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USAID問題の感想
確か25年くらい前の話になると思うが、文明の衝突という本が出されて、非常に話題になった。
本の内容を部分的に要約すると、欧州から始まった普遍主義による世界支配が終焉に向かい、それに伴って欧米の優位性も崩壊し、別のイデオロギーを主体とした世界に移行していくといったものだった。
まあ、古い話だし、また、宗教が復権するといった記述もあったので、その部分が完全に外れているから全てが予測通りになっているわけではないが、当たらずとも遠からずなのかなとも思う。
普遍主義ってのは「人類共通に適用できるもの」みたいな話で、社会制度や法体系、人類の共通の価値観があるよ、といった考え方で、例えば、自由民主主義体制は人類普遍の最善の制度ですよ、といった考え方。
自由主義思想が生まれて、フランス革命があって、自由・平等・友愛が社会の理想・理念として謳われるようになって、ところが大失敗してとんでもない事になったので、自由主義が希求したそれらの理念や理想を追求する新たなイデオロギーとして社会主義が誕生した。
世の中見てると結構勘違いしてる人がいるけど、自由主義と社会主義は必ずしも対立する概念ではなくて、それどころか実際には、自由主義では自由・平等・友愛を実現できないというので、それを目指す為に出てきた自由主義からの派生思想が社会主義というのが本当のところで、つまり自由主義と社会主義は地続きのイデオロギーだと言える。
またこの場合の普遍主義は自由・平等・友愛になる。
その後、マルクス主義と共産主義が現れて、資本主義に変わる新しい社会を作り、普遍主義の理想の実現を達成するとして、ソ連が建国されて、国際共産主義運動が起きたが、ソ連は理念とは全く逆のとんでもない国で、ここに普遍主義を目指した思想群は終焉を迎えた。
少なくとも文明の衝突の中では、ソ連による実験の失敗(共産主義の失敗)によって、欧州から始まった普遍主義は終焉したという見解になっている。
普遍主義が消滅した今、欧米のイデオロギー上の優位性が失われ、イスラム圏では宗教の復権が起きて、非キリスト教圏のアジア圏でも各国が独自に持って来た思想や宗教、価値観の復権が起きて、文明ブロック別に世界が多極化していくだろうというのが文明の衝突の主張だが、少なくとも、欧米が優位性を維持する為に必要なイデオロギーが崩壊しつつある、という点では、確かに当たっている。
ただし全世界的に無宗教が増えており、正確な時期は読めないが、無宗教が世界の最大勢力になるのは確実であり、キリスト教やイスラム教、仏教といった伝統宗教は完全に廃れて影響力を失うとするのが研究者らの未来予測である為、宗教が各地を縛るタイプのブロックが支配的になる時代は来ないだろうと考えられるが。
話を本筋に戻すが、この問題とUSAIDの話は密接に関連している。
USAIDがアメリカのネオコンと繋がりがあり、旧ソ連圏でカラー革命を先導した勢力の一つとなっており、政争をばら撒く悪の組織になっていたとか、グローバリストらが世界統一の為にUSAIDを利用していたとか、LGBTQやSDGzをばら撒く事で文化侵略を働いていたとする見方が出ているが、これらは正しくもあり、間違いでもある。
アメリカのトロツキスト・グループから、「ネオコン」と呼ばれる現在のアメリカの政治に影響力を及ぼしている新保守主義が生まれているという説がある[3]。この点をもって、トロツキズムとネオコンの根は同一であると説く論者も存在する[4]。これらはネオコンの創始者ともされるアーヴィング・クリストルやイラク戦争を推進した亡命イラク人のカナン・マキヤ(英語版)らがトロツキストだった過去、どちらも世界に武力を用いてでも理想(世界革命、自由化、民主化)を広めるという側面を根拠としている。しかし、ネオコンとトロツキズムとの「思想的連続性」という説についてはトロツキスト側から反論もなされている[5]。
