湘南戦~川崎戦、全4試合を一気にレビュー
こんにちは、ユースケ@サガン鳥栖です。
別にレビューをサボるつもりは無かったのですが、首都圏の緊急事態宣言が解除されたあとくらいから大変ありがたい事にやっと仕事が忙しくなってきましてちょっとご無沙汰しておりました。
湘南戦、ガンバ戦、横浜FC戦とずっと書けてませんでしたので、これらの試合が今回の川崎戦にどう繋がっていったのか時系列で一気に追ってみようかなと思います。
■第32節 湘南ベルマーレ戦
この試合の前節、前々節に福岡と徳島相手にそれぞれ3失点。この2チームは鳥栖のパスワークに対し44ブロックをコンパクトに敷いてそれを保持しながら構え、鳥栖のリスク管理やスペース管理の甘さを突いて得点を重ねました。
その後に迎えた湘南戦。
湘南はと言うと福岡や徳島とは違いブロックを敷くというよりは、人を捕まえに前線からハードワークしボールを奪いにきます。高い位置でボールを奪いショートカウンターでゴールに迫る狙いです。
そして湘南は狙い通り鳥栖のビルドアップにプレッシャーをかけパスミスを誘い先制しました。
このシーンの鳥栖の問題点は2つ。
湘南が明らかに高い位置でのボール奪取を狙っているにも関わらず、そのゾーンで難しいプレーを選択してしまっていること。そして奪われたときの準備が疎かになっていたことです。
この試合を通して見ると、選手たちのリスク管理のポジショニングに変化もあり(特に右WH、アンカー、左CB)課題の修正に取り組んでいるのは感じ取れるのですが、この失点の場面は奪われ方が悪すぎて咄嗟に対応できずアラートさに欠けていた印象です。
一方、攻撃面は結構良かったと思います。
湘南が3バックだったこともあって、鳥栖はその脇(WBの背後)にできるスペースへボールを早めに入れます。
酒井が交代で入ってきてからはそれがより顕著になり、73分には右サイドの3バック脇のスペースへロブボールを送りそこからのクロスに酒井が合わせ追いつくことに成功。
ショートパスに拘るだけではなく、ロングボールなど相手が嫌がることであればそれをやり続ける柔軟性も見せました。
もっとも「対3バック」の戦い方に関しては既にずっと取り組んでいて、苦にすることのないクオリティまで仕上がっていましたね。
逆に言うと、福岡戦や徳島戦の様に442ブロックの相手ではないので、この2チームに喫した大敗の文脈上には無く、この時点では「対442ブロック」としてどこまで通用するのかは未知数です。
【湘南戦まとめ】
point① 相手の狙いに対して無理に突っ込んでいかない。これもリスク管理のひとつ
point② 相手の嫌がることをやり続ける。ボール保持に固執しない。
point③ ただし福岡戦、徳島戦の延長線上にはないので「対442ブロック」への評価は現時点ではできない。
■第33節 ガンバ大阪戦
続いてガンバ戦です。
またしても攻⇒守への切り替えの拙さを突かれます。
鳥栖のショートコーナーからのクロスを東口がキャッチ。その時点でガンバの複数の選手が飛び出していきます。鳥栖側も人数を残しているものの、ボールホルダーがスピードに乗ってしまっているのでチャレンジに行けずズルズル下がります。
そのままゴール前まで運ばれファーサイドでフリーで待っていた宇佐美へ。ゴールを奪われました。
とにかくここ数試合の鳥栖は攻守の切り替えで相手を上回れず後手を踏んでいます。試合後コメントで宇佐美も語っていましたが、鳥栖の切り替えの遅さのところを狙っていたと。
ただこの試合、前節湘南戦に引き続き、攻めているときの後ろのポジショニングには改善がみられています。
例えば右WHの飯野は以前は最初から高い位置を取っていましたが、ここ数試合は後ろ目にポジションを取ることが多くまずは守備を安定させ、そこから前に出て行こうとしているのがわかります。4バックのSBに近いイメージでプレーしているんじゃないかと個人的には感じます。
他にも左のCB(この試合は中野伸)は上がる必要のないときはサイドに張り出さず中央寄りに立ち位置を取ってCBとして残っています。実はこれシーズン序盤にも中野伸はやっていて実際に現地でも確認しました。
この試合、アンカーに島川、左CBに中野伸と攻撃時のバランス感覚に長けた2人を起用することで守備の立て直しを図ろうとする意図を感じることができました。
