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12人のイカレたおばけたち 3・4

第三場  再度挙手

化猫  挙手を取る。被告は有罪だと思う者!

  人間以外が挙手をする。

河童  (人間に)この期に及んで……。

人間  被告は子どもだし、罰も重いし、あなたたちも消えるなんて……いけないでしょ。ダメでしょ。

サンタ 子どもはかわいそうかもしれないのう。

魔女  妖精を殺したことに変わりはないわ。

人間  あなたたちは人間に失望して消滅しようとしてるのに、一人の妖精の死を大きな問題だと思っている。やっぱり消えたくないって気持ちがあるからだ。もう一度事件を整理して評決を出しても良いんじゃないですか?

バン  被告の無罪の証拠を探してみよう、と。

河童  人間お得意の屁理屈と嘘とわがままで被告を救いたいんだろ! 被告は人間だからな!

人間  ぼくは、被告だけじゃなくて、あなたたちも助けたい! 人間の事を信頼してほしいんです!

魔女  なんて自信過剰なの。

化猫  待て。人間のことを信頼してほしいと言ったか?

人間  はい。

化猫  ではお前がやりたいように被告の無実を証明してみせよ。そうすれば人間はまだ信じるに足ると認めよう。しかし、お前がそれに失敗したら、我輩たちは動き出す。

人間  ええっ!

魔女  新幹線の時間までに終わらせてよね。

人間  は?

河童  失敗に決まってら。被告の有罪は火を見るより明らかだ。

化猫  どうだ、人間。やるか? やらぬか? やらぬのなら、被告有罪で評決を出す。

人間  そんな! ぼくはそんな柄じゃ……。

化猫  ならば被告と人間とおばけ全ての未来を見殺しにするのだな?

  おばけたち、じっと人間を見る。

人間  ……わかりました。やります。

鬼   嘘をついたら閻魔様に舌を抜いてもらうぞ!

人間  嘘なんてつきません。皆さん、お手柔らかにお願いします。

サンタ 腹なら柔らかいぞ。最近メタボが気になって。

バン  そういう意味じゃありませんよ、サンタさん。


第四場  検証開始

人間  まずは事件を整理しましょう。被告はイギリス・ヨークシャー州の少年、アルヴィン。五歳の一人っ子。彼は妖精を殺した罪に問われています。その殺害方法は、「妖精はいない、信じない」と言ったこと……。これってどういうことなんですか?

  ジン、本棚から本を取り出す。

ジン  この本に書いてあります。

人間  (本を受け取って)『ピーターパンとウエンディ』?

ジン  永遠の少年・ピーターパンと妖精のティンカーベル、そして人間の少年少女がネバーランドで大冒険。この中で、子どもが「妖精はいない」と言ったら妖精は死んでしまうシーンがあります。

人間  アルヴィンがその言葉を言った証拠は……。

河童  人間の子どもなんだから言うに決まってるじゃねえか。

人間  偏見だ!

サンタ だがあの両親に育てられて妖精を信じるようになるとは思えん。

かど  知ってるの?

サンタ その子の事は強烈に覚えておる。いや、その子の両親、と言った方がいいかもしれん。

雪男  どんなやつらだ。

サンタ クリスマスは表にほんのちょっぴり、ご近所さんに変に思われない程度の飾りつけ、家の中にツリーはなし。わしのプレゼントはアルヴィンが起きる前に両親に捨てられてしまった。わし用のミルクとクッキーもじゃ。

人間  今、サンタさん用のミルクとクッキーと言いましたか?

サンタ うむ。

人間  それ! 誰が準備したんでしょう?

魔女  アルヴィンじゃないの?

小豆  それじゃアルヴィン君はサンタさんがいると思っているのね。

  おばけたち、ハッとする。

人間  被告・アルヴィンはサンタさんを信じていた。ミルクとクッキーがその証拠。そんな子が、「妖精はいない」なんて言うでしょうか?

狼男  たしかになあ。

雪男  それは、想像でしかない。そのミルクとクッキーは、サンタ用じゃなかったかもしれない。

サンタ いや、あれはわし用じゃ。破り捨てられたわし充ての手紙の切れ端が台所のゴミ箱にあった。

河童  おい、サンタ!

サンタ 知っていることは全部言わなくちゃのう。

化猫  その通り。評議は公平に。それが帝王学だ。

人間  ぼくには不公平な評議ですけどね……。

ジン  サンタ様が子どもからの手紙を見間違えるはずがありませんね。その少年はサンタ様を信じていた。

狼男  サンタを信じたいのに、親に信じさせてもらえないのか。かわいそうだな。

河童  妖精も信じていたとは限らないぜ。

人間  (ケットシーに)決を取ってください。

化猫  我輩も今そう思っていたところだ。被告が有罪であると思う者!

  人間と狼男とサンタ以外挙手をする。

河童  おい!

サンタ 子どもがかわいそうになってきてのう。

バン  同情で無罪にするのはよくありませんよ。

狼男  同情じゃない。ここで言う有罪は、絶対の確信が持てなくちゃいけないんだろ。おれはサンタを信じる子どもが妖精だけは信じない、ってのが納得いかない。被告は妖精も信じていたんじゃないか?

魔女  あんた、すっかり人間に染まってるね。

鬼   おらも少し無実のような気がしてきた。

河童  お前までどうした!

人間  自分が思うとおりに手を挙げましょう。有罪9対無罪3。

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