12人のイカレたおばけたち 7・8(終)
第七場 最終評決
化猫 決を採る。被告は有罪だと思う者。
誰も手を挙げない。
化猫 被告は無罪だと思う者。
サンタ以外手を挙げる。
サンタ 河童さん、あんたも無罪だと思っとるのか?
河童 物的証拠が無罪の証明になっちまったからな。
化猫 (サンタに)さっき無罪に手を挙げていたじゃないか。何か迷うことがあるのか。
サンタ、人間をじっと見る。
サンタ わしは有罪に一票じゃ。
人間 サンタさん!
サンタ ……だって、その少年はいつかわしの事を信じなくなるじゃろ。
人間 え?
サンタ 今は信じていてくれても、いずれわしの正体は親だったなんて言い出すじゃろ。
河童 いずれ信じてもらえなくなるのはみんな同じだ。
サンタ いいや! みんな、いるかいないか分からないものになるが、わしは親に成り代わられる。存在全否定じゃ! アルヴィンだって、あと数年もすれば、いやもう今年にでも、わしの事を親だと言う。子どもというのはそういうものじゃ! 罪深いものなんじゃ! 有罪なんじゃ……。
サンタ、だんだんとすすり泣く。人間、サンタの肩に手を置く。
人間 ぼくはもう子どもじゃないけど、あなたのこと、信じます。あなたも信じてください。アルヴィンを。……人間を。
一同、沈黙。
化猫 ……最終評決を採る。被告は無罪だと思う者。
全員の手が挙がる。
化猫 これにて評議を終了する。
各々、部屋の外に出て行く。バンパイアが人間に握手を求める。
バン 見事な証明でした。これでおばけの怒りも少し落ち着くでしょう。
人間 (握手を返す)よかったです。
バン あなたは弁護士さん?
人間 いえ、ぼくは作家です。
バン 作家さんでしたか。それならこの評議は面白かったでしょう。
人間 ドキドキしました。ぼくはおばけや不思議がなくなったら生きていけません。想像力で生活していますからね。
バン ……なぜあなたが陪審員に選ばれたのか、分かる気がします。
人間、陪審員室を眺める。
人間 またおばけの皆さんに会いたくなったらどこへ行けばいいんですかね?
バン 私たちに会えるって信じてください。案外、人間のすぐそばにいますから。それよりどうでしょう、この後一杯。
人間 いいですね! でも、血は飲みませんよ。
バン もちろんアルコールが美味しい店を紹介します。
人間とバンパイア、談笑しながら退室。
第八場・題名修正
誰もいなくなった陪審員室。『12人のイカレたおばけたち』のタイトル。
かどとりが現れる。
かど (文字を読む)じゅ、う、に、に、ん、の、い、か、れ、た、お、ば、け、た、ち。 かどとりっ!
『レ』の文字に向かって力をこめるしぐさ。
かど ……かどとった!
カタカナの『レ』の文字のかどがなくなり、ひらがなの『し』の文字になる。
かど じゅ、う、に、に、ん、の、い、か、し、た、お、ば、け、た、ち。
かどとり、にっこり笑って退場。
〈終わり〉
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