

小豆  えらいわ、かどとりちゃん。河童さん、おはぎでも食べて落ち着いて。(河童におはぎを差し出す)

化猫  証言が怪しいとは?

人間  法廷で聞いたときに、何か変だと思ったんです。でもはっきり思い出せなくて……。

ジン  私は一言一句覚えていますよ。

人間  ええ!

ジン  証言者は被告の家に住むブラウニー様。家を守る妖精で、自身も絶滅危惧種です。神聖なる法廷で嘘をつかない、という誓いをしたあと、こうおっしゃいました。「あのガキは嫌なヤツでしてね。散らかった部屋を見てはぷんぷん怒り、お手伝いを申し付かってはヘラヘラ笑うって具合ですよ。見ていてイライラするような、人の嫌がることを率先してやるようなヤツです。あの言葉を言った時の様子ですね。あのガキ、シリアルで昼飯を済ませて、なんか本を読んでやした。すると突然本を床に叩きつけて叫んだんです。『妖精はいない、そんなの信じない』って。あたしゃヒヤッとしましたね。そしたら案の定。ひどいやつですよ、ホントに。」

雪男  証人ははっきり、証言しているぞ。

人間  たしかに。でも、なんか、やっぱり、おかしいなあ。

サンタ やっぱり有罪かのう。あれだけはっきり「妖精はいない、そんなの信じない」って……。

狼男  あ。

人間  どうしました。

狼男  おれ、「妖精はいない、信じない」って言ってたと思い込んでた。間に「そんなの」が入るんだ。

人間  (ハッとして)「そんなの」。「そんなの」って。

河童  妖精のことだろ。

人間  ぼくも「そんなの」は「妖精」だと思い込みました。もし、「そんなの」が「妖精」ではなく、「妖精はいない」だったらどうでしょう。

狼男  「妖精はいない、そんなの信じない」……。まったく逆だ。アルヴィンはむしろ、妖精を信じている!

人間  この証言は全部ひっくり返すことができる言葉だらけ。もう一度証言をお願いします。

ジン  「あのガキは嫌なヤツでしてね。散らかった部屋を見てはぷんぷん怒り、お手伝いを申し付かってはヘラヘラ笑うって具合ですよ。見ていてイライラするような、人の嫌がることを率先してやるようなヤツです。」

人間  証人の感想を抜けば、「散らかった部屋を見ては怒り、お手伝いを申し付かっては笑う、人の嫌がることを率先してやる」子どもです。

魔女  だいぶ印象が変わるわね。

鬼   どういうことだ。

魔女  散らかった部屋を見て怒るってことは片付いた部屋が好きってことでしょ? お手伝いをして笑うって、嫌がらずにお手伝いしてるってことじゃない。

河童  でも人の嫌がることをやるヤツなんだろ?

魔女  みんなが嫌がる仕事を率先してやるとも取れるわ。

小豆  「片付いた部屋が好きでお手伝いをちゃんとする、人がしたがらない事を率先してやる子」。いい子じゃないの。

サンタ 屁理屈じゃないか? わしが知っとるブラウニーは嘘をつかなければ、そんな悪意のある言葉選びもしない。

化猫  いや、人に大事にされないブラウニーは根性が捻じ曲がって悪い妖精になる。証人はボロを着てたし、目もよどんでた。第一、いいブラウニーが自分の家の子を「あのガキ」なんて言うはずがない。

人間  アルヴィンがいい子なのかは断言できないけど、証言に信憑性がないことは確かだ。(ケットシーに)決を!

化猫  我輩も今そう思っていたところだ。 被告が有罪だと思う者!

  河童、雪男、かどとりだけが手を挙げる。

化猫  無罪だと思う者。

  それ以外が手を挙げる。

化猫  これは……。

河童  お前ら、おばけだろ!

バン  人間さんは証言をひっくり返しました。確証がもてない以上、有罪に手を挙げることはできません。むしろ有罪であるほうが疑わしい。

  無罪組、頷く。


第六場  物的証拠

河童  人間の口車に乗せられやがって! 大事なものを忘れてるんじゃないか?

サンタ 大事なもの?

雪男  「妖精はいない、信じない」と書かれたメモだ。

河童  証言はあいまいだったかもしれねえけど、文字はたしかに被告のヤツのだ。ヤツの勉強ノートとメモ見ただろ?

人間  法廷から証拠を借りることはできますか?

化猫  我輩も今そう思っていたところだ。守衛に尋ねてみよ。

かど  聞いてくる!

  かどとり、舞台袖へはける。

河童  あの証拠がある限り、被告は有罪だ。

バン  また人間さんがひっくり返してしまうかもしれませんよ。

  かどとりがメモを持って、首をかしげながら戻ってくる。

化猫  借りられたか。

かど  うん……。(ケットシーにメモを渡す)

小豆  どうかしたの?

かど  うーん……。

化猫  これをそのボードに貼ってくれ。

  ジンがメモを受け取り、ホワイトボードに貼りだす。

  メモには「妖精はいない 信じない」「いない」の後、ぐちゃぐちゃに塗りつぶされている。

  かどとり、唸りながら首をひねる。その介抱をする小豆洗い。

河童  はっきり書いてあるだろ、「妖精はいない、信じない」。

魔女  この塗りつぶしは何かしら。

河童  書き損じたんだろ。

鬼   そうだろうな。これを見るとやっぱり有罪な気がする。

雪男  有罪確定だ。

化猫  人間、何かこの証拠に対して言うことはあるか?

人間  ええと、その……。

狼男  頑張れよ、人間!

人間  ……ダメだ!

バン  おやおや。

河童  屁理屈も弾切れか! よく頑張ったな、人間!

  河童と雪男、笑う。人間、頭を抱える。

小豆  うるさい! かどとりちゃんの様子がおかしいのよ!

  一同、かどとりを見る。

小豆  大丈夫? おはぎ食べる?

  かどとり、首を横に振り、メモの前へ行く。

かど  この黒いところ、かどがある。

狼男  かど?

かど  すごく嫌な感じのかど。とがった気持ち。

人間  そのかど、取れますか?

かど  やってみる。

  かどとり、メモに向かって力をこめる。

かど  かどとりっ! ……かどとった!

  メモの塗りつぶしが取れ、「なんて」の文字が現れる。

河童  「妖精はいないなんて、信じない」……。

かど  今のかど、アルヴィン君のじゃない。違うにおいのかど。

人間  アルヴィンのご両親のかどですか?

かど  そうだと思う。

魔女  なるほどね。

鬼   何がなるほどなんだ?

魔女  両親はアルヴィンのメモを捨ててしまうより、文章の意味を変えた方がいいと思ったのよ。そうやって、アルヴィンに刷り込もうとしたのね。「お前のメモは妖精を信じないと書いてあるぞ。お前は妖精を信じていないんだぞ」って。

雪男  そこまでするか。

魔女  人間もピンからキリまで。今回あたしたちが裁くのはアルヴィンであって、アルヴィンの両親じゃないわ。

  一同、自分の席につき、各々、何かを考えている様子。

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