2本のネクタイ
今回は、僕が車いす生活ができるよう訓練を受けた施設で知り合った「おっちゃん」を紹介します。
彼は、当時50歳くらいだった脳性麻痺の人です。
あっ!脳性麻痺というのは、生まれつき何らかの原因で脳からの指令が体全体にうまく伝わらないことから、体を動かしにくいとか話しにくいなどの「~しにくい状態」が多い状態のことだと僕は思います。
初めてお会いした時は僕まだ30歳前後だったので、かなり年齢が離れているとや車いすマン同士でもないところから、意気投合するのは難しそうだと思っていました。
それが、時間が経過していくと妙に馬が合うようになって一緒の時間を過ごすことが多くなりました。そんな彼の人間性に敬意?愛着?親しみ?を込めて、(失礼なのかもしれませんが)僕はいつも「おっちゃん」と呼んでいました。
彼は、若かりしころは脳性麻痺の症状(~しにくい状態)が比較的軽かったのか?重機を操る仕事で長年汗を流していたそうです。ところが、運悪く交通事故に合い元々あった症状が悪化したため仕事を断念せざるを得なくなってしまいます。
僕がお会いしたころは、それから年齢を重ねていたためか?歩行にぎこちなさがあり動きに俊敏性が見られなくなっていました。しばらくは自力で就職活動をしていたようですが、なかなか身を結ぶことができなかったため専門的なリハビリを受け再び就職するためにやってきたそうです。
それから数年が過ぎ、お互い施設を退所します。ただ、僕は就職先を見つけられたのですが、彼は見つけられないまま…
彼の今後が気になっていたのですが、自分のことに精一杯で気が付けば数年が経過していて…
「あれ?もしかして…おっちゃん?お久しぶりですね~」
何かの集まりで数年ぶりに彼を見かけた僕は真っ先に声をかけました。
※僕は、彼が来るのは全く知らなかったのですが、彼は僕が来るのを知っていたのかもしれません…
その帰り際、彼を助手席に乗せて家まで送ることになったのですが、いざ自宅に到着すると次回会えるのがいつになるのか気になって車内で何気ない話をして時間稼ぎを始めてしまいます。
「じゃ~オレそろそろ帰るわ…」
僕の話に飽きたのか?しばらくして彼はそう言って助手席のドアを開けようとしました。
「あっ!そうやった…これやるわ〜」
何かを思い出した彼は、一旦開きかけたドアを閉めてから茶封筒くらいの包みを取り出して渡してくれました。
「えっ?いいんですか…ありがとうございます」
家に帰ってその包みを開けてみると、そこには高級そうな2本のネクタイが入っていました。
実は以前、僕の職場で何度かお会いする機会があったのですが、いつも100円ショップのネクタイをつけていた僕のことを覚えていたのかもしれません。
施設にいたころ、彼のひたむきな姿勢にいつも感心させられていました。どんなに作業や移動に時間がかかっても、うまくすばやく発語できなくても、最後まで自分の力で自分のペースを貫く…そしていつしか物事は前へ進んでいたのです。
そんな彼ですから、確実に僕よりも自分の力でできることが多いです。しかしながら就職就職先が見つからなかったのは、実際に働いた経験や知識よりも、若さや仕事がこなせるスピードだったのかもしれません。
「どれだけ時間をかけても完璧にできればよい」とする企業は限りなく少ないのはわかります。年齢制限があるのもそうです。
そういうことに併せて社会情勢?が関係しているのかもしれませんから仕方がないのかもですが…
彼がくれた2本のネクタイ…
そこには、現代社会へ投げかける彼なりのメッセージが込められているような気がしました。
いかがでしたか?
今回送った「僕からの手紙」が、何らかの形で、みなさんのプラスになれたら、とても光栄です!これからも、たくさん手紙を送りますので、どうか目を通してほしいです。
また、スキを押してもらったっり、コメントを書いてくれたり、フォローをしてもらえたら…僕にとって励みになりますので、どうかよろしくお願いします。