なんでかっつうと、このUSAIDがやっていた事こそが、実は今説明した「普遍主義」の全世界への拡散・浸透を行ってきた、普遍主義が支配する世界に変える為の運動そのものだからだ。
1991年のソ連崩壊後、世界では、男女平等を始め、強力な平等主義政策、差別や格差の廃絶を目指す思想と政策の推進が図られたが、これらを「白色共産主義」として、アメリカの保守派、並びに日本では保守派とカルト教団統一教会らが批判し、非難してきた事実がある。
これも嘘ではないんだが、この批判には意図的に隠した部分がある。
共産主義にせよ、社会主義にせよ、自由・平等・友愛を掲げており、旧ソ連や中国等の所謂自由のない抑圧的で弾圧的な共産国を見ていると全く理解できないが、本来、共産主義ですら、思想的には個人の自由を最大限に尊重し、容認する事を善としておりあらゆる差別や偏見の撲滅、性差だけでなく、様々な問題で平等を目指す事を理念としている。
この点は自由主義も全く同じであり、自由主義と社会主義との違いは、どの部分に重点を置いているのかの違いでしかない。その為、ソ連型社会主義を放棄して資本主義経済を採用するようになった白色共産主義は、現実的な政策の面では自由主義や社会主義と全く同じであり、要するに1990年代に保守派が白色共産主義として批判し、非難していた政策群は、実際には自由主義に根拠を置いた政策群、思想群でしかなかった、というわけだ。
しかし自由主義を批判すると矛盾が生ずる為(特にアメリカの場合は、自由主義を標榜するアメリカを保守する、というのが保守主義である為、アメリカの保守主義は必然的に自由主義を保守する立場にある)、まさか自由主義政策を正面切って批判できないので、それで白色共産主義のレッテルを貼り付ける事で、それらの政策を排除、排斥しようとした。
ただそれだけの話だ。
ここまで書いて来たらわかると思うが、思想的には個人の自由を最大限に尊重し、容認する事を善としておりあらゆる差別や偏見の撲滅、性差だけでなく、様々な問題で平等を目指すというのは、普遍主義そのものであると同時に、今問題になっているLGBTQであるとか、SDGzであるとかも、その中に含まれている政策群である事が、ごく普通に理解できると思う(SDGzは環境主義の色合いも強いが、普遍主義である事は100%だ)。
USAIDは、普遍主義を全世界に浸透させ、普及させる為に、LGBTQやSDGzを強力に推進していただけの話で、純粋に人権と地球そのものの持続可能性の観点から動いていただけで、別に諸外国を侵略する為にやっていたわけではない。旧ソ連圏で結果的にカラー革命が起きた問題に関しても、旧ソ連圏では、ロシアが暗躍していて、例えばFSBや当該国の情報機関がジャーナリストを自宅でガス爆発を起こさせて暗殺するとか、選挙に介入して不正を働き、親露派が絶対に政権を維持できるように工作するとか、自由民主主義を否定する行いを働いていた為、民主化を目指す反政府勢力に援助を行っていただけだというのが真相(ただしアメリカ政府系機関の中にはデモを用いた政権転覆術を当該国において享受する等していたともされているので、支援機関の中には、親米政権の樹立の為の対外交策として行っていた勢力は存在している。これもまた事実だ)。
また、グローバリストがUSAIDを世界戦術に利用していたとか、世界政府を作る為にやっているのだといった陰謀論に関しては、USAIDはインターナショナリズムで動いており、また、内容によってはコスモポリタニズムの原理で動く事もあるとされる為、論者の視点によっては、そのように見えたとしてもおかしくない。
国際主義と訳す。ナショナリズム(国家主義,民族主義)と対立する概念で,近代国家nation stateの成立を前提として,国家の枠を超えて共通の利害や関心にもとづく行動をとる精神をさす。英語のinternationalという語は18世紀後半から用例が見られるが,internationalismの語は1850年代になって登場してくる。それは西欧の近代国際社会の成立と展開を踏まえて,19世紀中葉以降,労働者階級の連帯,統一行動(プロレタリア国際主義)として展開する。また,インターナショナリズムは広義に,国家の主権を制限して国家間の連帯と協調をめざす理念の意味にも用いられる。後者の意味における国際主義の系譜は,さらに時代をさかのぼることができるが,また今日みられるような地域的統合運動(ヨーロッパ連合など)の形をとることもある。なお,インターナショナリズムは,コスモポリタニズム(世界市民主義)とは異なる。コスモポリタニズムは各国家の現実の社会的条件を捨象して世界市民たらんとする意識をさしていう。
