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お名前頂戴屋

一人で王将に入り、レジ横のテーブル席に案内された。早速、餃子2人前と回鍋肉ジャストサイズ、生ビールを注文した。アルバイトのお姉さんに「生ビールは、餃子のタイミングでお願いします」と告げ、久々のおひとり様タイムが始まった。

日曜日の20時ごろの王将は、おひとり様も多く、私同様覇気のないおっさんが、カウンターで思い思いに時間を過ごしていた。餃子を待っている間、私は、レジ横のテーブル席からカウンターおっさんビューを眺める。人生悲喜交々という言葉が浮ばざるを得ないビューである。

レジ横に陣取っているせいで、自動ドアが開くたびに肌寒い思いをするが、仕方なし。日曜終わりかけの時間でもそれなりにお客さんが入ってくる王将は、さすがである。

お客さんは、テイクアウトが大半だった。テイクアウトのお客さんがレジで待っているとそれに気づいた店員の金髪の兄ちゃんがレジの方にやってくる。

「テイクアウトのお客様ですね〜。あ、すみません、お名前頂戴してよろしいですか?」とさも当然のように聞く。お客さんは、何も疑う様子もなく「あ、〇〇です〜」と素直に答える。

***

金髪「はい、ただいまお名前頂戴しました〜。ありがとうございます〜。ささ、もうあなた・・・に用はありません。どうぞお引き取りくださいませ〜」

お客さん「え、え、どうゆうことですか?」

金髪「あ、あなた・・・のお名前頂戴しましたので、もうあなたに用はありません。あ、私、王将のアルバイト兼お名前頂戴屋してます。〇〇と申します。あ、早速で恐縮ですが、あなたがさっきまで使ってたお名前の〇〇を使わせていただきました。〇〇という名前、〇〇になりたての私には、まだしっくりきてませんが、せっかく頂戴しましたので、ある程度使わせていただいて、しっくりきましたらそのまま使いますし、あるいはしっくりこないようなら〇〇の名前をゴミ箱に捨てて、また誰かのお名前頂戴させていただきます〜」

お客さん「な、何言ってるんですか、私の名前は、、、。あれ、私の名前って、なんだっけ、、、。あれ?私の名前、、、お、思い出せない、、、。自分の名前が、わからない、、、。」

金髪「そんなこと当たり前じゃないですか。先ほど、私があなたのお名前を頂戴させていただいたんですから。あなたは、名前を私にくれたんですから。ちなみに、さっきまであなたが使ってた名前は〇〇なんですけど、まぁ、そのこと自体もう忘れているでしょうね。簡単にお名前を他人にあげたらダメですよ」

お客さん「く、くそう、、、、。。。。名前が、私の名前が、、、、。私の名前がわからねええ。。。。私の名前は、いったいなんなんだ。。。。思い、、、出せない。。。」

金髪「アホですね。そんな簡単にお名前あげるなんて。ずっと使っていた大事なお名前なんですからもっと大切にすべきでしたね。今、あなたの名前はないんで、お名前が欲しかったら、誰かからお名前頂戴するしかないですね。それでは、私はこれで。」

お客さん「ちょっと待て。く、くそう、、、。これから名前なしでどうやって生活したらいいんだよ、、、。なんでだ。なんでこんなことするんだ?」

金髪「うーん。ま、遊びというか暇つぶしというか。ま、ただの趣味です〜。なので、そんなに思い詰めることないですよ。あなたが今まで大切にしていた名前は、私にとっては、所詮遊びの道具でしかなくて、そんなに大したものではないですから。名前がなくなったからといって、あなた自身は消えないんですから、大丈夫ですよ。ま、新しい名前を誰かから頂戴したらいいんじゃないですか?お名前頂戴屋をやってみたらわかることですが、最近の人って、自分の名前を他人に簡単に与えてくれますよ。生まれてこの方、ずっと付き合ってるはずの大事な名前なのにね。これもまた不思議な気がしますが。簡単に新しい名前を他人から頂戴できると思いますよ。じゃ、私はこれで。」

***

ん。
妄想終了。

「お名前頂戴してよろしいですか?」の違和感 と「客も客で自分のお名前やのに簡単に他人にあげるやん」の違和感からヘンテコな妄想をしてしまった。おそらく私は今、疲れているのだろう。



餃子まだかな。
あ、きた。


・こぼれ話

自分の大切なものや大事な価値観が他人にとっては、クソみたいにどうでもいいことで雑に取り扱われるときってありますよね。メンタル的に膝カックンくらうというか、肩透かしされるあの嫌な感じ。かといって日常が流れていくことで、大事なコトを自分自身がないがしろにしてしまう感覚も人間あるあるのような気がしますが。。。

結局何が言いたいんだろうね。
ああ、そうだった。
私は今疲れているんだ。

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よよ
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