残念ながら先制されてしまった訳ですが、それ以外の場面でのポジショニングは悪くなかったと思います。
しかし各選手のポジショニングがいいだけではリスク管理としてはまだ不十分で、人がいるだけでは相手のカウンターを止めることはできません。
奪われた瞬間のファーストディフェンス(前進の妨害)や全体が下がりながらもチャレンジ&カバーの連携を取ってどこかのエリアでは相手をストップしなければなりません。その辺りの連携面はまだまだこれからと言った印象です。
今はまだ「頭ではわかっているレベル」で、これが周りと阿吽の呼吸で「体が先に反応するレベル」まで到達するのはかなり時間がかかります。
一言で「修正」と言ってもすぐに改善できるようなものでもないので長い目で見守る必要がありますね。
さて問題の「442ブロック」に対する攻撃面です。
これはもろに福岡戦、徳島戦の文脈上に乗っているので注目ポイントです。
福岡に大敗を喫してからというもの、442を採用するチームは福岡戦をことごとく対鳥栖の教科書にしてきます。
鳥栖の攻撃は中間ポジションに複数の選手がバランスよく立ち、相手の判断の迷いを誘いパスワークで崩そうとします。
それに対し44ブロックの間隔を出来るだけ狭くしタイトにすることで、大きく動かずとも鳥栖の選手にアプローチに行けるようになります。要はギャップが産まれにくい訳です。
コンパクトにしている分、逆サイドの大外レーンにスペースが出来ますが、ここへのサイドチェンジには素早いスライドで対応する。
こうして鳥栖の選手を誘い込むと鳥栖陣地には広大なスペースができるので、そこをカウンターで突いていく。
これが対鳥栖の442守備の教科書です。実際にガンバもこの試合でかなりコンパクトに陣形を保っていました。
なので鳥栖はショートパスばかりにこだわっているといつまでたっても崩すことができません。
もちろん狭いスペースでも正確なダイレクトパスがスピーディーに繋がれば崩すことも可能ですが、今の鳥栖の練度では成功確率も低いですし選手の即興性に依存するので再現性も低いです。
そこで鳥栖がやらなければならない事は「スペースメイク」
これは単純に人が動いてスペースを作ることもそうですが、DFラインの裏にボールを出して相手ディフェンスラインを下げさせて44ライン間を広げさせたり、サイドチェンジのスピードを相手のスライドより速くして相手選手間の横幅を広げたりという工夫ですね。
縦横に揺さぶり相手が大きく動けば動くほどブロックの綻びが生まれる可能性が高まるという事です。(このスペースメイクの面が最も林移籍の影響を感じるところ)
そしてそれによって生まれた綻びを見逃さず素早く突けるかというのも非常に重要です。プロチーム同士の試合ですから仮に隙が出来てもモタモタしていたらすぐに修復されてしまいますからね。チャンスは常に一瞬の勝負です。
この辺り「結構出来てるんじゃない?」と思いながら試合を見ていました。
前よりも「スペースメイク⇒そのスペースを使う意識」がかなり向上していましたし、出来た隙を素早くシンプルに突くような攻撃の意図が見えましたね。
結果的に最後までゴールを割ることは出来ず敗戦してしまいましたが、個人的には全然悲観するような内容ではなく徐々に良くなっている印象でした。
「絶対に勝てる」みたいな確信まではないですが、先制点さえ与えなければこの先良い試合が出来るんではないかという期待感が膨らんだ試合でした。
【ガンバ戦まとめ】
point① アンカー、右WH、左CBがポジショニングを修正しているが、攻⇒守の切り替えがまだまだ遅くトランジション時のファーストディフェンスが疎か。チャレンジ&カバーの連携が出来ておらずズルズル下がるだけになっていた。
point② スペースメイク⇒そのスペースを使う意識の向上。相手ブロックの綻びを素早く突くシンプルな攻撃が増えてきた。
■第34節 横浜FC戦
前から積極的に奪いにくる横浜FCに対して、無理してビルドアップせずに早めに3バックの脇(WBの背後)にロングボールを入れていく鳥栖。
湘南戦の失点の教訓が活かされていましたね。相手の狙いに無理やり突っ込んでいくのではなく、誘いに乗らないというのは非常に重要です。
守備面でも相手の狙いを外すことが上手く出来ていました。
横浜FCはここ数試合で攻撃陣が充実していてカウンターも得意なチーム。