しかし、LGBTQやSDGzを推進される国の国民からしたら、特に反対の立場を取っている国民の視点からは「文化的侵略」に映るのも当たり前だし、カラー革命が起きた旧ソ連の国民からしたら、迷惑極まりないと感じる人達が大勢いるのは当然だと思う。
USAIDが活動を完全停止すれば、普遍主義を全世界に向けて拡散、浸透させる力が失われることになるので、その後は各地に根付く伝統的な価値観や文化が強まり、復権していく可能性も当然考えられるわけで、全世界的に各国独自の価値観や伝統、文化に基づいた社会への回帰現象が強まっていくかもしれない。
それは文明の衝突で記されていた普遍主義が支配する世界の終焉であり、欧米の優位性が崩壊する事も意味し、異なる価値観の人々が暮らす本来の意味での多文化社会への移行を意味しているのかも知れない。
学者の成田悠輔氏がUSAIDの件を「中国の文化大革命に近い」と評したのは、恐らくこれらの点を踏まえての事だと思われるが、普遍主義とUSAIDとの関連性について理解していないと、恐らく成田氏が何故そのような主張をしたのか、理解できないだろう。
ただ、LGBTQのような問題は、医学の発達によって出てきたものだ。
昔は、医学が未発達だったせいで、人間の性別が男女しかないと考えられていたり、同性愛が病気や精神障害として取り扱われていた。
また、神が人間を作った、男女作ったとする宗教の問題もあった。
実際には人間の性別はもっと複雑で、その科学的知見に基づいて出てきた政策がLGBTQであって、実際に存在するものを、宗教上の問題からないものとして扱うのは単なる人権侵害であり、時間をかけて何れは社会に浸透していくものであるという面もある。
SDGzに関しても同様で、世界人口が増え続けており、資源の問題から、資源の再利用の更なる浸透と定着、省エネの更なる深化が必要不可欠となっており、この問題もきちんと取り組んでいかないと、資源が枯渇してしまい、生活に重大な支障をきたしたり、最悪の場合、文明が崩壊する等の大惨事を引き起こしかねない。
これも結局はやらないといけないものだ。
また、今はインターネットの動画視聴サイトで世界中の動画を視聴する事が可能で、自国にはない自由を謳歌する海外の同年代の人達の動画が大量にアップロードされている。
それらを見る事で、自国の自由のなさや問題点が可視化され、全世界で自由な社会に向かって動く原動力になっている(だからこそ自由がない国では政府が自由にネットを閲覧させないとの対抗策を取っているわけだが)。
動画に限らず、海外のニュースが無料で読み放題になっていたり、海外の文化や価値観、伝統についても、アクセスの障壁が非常に低くなっており、AI翻訳も出て来てた事で、言語障壁すら消えつつあるので、昔のような、国境によって諸外国との情報の行き来が規制される時代ではなくなっている。
USAIDが普遍主義の拡散浸透を停止する事で、一時的には、普遍主義の拡散浸透は後退していくかもしれないが、反面、上述のような仕組みから、横の繋がりによる各国の価値観の平準化、共通化のような現象は今後もどんどん進んでいくものと見られるので、自国の文化や伝統、価値観を重視し、海外との違いを強調するような社会に向かうのか、世界中の国々が似たような価値観の中で生活を送る普遍主義的な社会に向かうのかは、読み切れないところがある。
ただ、アメリカが主導する形で推進してきた、USAIDを使用した普遍主義の拡散浸透というある種の「自由民主主義革命の輸出路線」は終焉を迎える事だけは確かだ。
アメリカが世界の警察、超大国として君臨し、世界を牽引した時代も。