そこで鳥栖は攻⇒守の切り替えでまずは自陣に戻ることを優先する「リトリート」を採用しました。
何試合も先制されてしまう試合が続いていたので、まずは「先制点を与えたくない」という意図があったと思われます。
CBに田代、アンカー(実際はダブルボランチでしたが)に小泉を起用したことからもこの試合の鳥栖の狙いが見えてきます。
無理に繋ごうとせずにロングボールを多用するのであれば、多少繋ぎの部分で不安があっても、人に強い田代がファーストチョイスになるのは理に適ってますし、小泉に関しても同様ですね。
チャレンジ&カバーを徹底させるにあたり、チャレンジを田代、カバーを島川にとデフォルトの役割を明確にすることで判断の迷いも少なくなります。
状況によってチャレンジ&カバーが入れ替わることも当然ありますが、基本の役割分担を明確にしておくことで連携がスムーズになります。
ボランチに関しても同様で、仙頭が攻撃、小泉が守備と役割を明確に分けることでひとまずは連携面の不安を軽減できます。
実際この試合の田代のプレーは凄く良くて、横浜FCの攻撃のキーマンであるサウロミネイロを常に監視し自由を与えませんでした。
横浜FCとしてはサウロミネイロにボールが収まるかどうかが攻撃の肝であり、ここで収まると松尾やジャーメインが飛び出してきて背後を取る動きも活発になってきます。
ですのでこのサウロミネイロを田代が潰してくれたおかげで、松尾やジャーメインの攻撃も単騎突破になりがちで飯野や大畑の対応も楽になりました。
あとは攻撃面ですが「対3バック」の戦い方に関してはかなり成熟してきましたね。意図や狙いがチーム内でしっかり共有されているのを感じます。
むしろ今は3バック相手の方がやりやすいのかもしれませんね。
ただし攻撃に時間をかけてしまうと3バックはWBが下がり5バックになるので、そうなってしまう前にシンプルに攻め切ってしまうと言うのが、今鳥栖がやっている対3バックに必要な要素です。
結果的に決定機はいくつか作ったもののゴールを奪う事はできませんでした。ただこれは監督の試合後コメントの通り最後の質は個々人で上げてもらうしかないですね。
【横浜FC戦まとめ】
point① 湘南戦の教訓から相手の狙いに付き合わないことを選択。リトリートの守備採用。
point② 田代、小泉の起用意図が明確。実際二人のプレーは良かった。
point③ 対3バックの戦い方は成熟しつつある。シンプルな攻撃で狙いを突けている。
■第35節 川崎フロンターレ戦
そして迎えた川崎戦です。
ハイライトとしては小屋松のトップ下起用と飯野の大活躍ですが、この解説に関しては試合日の夜にゲストで呼んで頂いた「くまねこチャンネル」さんでお話ししてますのでそちらを見ていただければと思います。
・小屋松トップ下起用はどういう狙いだったのか?
・飯野大活躍の理由とは?
そんなことを中心にお話しさせていただきました。
決して書くのが面倒なわけではないですよ(笑)
ほとんどこちらで喋ってしまったので、ぜひご覧ください。
川崎は相手の狙いがわかっていても、自分たちのスタイルを変えずに返り討ちにしてきます。どんな相手でも信念を曲げずにゲームを展開できるのが川崎の成熟度の高さです。
ここまで散々「相手の狙いに乗らずに柔軟に対応する」事の重要性を書いてきましたが、そうではなく「相手の狙いが分かった上でなお、それを自分たちのスタイルで上回る」ことができるのは今期のJリーグだと川崎とマリノスくらいです。
川崎がメンバーを落としていたことを差し引いても、そんなチームにガチンコで戦って勝つことができたのは誇っていいのではないでしょうか?
王者が真正面から受け止めてくれたことで、苦しかった時期に課題の克服に取り組んできた成果を遺憾なく発揮させてもらえた一戦でした。
あとがき
はい。というわけで、湘南戦から川崎戦まで一気に振り返ってみました。
今期躍進を見せたとはいえ、サガン鳥栖はまだまだ発展途上です。
1試合ずつ分断して見ていると中々変化に気づきにくいですが、点ではなく線として繋げながら各試合を考察していくとチームの変化も見つけやすくなります。
監督やコーチ陣の狙いを選手たちがどう表現しているのかを想像しながら見ると、より深くサガン鳥栖というチームを楽しめるのではないでしょうか?
今期も残り3試合。まだ多少は順位の変動もあると思うので、より良い形でシーズンを終われるといいですね。
それではまた。